肝硬変症における脾摘術後門脈血栓予防のためのAT-III 製剤の投与基準について検討した.(研究1) Ann Surg 2010;251:76-83で報告した症例を再検討し,術前AT-III値をcut-off値として門脈血栓予測のROC曲線を作成した.AT-III値61%で感度100%,特異度67%であり,当院におけるAT-III製剤投与基準の暫定値を術前AT-III値60%以下とした.(研究2) 08年4月から11年3月までに腹腔鏡下脾摘術を施行した肝硬変53例を対象とし,術前AT-III値が60%以下の症例に対して,術翌日よりアンスロビンP1500単位/日を3日間投与した.(1)AT-III非投与群では16例中7例(44%)に門脈血栓が発症したが,投与群では37例中3例(8%)のみであった(
p<0.01).(2)AT-III非投与群において,60%<AT-III<70%では,3例中3例(100%)に血栓が発症した.AT-III≧70%では,脾静脈径10mm以上の6例中4例(67%)に血栓が発症したが,脾静脈径10mm 未満では血栓は認めなかった.以上より,AT-III製剤の投与基準を術前AT-III値70%以下または脾静脈径10mm 以上とすることで,門脈血栓が予防できると考えられた.
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