紙面の制限から十分な例証を掲げる余裕がなく一般論に終始したため,空論をもてあそぶものという非難を蒙むらねばならぬとしても,それはいたしかたがない。説明は拙なく,書き終えて説き余した点も幾多気付かれるのであるが,すべて後考に譲り,さしあたり次の箇条をもって本論の摘要に代えよう。
1. 社会・人文現象の地理
Sui Generisの地域論については社会・人文科学の諸分野にすでに幾多の先例を認め得ること。
2. 地域論の対象たる地域の概念は,これを一種の理念型として把うべく,単なる分布論とは考えられないこと。
3. 地域構造を創出するものは基本的に歴史であり,歴史の空間的現実態こそ地域構造であると考えられること。
4. 歴史過程の根底をなすものはおそらくは人間生活であるが,人間は彼独自の社会過程の上にその生活を営む。社会過程は,人間がその環境(自然環境)に働らきかけることに始まるが,社会は人間行動の所産であると同時に,社会過程の媒介物として構能するものであり,それ故,社会の構造は,人間生活に対する環境として機能すること。
5. 以上の理由により,社会環境(Social Environment or
Milieu Social)の問題は地域論の中心課題をなすものと考えられること。
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