リンパ管は組織液の恒常性維持に重要な働きを持つ.20年程前にリンパ管内皮細胞に特異的なマーカー分子が発見され,リンパ管研究は急速な発展を遂げた.肝臓のリンパ管については解剖学的に詳細な研究がなされてきたが,肝硬変等の病的状態で起きるリンパ管新生の機序は未解明であった.また,新生された肝リンパ管の役割についてもよくわかっていない.ラットを使った最近の研究で我々は,交感神経のシュワン細胞から分泌されるリンパ管新生因子vascular endothelial growth factor (VEGF)-Cがリンパ管新生を惹起するという新たな機序を発見した.現在まで末梢神経からVEGF-Cが分泌されるという報告はなく,この発見は肝臓だけではなく,他の臓器のリンパ管新生にも関与する可能性がある.
血管系とリンパ管系はからだのライフラインとして,それぞれが形態学的特徴のある独自のネットワークを作って,細胞外液・タンパク・細胞などの効率的な運搬に重要な役割を果たしている.血管は動脈・静脈・毛細血管からなる高次構造を形成して,全身に血液を循環させて組織に酸素や栄養素を供給し,二酸化炭素や老廃物を回収して,からだの成長と恒常性の維持に重要である.リンパ管は血管と密接な位置に分布して,毛細血管から組織内に出たタンパク・細胞や余剰な組織間液を吸収して血管に戻すことで,体液恒常性維持・免疫応答・脂質吸収・異物除去などに重要である.リンパ管の発生異常やリンパ節郭清を伴う手術などによって,リンパ管から静脈までの流路が途絶するとリンパ浮腫を生じる.リンパ浮腫に対しては,リンパ管細静脈吻合術によってうっ滞したリンパ液を静脈に流す治療法が開発されている.近年の研究で血中を流れる血小板が血管とリンパ管の吻合を抑制していることが分かってきた.最後に,門脈圧亢進症でみられる食道胃静脈瘤・脾腫などへの対策として,門脈血のうっ滞を抑えて,静脈瘤破綻のリスクや脾機能亢進症を抑える方法の可能性について考察する.
脾臓肝臓相関,ならびに門脈圧亢進症における脾臓の位置づけ,3D-CTによる側副血行路評価の有用性について検討した.脾臓/肝臓体積比(S/L ratio)の正常値は0.1前後であり,年齢や体格の影響を受けることなく脾肝相関を反映する有効な定量的指標になりうると思われた.また,3D-CTによる側副血行路評価と組み合わせることで門脈圧亢進症の全容を把握しうるものと思われた.門脈圧亢進症性消化管病変に対しては,出血制御に終始するのではなく,今こそ積極的に脾臓制御に介入すべきであろう.巨大脾腫に至る前にS/L ratioを評価し,この値を正常値に近づけるよう治療介入を考慮していきたい.
食道静脈瘤は主として粘膜固有層浅部,粘膜固有層深部,粘膜下層の3層を走行する静脈の拡張により形成されている.またその血流は胃体上部粘膜血流と門脈系血流の両者から供給され,門脈系血流の流入量が増加することにより食道静脈瘤の形態も増大している.食道静脈瘤に対する内視鏡的治療は様々であるが,理論的には5%EOI=EISは太い供血路塞栓に適しており,1%AS-EIS,EVL,APCは柵状血管処理に適している.5%EOI=EISは透視下の血管内注入を基本とし,EVISで治療範囲を判断,静脈瘤および供血路の塞栓を目指す.1%AS-EISは透視設備不要で血管内外注入可能であり,静脈瘤の色調と粘膜の状態で注入量を判断する.EVLは静脈瘤本体を結紮し,1条につき複数個の結紮を行うが,将来の再発防止を兼ねて柵状血管最下端部を含めて結紮することが重要となる.過去32年間に当施設で内視鏡的治療を行った食道静脈瘤923例を検討対象としたところ,食道静脈瘤症例の長期予後は基礎疾患の状態,予防的治療,治療経過中の出血により規定されていた.
食道静脈瘤の内視鏡的硬化療法施行時,貫通静脈の存在は治療中の血流停滞を妨げ完遂困難の要因となりうる.術前の超音波内視鏡検査で同定した貫通静脈をN-butyl-2-cyanoacrylate(以下NBCA)で閉鎖し(保険適応外使用),引き続き通常の硬化療法を継続する方法を考案した.対象は治療前に貫通静脈を指摘された22例で,NBCA閉鎖した9例(A群)と他方法(EVLなど)で閉鎖した13例(B群)を比較した.結果は硬化剤使用量がA群8.3 ml,B群12.2 mlでA群が有意に少なかった(p=0.038).3か月後の地固め追加率もA群22.2%,B群76.9%でA群が有意に低かった(p=0.036).A群はB群より治療時間,EIS追加回数,総治療回数,在院日数も少なく侵襲性や治療内容の面で優れていた.貫通静脈閉鎖にNBCAを使うことで,確実な血流停滞が得られ一連の硬化療法を安全に完遂し根治性を高める可能性が示された.
【背景・目的】原発性胆汁性胆管炎(PBC)における食道胃静脈瘤の評価は重要である.一方,門脈圧亢進症性胃症(PHG)も門脈圧亢進により発症し,無症候性PBCにも合併するが意義は不明で,それを明らかにするため検討を行った.【対象】PBCで食道胃静脈瘤,PHGを継続し評価しえた112例を調査した.【結果】PHG合併は,PBC診断時21例,観察期間中の出現例6例の計27例(21.9%)であった.PHG合併別では生命予後には有意な差異はなかったが,症候性への移行はPHG合併群が有意に早かった.症候性移行時点での食道胃静脈瘤合併はPHG合併群,非合併群でそれぞれ74%,40%であり,PHG合併群は門脈圧亢進症型への移行が多かった.また,PHG合併は症候性移行の独立した危険因子であった.【結語】PHGの合併は,症候性への進展,門脈圧亢進症型へ移行する可能性が高く,慎重な経過観察が必要である.
症例は63歳,男性.腹部膨満感のため前医を受診したところ腹水を指摘された.利尿剤を投与しながら,精査を予定していたが,翌月に吐血したため,当院へ紹介となった.同日,緊急で上部消化管内視鏡を施行したところ,食道胃接合部の静脈瘤から噴出性出血を認めたため,内視鏡的静脈瘤結紮術を施行した.その後に施行した造影CTにて腹水および肝動脈-門脈短絡路(A-Pシャント)を認めた.腹水は漏出性でありトルバプタンなどを投与するもコントロール不良であった.肝生検組織はほぼ正常肝であった.A-Pシャントに伴う門脈圧亢進症が静脈瘤や腹水の原因と考え,エタノールによるシャント塞栓術を計4回施行した.シャント閉塞術により,食道静脈瘤および腹水は消失した.今回A-Pシャントに伴う門脈圧亢進症が原因で静脈瘤出血,難治性腹水を来し,治療により改善を認めた症例を経験した.非常に示唆に富む症例であり報告する.
症例は69歳女性,弓部大動脈人工血管置換術の手術歴があった.当院初診の約1年3か月前に敗血症と脾梗塞で前医入院加療を要した.その後約9か月経過後に突然吐血し,食道静脈瘤破裂の診断で内視鏡的静脈瘤結紮術を施行された.同時に難治性腹水が出現し当院を紹介された.肝炎ウイルス感染の既往や飲酒歴等はなかった.造影CTと造影超音波検査では脾門部の脾動静脈瘻を指摘され,門脈圧亢進の原因と考えられた.治療法として脾動脈塞栓術を検討したが,併存していた腎機能障害や脾膿瘍発症のリスクを考慮し,脾動静脈瘻部位を含む脾臓摘出術を施行した.術後経過は良好で術後第19日に退院した.その後腹水の再貯留と消化管静脈瘤の再発を認めていない.まれな食道静脈瘤破裂と難治性腹水を来した脾動静脈瘻に対し脾臓摘出術を施行した例を経験したため報告する.
消化吸収代謝経路となる肝臓・門脈・上腸間膜静脈(SMV)・小腸絨毛毛細血管に着目し年齢との関係を検討した.対象は,造影CT施行274例のうち肝疾患を除く247例.肝臓体積と門脈・上腸間膜静脈(SMV)径を測定し,年齢・体表面積(BSA)・Albとの関係を検討した.さらに,拡大内視鏡で回腸末端絨毛毛細血管/絨毛短軸径比(C/V ratio)を計測しえた61例において,年齢とC/V ratioとの関係を検討した.年齢とBSA・Albは負の相関を認め(p<0.01),肝臓体積・門脈・SMV径は負の相関を認めた(p<0.01).C/V ratioと年齢・BSA・肝臓体積・門脈・SMV径は相関を認めなかった.加齢に伴い,BSA・Alb・肝臓体積・門脈・SMV径は減少するが,絨毛毛細血管への影響は少ないものと思われた.
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