背景と目的:胃静脈瘤からの出血は致命的であるが,その治療方法に関するエビデンスは日本では確立されていない.日本門脈圧亢進症学会学術委員会は登録表による調査を行い各種治療法の治療効果を検討した.
方法:出血性胃噴門穹窿部・胃穹窿部静脈瘤全国調査の対象期間は1999年1月から2008年12月31日で,日本門脈圧亢進症学会評議員の所属する81施設に全例登録調査の記載を依頼し,31施設(38.3%)から回収された調査票を分析した.症例数は338例で,初回治療により治療方法を分類し,治療効果を評価し,合併症を集計した.
結果:組織接着剤 (CAと略す) であるヒストアクリル (83例) あるいはα-シアノアクリレート (50例) に,油性造影剤リピオドールを混合する内視鏡的硬化療法 (CA+リピオドール) が初回治療として最も多く行われ,この治療は,内科的あるいはバルーンチューブによる圧迫などの保存的治療より有意に(
P = 0.048)再出血率が低く,肺梗塞などの重大な合併症はなく,合併症による死亡はなかった.さらに,肝硬変294例を対象にした初回治療方法で,胃静脈瘤再出血について単変量解析にて有意な効果が見られたのは,CA+リピオドールとB-RTO (バルーン下逆行性経静脈的塞栓術)であり,保存的治療群を対照とするとCA+リピオドールでは,ハザード比0.214,95% CI 0.056-0.812 (
P = 0.024),B-RTOでは,ハザード比0.106,95%CI 0.017-0.659(
P = 0.016)であった.年齢・性・Child分類にて補正した胃静脈瘤再出血率の多変量解析では,保存的治療を1とした場合,有意に再出血を抑制できた初回治療方法はCA+リピオドールであり,ハザード比は0.263,95%CI 0.078-0.885 (
P = 0.031)であった.また,初回治療後,種類の異なる治療を追加する症例が多く,B-RTO・手術・オレイン酸エタノールアミンによる硬化療法などを2回目以降に追加することで,Child C以外では再出血を抑制することが期待できた.
結語:CA+リピオドールを用いた内視鏡的硬化療法は,出血性胃噴門穹窿部・胃穹窿部静脈瘤の緊急止血として安全であり最も再出血の少ない治療と考えられた.
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