日本門脈圧亢進症学会雑誌
Online ISSN : 2186-6376
Print ISSN : 1344-8447
ISSN-L : 1344-8447
22 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 水戸 廸郎, 草野 満夫
    2016 年22 巻2 号 p. 119-129
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    類まれな再生力に基づき肝臓の広範囲切除や部分肝移植という術式が成り立っている.慢性肝不全となる肝硬変で結合織に取り囲まれた肝細胞をフリーにし,分裂増殖しうる環境・脾臓に移植し新しく肝組織を再構築し,第二の肝臓で機能補助を意図した研究論文である.ラットでの基礎実験ではわずか106個単位の同系肝細胞の移植で,脾臓は移植後1年半には2/3以上が再構築肝組織に置換される.脾臓の肝臓化に我々は世界で初めて成功した.この肝化脾臓は組織学,電顕学的観察でほぼ正常の構造を呈し,物質的代謝機能,特にアルブミンの合成は再構築量に応じて機能を発現した.しかしサルでの自家肝細胞脾臓内移植の成果を得て,臨床実験を試みたが長期生着例は得られなかった.種々の基礎実験で多くの新知見を得たが,本法が治療手段になるにあたっての未解決の課題にも言及し,我々の成果が「自分の細胞で自身の病気を改善する」肝臓の再生医療への他山の石となることを願っている.

  • 橋本 直樹
    2016 年22 巻2 号 p. 130-132
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    脾摘除後の患者に発生した重症感染症は脾摘後重症感染症overwhelming postsplenectomy infection(OPSI)として知られており,起炎菌としては肺炎球菌を中心とした莢膜保有菌である.現在,脾摘後の患者に対する肺炎球菌ワクチンの投与は,かなり認知されてきているが,脾機能低下症例や部分的脾動脈塞栓術(PSE)症例で末梢血にHowell-Jolly bodyの出現した症例は脾機能低下からOPSIになる危険性があり,脾摘除と同様のOPSIに対する対応をすべきである.

原著
  • 富安 真二朗
    2016 年22 巻2 号 p. 133-138
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    門脈圧亢進症があり,腹腔鏡下(HALS)脾摘術を施行した21例を対象に巨脾症におけるHALS・自動縫合器による脾門部一括処理による腹腔鏡下脾臓摘出術の有用性を検討した.脾体積500 ml以上を巨脾(MS)群,脾体積500 ml未満を対照(C)群に分類した.MS群はC群と比較し,術前Child-Pughスコア高値(p=0.0015),BMI高値(p=0.0009)であった.またMS群はC群と比べ,平均脾体積が大きく,手術時間が延長する傾向(p=0.0630)にあり,出血量が多かった(p=0.0178).門脈圧亢進症によるHALS・脾門部一括処理は大きな合併症なく施行でき,容認されると考えられるが,巨脾に対しては肝機能も悪い症例が多く,脾臓の取り回しが困難となり,出血量が多くなり,注意を要すると考えられる.

  • 関 志帆子, 後藤 亨
    2016 年22 巻2 号 p. 139-145
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    腹水濾過濃縮再静注療法(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy;CART)は,腹水中の自己蛋白質を再静注し血漿蛋白質低下を軽減することで,難治性腹水に対する効果が期待されている.今回,難治性肝性腹水を合併しCARTを施行した肝硬変25例について,初期効果と長期効果の関係を検討した.CART3回もしくは導入後3か月を初期治療期間と定義し,その期間終了後次の施行までの日数が30日未満を初期効果不応群,30日以上を反応群と分類し,長期効果を比較した.長期効果は,観察期間内の最終CARTから直近でCART未施行期間が30日以上維持できた例を改善,それ以外を不良と判定した.結果は,初期効果反応群10例,不応群15例であった.長期効果は,反応群で改善10例,不応群で改善3例,不良12例と反応群が有意に優れていた(p<0.01).難治性腹水に対するCARTは,特に初期効果が良好であれば長期的な腹水コントロールが可能か推測できると考えられた.

  • 岩井 拓磨, 山田 岳史, 吉田 寛, 菅 隼人, 進士 誠一, 谷合 信彦, 真々田 裕宏, 内田 英二
    2016 年22 巻2 号 p. 146-151
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    【背景】Oxaliplatinを術後補助化学療法に用いることで大腸癌Stage III症例の再発率を低下させるが,本薬剤の有害事象の一つに肝類洞障害がある.類洞障害は再発や転移をきたした場合に治療のリスクが上昇する.類洞障害の診断は肝生検により行うが,類洞障害の程度が脾臓容積と有意に相関することが報告された.本研究ではFOLFOX投与前後の脾臓容積を測定することで同療法による肝類洞障害を推測した.【方法】対象は2011年1月から2013年12月に根治切除後に術後補助化学療法としてFOLFOXを施行した大腸癌Stage III, Stage II high risk群32例.VINCENTTMを用いてFOLFOX開始前,終了時,終了1年後の脾臓容積を測定した.【結果】化学療法終了時の脾臓容積は治療前と比較し有意に増加し(p=0.0003),また終了1年後の容積は終了時と比較し有意に減少した(p=0.0076).化学療法終了時には68.7%の症例で脾臓容積は増加し,1年経過後も34.3%の症例では,脾臓容積が増加したままであった.【結語】FOLFOXにより約2/3の症例で脾容積増加をきたし,このうちの半数では容積増加が1年以上継続する.脾容積増加の遷延は類洞障害の継続を示唆するため,再発時の治療の際に注意を要する.

臨床研究
  • 魚嶋 晴紀, 賀古 眞
    2016 年22 巻2 号 p. 152-158
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】肝疾患に伴う体液貯留に対するトルバプタンの利尿効果と安全性を明らかにする.【方法】当院において2013年9月より2014年9月の期間に,7日間連続でトルバプタン7.5 mgを投与された,既存の利尿薬ではコントロール不良な腹水合併肝硬変患者を対象に,薬剤投与前後の尿変化量,投与後平均1日尿量と背景因子の相関,投与前後の血液・尿検査の変化から安全性について,後ろ向き観察研究を行った.【結果】対象32例.トルバプタン投与前の平均尿量が1,272±705 ml/日に対して,投与後の7日間平均尿量は,2,329±1,289 ml/日と有意な増量が認められた(p<0.0001).投与後7日間の平均尿量は投与前平均尿量と高い相関関係が認められた(R=0.7882,p<0.0001).トルバプタン投与7日目に軽度のクレアチニン値の上昇が認められたが,重篤な合併症を認めなかった.【結論】肝疾患に起因した体液貯留に対してトルバプタンを投与したところ,有効な利尿効果が示され,重篤な合併症は認められなかった.

  • 中沼 伸一, 大畠 慶直, 林 泰寛
    2016 年22 巻2 号 p. 159-165
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    慢性肝疾患の集学的治療の一つとして腹腔鏡下脾臓摘出術が行われているが,門脈圧亢進症や脾腫を有する場合は出血のリスクを認め,安全性の考慮が必要である.当科では慢性肝疾患を有する症例に対する完全腹腔鏡下脾臓摘出術の安全対策として,①視野確保が難しくなる脾上極の授動時に2本の鉗子にて脾を背側から挙上させて視野確保する工夫,②脾門部処理では,脾上極が内側に張り出す形状を意識して自動縫合器を無理なく挿入し,③脾門部の厚さや含まれる血管径の違いに応じてステープル高さの異なるカートリッジを選択し分割処理する手技を定型化してきた.手術成績では手術時間の短縮傾向,出血量の減少傾向を認め,同手技は手術の安全性の確保や定型化に貢献できる可能性がある.しかし,完全腹腔鏡下脾臓摘出術は脾体積800~900 mlまでは遂行可能であったが,それ以上では用手補助下手術に移行が必要であり,脾体積による症例の選択が必要と考えられた.

症例報告
短報
  • 矢田 晋作, 大内 泰文, 小谷 美香, 神納 敏夫
    2016 年22 巻2 号 p. 172-175
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    経皮経肝的門脈アプローチを要する手技終了後には肝穿刺経路塞栓が必要となる.通常,ゼラチンスポンジや金属コイルを使用して塞栓するが,X線透視上,門脈,肝実質,肝外の境界が分かりづらく,塞栓物質の門脈内誤注入・誤留置の危険性がある.今回,我々はvascular closure deviceを用いた肝穿刺経路塞栓を試みた.経皮経肝的静脈瘤塞栓術後の3例,経皮経肝的門脈塞栓術後の2例,経皮経肝的門脈ステント留置術後の1例に対して本法を施行し,全例でCordis社製Exoseal®を用いたが,合併症なく塞栓することができた.本法は肝穿刺経路塞栓の一つの選択肢になりうると考えられた.

アンケート報告
テクニカルレポート
feedback
Top