人文地理
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71 巻, 1 号
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追悼文
論説
  • 島本 多敬
    2019 年 71 巻 1 号 p. 7-28
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/23
    ジャーナル フリー

    本稿は,19世紀中期以前,近世の本屋仲間(書肆の同業組合)の活動期に出版された災害図を取り上げ,災害図の出版・改訂に影響を与えていた書肆の版権と出版活動について検討したものである。享和2年(1802)7月の淀川水害の後に大坂で出版された「摂河水損村々改正図」系統の水害図は,諸本を書誌学的に検討した結果,3つの版が存在していたことが判明した。大坂本屋仲間記録の記述によれば,この3つの版は,本屋仲間非構成員によって非公式に2つの版が出版された後,本屋仲間に所属する書肆が板木を買収し,4軒の書肆の連名で改めて公式に出版されることによって成立した。同図の板元は大坂町奉行所の御用絵師の名前を図中に示して,情報の信頼性を謳っていたとみられる。また,4書肆のうちの1軒は,本屋仲間に所属していない板元による水害図の出版を,自店の出版大坂図・河川図に対する版権侵害を理由に差し止めていた。同図の検討結果から,19世紀初頭当時の本屋仲間所属書肆は,自店の地図・地理書と関連付けた商業的な論理のもと,本屋仲間に所属しない板元による災害情報の出版をコントロールし,より詳細で「正確」な災害情報の出版を志向していたと評価される。

  • 林 泰正
    2019 年 71 巻 1 号 p. 29-51
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/23
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,近代における川舟による河川利用の変化と,それに伴う地域変容を明らかにすることである。とくに,前近代的な交通網から近代的な交通網への変化に伴う資本の流入に注目した。本研究では,第一に,木曽川中流部における川舟による河川利用の形態が鉄道の導入などに伴ってどのように変化したかを明らかにした。そして第二に,木曽川中流部の川湊である土田湊を対象として,具体的な土地利用および土地所有の変化を分析した。土田湊は,近代に地方が経験したあらゆるインパクトが詰まった地域だった。川舟が実用的な交通手段として使われていた1900年代には都市で消費される天然氷を生産する製氷場が立地した。木曽川中流部の川舟は,1910年代以降,実用的な交通手段としての役割を徐々に失っていった。その一方で1920年以降,川舟は,名古屋資本の影響下で観光資源へと転用された。さらに,1940年代に土田湊は川舟とは関係の無い東京資本の軍需企業によって所有された。以上のように,本研究は,木曽川中流部における交通網の変化に伴う資本流入と土地利用変化とをより詳細に明らかにすることができた。

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