日本門脈圧亢進症学会雑誌
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22 巻, 1 号
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総説
  • 太田 正之, 高山 洋臣, 渡邉 公紀, 猪股 雅史
    2016 年 22 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    1850年代から食道静脈瘤出血は知られていたが,門脈圧亢進症の概念が確立したのは1940年代になってからであった.わが国には1950年代に門脈下大静脈シャント術などの大循環シャント術が導入されたが,高率なEck瘻症候群発生のため,1960年代にはわが国では禁忌と考えられた.1960年代に選択的シャント術や直達手術などの門脈圧非下降手術が発表され,わが国では1980年代半ばまで食道胃静脈瘤の治療として広く行われていた.しかしその後,内視鏡的治療やinterventional radiology(IVR)の導入が進み,外科治療を行う機会は減少してきている.現在の外科治療の適応は内視鏡的治療やIVRで対処不能な食道胃静脈瘤や脾機能亢進症である.また1990年代以降,新たな外科治療として下腸間膜静脈左腎静脈シャント術や腸間膜静脈左門脈(meso-Rex)シャント術が開発されている.本学会員は外科医でなくても門脈圧亢進症のスペシャリストとして,外科治療にも習熟すべきと考えられる.

  • 角谷 宏
    2016 年 22 巻 1 号 p. 23-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    門脈圧亢進症領域における診療は非常にハイリスクな患者,手技が多く医療安全には特に注意が必要である.医療安全とは患者さんの安全はもちろんだが,医療従事者が法的に無防備では安全な医療が提供できるはずがない.医療訴訟の現状や医療裁判を知ることで,求められる法的な責任,医療水準などを理解することができ,それが医療安全に直結することを理解すべきである.今回はまず,医療訴訟の動向,裁判の現状を述べた.次に医療訴訟から医師に責任があるとはどういう意味なのかについて論述した.これは医療水準の変遷を述べて今求められる医療水準を示した.さらに,因果関係や期待権,医師法20条,21条,輸血拒否に関して述べて医師として知っておくべき裁判例を示した.医療訴訟を知ることで医療水準から外れた医療を行う場合にどこまでの説明が求められるのかなどを理解することができる.最後に学会への提言を行った.医療訴訟を知り正しく批判し,正しく理解することでより安全な医療を受けることも提供することもできるのである.

  • 村島 直哉
    2016 年 22 巻 1 号 p. 27-30
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    胃静脈瘤出血の頻度は少ないが致死的であるため,有効な治療方法を早期に保険収載し,全国で実施する必要がある.内視鏡的治療における組織接着剤塞栓術とB-RTOは治療開始されて20年以上の歴史があるが,症例数の少なさから,高いエビデンスを構築するに至っていない.2009年に行われた日本門脈圧亢進症学会の学術委員会による全国調査から多変量解析にて有意差が得られた内視鏡的組織接着剤塞栓術を,早期導入を要望する医療機器等に関する要望書として学会から厚労省へ提出した.審議の上,薬事承認が得られ全国で使用できるようになった.この経緯とその後の展開を解説し,今後の学会活動の参考にしていただきたい.

  • 橋本 直樹
    2016 年 22 巻 1 号 p. 31-33
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    Warren-Zeppaらは,食道静脈瘤症例に対して,遠位脾腎静脈吻合術,Distal splenorenal shunt(DSRS)を行う選択的シャント術を考案した.しかし,長期のfollow upにおいて,いくつかの症例において,シャントの選択性の喪失が報告された.この原因として脾静脈と膵との側副血行路を介して,門脈血が大循環へ流出するpancreatic siphonによると考えた.そこで,脾静脈から膵へ流入する血管すべてを結紮し遮断するsplenopancreatic disconnection(SPD)が考案された.我々も食道静脈瘤症例に対してDSRS+SPDを施行したところ,シャントの選択性が維持され,術後において,糖代謝,アミノ酸代謝の改善がみられ,末梢血のインスリン動態も有意に低下が見られた.

臨床研究
  • 本藤 有智
    2016 年 22 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    非代償性肝硬変の難治性胸腹水に対する,胸腹腔-静脈シャント(peritoneovenous or pleurovenous shunt:PVS)の有用性を明らかにする目的で,当院でPVSを留置した25例の臨床像を検討した.留置期間は11~1899日,中央値は189日であった.在宅期間は0~1816日,中央値は93日であった.PVSの留置後,体重,腹囲に有意な減少がみられ,22例(88.0%)で胸腹水の減少を認め,17例(68.0%)で利尿薬の減量が可能となった.合併症は,留置後1か月以内で臨床的な播種性血管内凝固(DIC)が5例(25.0%)にみられ,このうちDICが原因と思われる脳出血で1例(4.0%)が死亡した.1か月以降ではシャント閉塞6例(24.0%),感染2例(8.0%),血管側のチューブ脱落2例(8.0%),腹痛2例(8.0%)を認め,チューブの交換,再挿入・固定,抜去等を要した.経過不良群(効果が得られず退院不可であったか,効果はあっても退院後数日で死亡)とそれ以外の症例との比較検討では,経過不良群のBUN, Crが有意に高値であり,ChEが有意に低値であった.PVSは,非代償性肝硬変患者における胸腹水治療に有用と考えられるが,腎機能低下例では胸腹水減少効果が得られないか,得られても生存期間が短い可能性がある.

症例報告
  • 楊 知明, 波多野 悦朗, 藤本 康弘, 上本 伸二
    2016 年 22 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    肝十二指腸靭帯周囲の著明な側副血行路を認めた高度進行肝細胞癌に対する新しい手術アプローチを報告する.症例は50歳代男性.他院で,右枝から左枝におよぶ門脈腫瘍栓を伴う肝細胞癌と診断され,肝動脈注入化学療法が施行された.3クール施行後,総肝動脈の閉塞により血管内治療は不能となり,同時に出現した右副腎転移に対して放射線治療を施行した.さらにソラフェニブが導入され,セカンドオピニオン目的で当科を受診した.来院時CTでは,肝門部に著明な側副血行路を認めたが,門脈腫瘍栓は門脈本幹まで退縮していた.手術は,左肝動脈と左胃動脈吻合,肝円索を再開通し門脈バイパスを先行した.肝切離を行い,左門脈水平部から臍部の移行部で門脈を確保した後に肝十二指腸靭帯を膵上縁で,自動吻合器で切離した.肝右葉および肝十二指腸靭帯切除,肝動脈門脈胆道再建,右副腎切除を施行した.なお,門脈再建には外腸骨静脈を使用した.

  • 飯田 貴弥, 堅田 和弘, 寄木 浩行, 小西 英幸, 八木 信明, 内藤 裕二, 伊藤 義人
    2016 年 22 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    先天性疾患による門脈圧亢進症により食道静脈瘤を合併し,治療に難渋した小児2症例について報告する.症例1は9歳女児.両大血管右室起始症に対し右室流出路形成術,Fontan手術を施行後の経過観察中,吐血精査の内視鏡にて食道静脈瘤から出血を認めた.内視鏡的静脈瘤結紮術(Endoscopic Variceal Ligation:EVL)を試みたが,EVLデバイスを装着した内視鏡の挿入ができないため,出血部にクリップを留置し,止血をし得た.半年後に再度吐血のため,残存する静脈瘤に対しクリップとアルゴンプラズマ凝固(Argon Plasma Coagulation:APC)を追加し,治療を行った.症例2は3歳男児.先天性胆道閉塞症に対し肝門部空腸吻合術後で通院中,吐血精査の内視鏡にてF2,RC陽性の食道静脈瘤を認め,内視鏡的硬化療法(Endoscopic Injection Sclerotherapy:EIS)を施行した.1か月後,黒色便のため,APCを追加,その後は出血を認めていない.小児静脈瘤に対する治療方針には施設間でも差があり,今後更なる症例の集積を行い,治療の安全性,妥当性の検討を行っていきたい.

  • 福本 晃平, 下河邊 嗣人, 穴井 洋
    2016 年 22 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    症例は50歳代女性.アルコール性肝硬変,食道胃静脈瘤治療後のため通院中であった.腹部CT検査で肝腫瘍を認め,細胆管細胞癌と診断した.肝部分切除術を施行する方針としたが血小板減少を認め,術前に部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)を施行した.術後に嘔気,嘔吐,Mallory-Weiss症候群を発症したが保存的に軽快した.また,疼痛,発熱,腹水の出現を認めたが投薬治療で軽快した.PSE施行1週間後の腹部CT検査では明らかな門脈血栓を指摘できなかったが,1か月後の腹部CT検査で門脈左枝~本幹合流部に血栓を認めた.アンチトロンビンIII製剤とダナパロイドナトリウムの投与を行い,門脈血栓の消失を確認した.PSE施行2か月後に肝部分切除術を行い,術後11日目に軽快退院となった.PSE後は門脈血栓症を発症する可能性があることに留意して経過観察を行う必要がある.

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