日本門脈圧亢進症学会雑誌
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23 巻, 2 号
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Editorial
総説
  • 榎本 大, 河田 則文
    2017 年 23 巻 2 号 p. 149-154
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
    ジャーナル フリー

    我が国の門脈圧亢進症の原因の大部分は肝硬変であり,肝硬変の成因としてはC型肝炎ウイルス(HCV)が最多である.C型慢性肝炎・肝硬変の治療はインターフェロン(IFN)を基軸に発展してきたが,2014年よりIFNフリーのdirect-acting antivirals(DAA)治療により高率にsustained virological response(SVR)が得られ,非代償性肝硬変を除くすべての症例が治療対象となった.IFN治療でSVRが得られた場合,肝線維化は可逆的で門脈圧亢進症も長期的には改善することが示されている.DAA治療による肝線維化,門脈圧亢進症の改善も非侵襲的診断法で示唆されているが,今後更に長期観察による検証の必要がある.DAA治療による肝予備能改善効果も報告され,欧米では非代償性肝硬変への使用も試みられている.今後,DAA後の肝発癌など病態進展例の頻度や背景を明らかにし,危険群を囲い込む方策の確立が望まれる.

原著
  • 西村 典久, 北出 光輝, 吉治 仁志
    2017 年 23 巻 2 号 p. 155-160
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
    ジャーナル フリー

    インスリン抵抗性は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のような糖尿病を高率に合併する慢性肝疾患における病態増悪因子であり,その制御がNASHの治療戦略となりうる.今回我々はSGLT2阻害薬が肝線維化進展を抑制しうるか否かを検討した.2型糖尿病ラットにブタ血清を腹腔内投与して肝線維化を作成し,SGLT2阻害薬であるイプラグリフロジンを投与すると,インスリン抵抗性改善とともに用量依存性に肝線維化進展が抑制された.肝線維化抑制の機序を検討するためにヒト肝星細胞株に対するイプラグリフロジンの直接的作用を検討したところ,グルコース・インスリン刺激により促進された肝星細胞の細胞増殖に対して明らかな抑制効果を示さず,線維化関連因子の抑制もみられなかった.このことからSGLT2阻害薬はインスリン抵抗性の改善により高血糖,高インスリン血症を是正することで間接的に肝線維化抑制効果を示すことが明らかとなった.

  • 和田 浩志, 江口 英利, 土岐 祐一郎, 森 正樹
    2017 年 23 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
    ジャーナル フリー

    【目的】末期肝硬変症例では,門脈圧亢進症に加えて門脈血栓・閉塞を合併することが少なくない.教室では,門脈血栓・閉塞に伴う門脈再建困難症例に対しても,“左腎静脈門脈吻合”,“下大静脈門脈吻合”,“Jump Graft”といった再建法による肝移植を施行してきたので,その成績について報告する.

    【対象と方法】2014年12月までに成人肝移植を施行した156例中,再肝移植5例を除く151例を対象とした.術前画像診断にて門脈血栓閉塞や狭窄などを認めた症例は28例(18.5%)で,そのうち門脈血栓の程度や側副血行路の発達により,門脈血流変更を伴った門脈再建を施行した症例は12例(Modified群)であった.Modified群12例と対照群139例について,2群間の背景因子,術後短期成績,腎機能の変化,生存率について比較検討した.

    【結果】Modified群12例のうち,脳死肝移植は3例で,下大静脈門脈吻合(1例),上腸間膜静脈(SMV)からのJump Graft(1例),左腎静脈門脈吻合(Renoportal Anastomosis)(1例)を施行した.生体肝移植は9例で,うち8例は発達した脾腎シャントを確認し,左内頸静脈を間置した左腎静脈門脈吻合を施行した.残る1例は脾摘後で膵下縁のSMVまで血栓を認めたため,Jump Graftを用いた門脈再建を行った.対照群との比較では,背景因子に有意差を認めず,手術時間はModified群で長かったものの,全例で間置グラフトの開存性は保たれており,門脈吻合に伴う合併症は認めなかった.長期成績では,術後1年,5年,10年生存率はそれぞれ91.7%,91.7%,76.4%であり,対照群と有意差を認めなかった.

    【結語】門脈血栓症・閉塞症を伴った末期肝硬変症例に対しても,門脈再建を工夫することで肝移植が可能である.

症例報告
  • 葉山 惟信, 三木 洋子, 福田 健, 張本 滉智, 吉田 祐士, 大久保 知美, 新井 泰央, 岩下 愛, 糸川 典夫, 厚川 正則, 金 ...
    2017 年 23 巻 2 号 p. 167-171
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
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    74歳男性.C型肝硬変で他院通院中,肝細胞癌に対し2013年に肝右葉切除術を施行した.2014年5月に肝性胸水による呼吸困難で前医入院し各種利尿剤を開始されるも,胸水コントロールがつかず週1回の穿刺排液を要した.難治性肝性胸水に対するTIPS目的で同年8月当院紹介となった.左肝静脈より門脈左枝へアプローチし8 mm Wallstentを留置した.門脈下大静脈圧較差(PSG)はTIPS前後で22.4 mmHgから11.0 mmHgと低下し,胸水は減少し穿刺排液は不要となった.しかし10月下旬呼吸困難再燃し,11月外来受診にて右胸水増加と門脈血流速度の低下を認めシャント不全が疑われた.血管造影ではシャント内の狭小化とPSG上昇(15 mmHg)を認めたため,8 mmバルーンカテーテルにて拡張術を施行し,PSGは7 mmHgへと低下した.その後は胸水排液も必要とせずに安定して経過していたが,2015年9月に脳腫瘍にて死亡となった.今回我々は肝右葉切除後の難治性肝性胸水例に対し,残存する左肝静脈と門脈左枝にシャントを造設するTIPSを施行した.右葉切除後の残肝においてもTIPSは技術的に可能であり,また保存的治療が無効な難治性肝性胸水に対しTIPSは有用と認識された.

  • 宮崎 慎一, 野田 裕之, 大廻 あゆみ, 甲斐 弦, 森田 照美
    2017 年 23 巻 2 号 p. 172-177
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
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    経口分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAAs)製剤の投与が有効であったと考えられるアルコール性肝硬変に伴った胃幽門前庭部毛細血管拡張症(gastric antral vascular ectasia:GAVE)の症例を報告する.患者は53歳女性.アルコール依存およびアルコール性肝硬変にて当院に通院中であった.黒色便にて緊急受診し,上部消化管内視鏡検査にてGAVEからの出血と診断,内視鏡的止血後に入院となった.待機的なアルゴンプラズマ凝固(argon plasma coagulation:APC)を予定していたが,再観察時にはGAVEは著明に改善していた.入院前後における治療の変更点は,低アルブミン血症に対して追加した経口BCAAs製剤のみであり,BCAAs製剤の投与がGAVEの治療に有効であることが示唆された.GAVEに対し,APCなどと共に考慮されるべき治療であると考えられた.

  • 古山 準一, 水尾 仁志
    2017 年 23 巻 2 号 p. 178-185
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
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    72歳,男性.2012年4月広範囲胆管癌に対して,左肝切除+膵頭十二指腸切除(PD)+Child変法再建施行.広範囲胆管癌(BmspiC)で右肝管断端に癌細胞を認め断端陽性であったため,同年6~8月放射線治療施行.上部消化管内視鏡検査にて,2012年5月には食道静脈瘤(EV)を認めなかったが,2013年5月にはEV(LiF1CbRC0)を認め,2015年6月にはEV(LmF3CbRC1)と増悪.同年8月肝生検施行しNASH(Brunt分類stage3, Matteoni分類Type4)と診断された.同年10月内視鏡的食道静脈瘤硬化療法施行.施行後,一時的にFlappingを認めた.PD後吻合部および挙上腸管の静脈瘤出血の報告は散見されるが,食道静脈瘤発生例は非常に稀である.本症例が肝切除を併施していることおよびPD後にNASHを合併したことが,複合的に食道静脈瘤の発生に影響したと考えられた.

  • 富安 真二朗
    2017 年 23 巻 2 号 p. 186-190
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
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    門脈圧亢進症や肝硬変を有する悪性腫瘍の合併例には治療が困難な場合が多い.今回,門脈圧亢進症を伴った巨脾症に合併した出血性胃GISTに対し脾摘を伴う腹腔鏡手術が有用であった本症例を経験した.61歳,女性が上部消化管内視鏡検査にて,胃穹隆部の4 cm大の胃粘膜下腫瘍を指摘され,精査予定であった.発熱と吐血のため,救急搬送となり,精査加療目的に緊急入院となった.肝予備能はChild-Pugh C(score 10)と低下しており,輸血などの加療を行い,全身状態は改善した.肝硬変・門脈圧亢進症に伴う,血小板減少もあり,今後も出血する可能性が高く腹腔鏡下(HALS)脾摘と腹腔鏡下胃部分切除術を一期的に施行した.術後門脈血栓予防に抗第Xa因子阻害剤とAT-III製剤を5日間投与した.引き続いてワルファリン2 mgを内服し,術後10日目退院となった.悪性が疑われる腫瘍を合併した門脈圧亢進症においても全身状態や悪性腫瘍の進展度合いなどから安全に施行可能と判断すれば早期退院が可能な鏡視下手術を考慮してもよい.

  • 林 敏彦, 松本 知博, 須田 慧, 富田 康介, 嶺 貴彦, 橋田 和靖, 長谷部 光泉, 永田 順子, 高清水 眞二, 小島 清一郎, ...
    2017 年 23 巻 2 号 p. 191-196
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/11
    ジャーナル フリー

    50代男性.肝硬変と食道胃静脈瘤のため,当院通院中であった.初回バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)後CTで,胃静脈瘤内の血流は再開通していた.血小板増加と門脈圧減少を目的に,部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)が行われた.血小板増加を確認後,B-RTOによる再治療を企図した.バルーン閉塞下逆行性静脈造影(balloon-occluded retrograde transvenous venography:B-RTV)で胃静脈瘤は描出されず.側副路として左下横隔静脈が描出されたため,コイル塞栓を企図した.左下横隔静脈内側枝と外側枝を塞栓後,下横隔静脈食道枝から造影を行ったところ左下肺静脈に連続する短絡路を認めた.これにより,門脈肺静脈吻合(portopulmonary venous anastomosis:PPVA)と確定診断した.そこでPPVA近傍までカテーテルを進めて左下横隔静脈食道枝をコイル塞栓した後に,胃静脈瘤の塞栓を行った.術後に合併症は認めず,上部消化管内視鏡で胃静脈瘤の縮小を確認した.B-RTO時にPPVAが描出されたという報告は少ない.我々は,PPVAを伴った胃静脈瘤に対しB-RTOを施行した1例を経験したため,報告する.

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