人文地理
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71 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
論説
  • 矢ケ﨑 太洋
    2019 年 71 巻 4 号 p. 371-392
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/15
    ジャーナル フリー

    東日本大震災は三陸沿岸地域に大きな津波災害をもたらした。被災した地域社会は,防災集団移転などの住宅の高台移転によって津波リスクを低減した。その一方で,三陸沿岸地域では住民の転出によって人口減少の傾向にあり,地域社会は大きな再編を迫られつつある。本研究は東日本大震災後に人口減少と地域組織の改変を経験した気仙沼市浦島地区を対象として,地域社会の再編の過程と人口減少への対応について,レジリエンスの概念を用いて明らかにすることを目的とする。地域社会はレジリエンスが発揮されることにより再編され,その形態には災害以前の地域性が反映される。浦島地区は東日本大震災の津波によって大きな被害を受けたが,過去に大きな津波の被害を経験した集落は,既に住宅が高台に移転していたため被害が少なかった。被害の大きかった3集落はそれぞれ被災以前の地域組織を基盤とした防災集団移転を実施した。その過程において,被災以前に形成された集落を越えた広域な関係性が集落間の情報交換を容易にし,情報の共有が復興を促進した。浦島地区は被災後に住民の転出によって人口が減少しており,転出者が集落の行事に参加できる賛助会や,広域なまちづくり組織である浦島地区振興会を結成することで転出者との関係性を維持する。被災した地域社会はレジリエンスが発揮されることにより,災害に強く人口減少へ対応した形態に再編される。

  • 佐藤 香寿実
    2019 年 71 巻 4 号 p. 393-416
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,フランス,ストラスブールの大モスクの建設過程およびその利用を通じて,言説実践としてのスケールがいかに実質的な効果を生み出したのかについて,「スケールのパフォーマティヴィティ」の観点から論じることである。同モスクは,ライシテ(非宗教性の原則)が重要視されるフランスにありながら,異なる制度を持つアルザス・モーゼル地方法を活用し,地方公共団体からの資金援助を受けて2012年に建てられた。本稿では,人文地理学で発展してきた社会構築主義的な「スケール」視角に依拠し,スケール言説がモスクの建設過程および物質性にいかに作用したか,またモスクの利用を通じて新たなスケール言説がいかに再構築されているか,インタビューで得た語りを引用しながら分析を試みた。分析において,アクターや状況に応じて登場する複数のスケールが,「ここ/よそ」の区別に結び付けられていること,さらにスケールの言説実践を通じて,「ここ/よそ」の境界は絶えず問い直されていることが示された。

  • 南 春英
    2019 年 71 巻 4 号 p. 417-437
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本と長い歴史的関係を有する中国の地理教科書における日本に関する記述の特徴を明らかにすることを目的とする。中国の中学校地理教科書における日本に関する記述は社会的背景の変化と緊密な関係があると思われ,本稿では,中国の中学校地理教科書における日本に関する記述の変遷を通じて,その社会的背景についても探っていく。中国において1949年から2019年現在まで使用されている中学校地理教科書の日本に関する記述を量的変遷と質的変遷の双方から分析し,日本に関する記述の変遷とその特徴を検討した。その結果,1949~77年は国際情勢による政治的変化の影響を受けた時期,1978~2007年は改革開放と社会主義市場経済による経済的変化の影響を受けた時期,2008~2019年現在は日本への親近感の育成と日本経済への牽制を示した日中関係の変化の影響を受けた時期と,変遷してきたことが明らかになった。また,中国の教育は国の政策の影響を受けやすく,言い換えれば政府が教育を統制する力が強いことも明らかになった。

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