Journal of Spine Research
Online ISSN : 2435-1563
Print ISSN : 1884-7137
15 巻, 5 号
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Editorial
原著
  • 宮田 誠彦, 坪内 直也
    2024 年 15 巻 5 号 p. 734-743
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:頚椎症性脊髄症(CSM)において,後方除圧術後の頚椎前弯減少・後弯化は治療成績の低下につながる.K-lineと前方骨性要素の距離(K-line brace height[KLBH])は脊髄前方圧迫因子を動的にも定量評価できる指標である.当院の手術症例を後ろ向きに追跡調査し,KLBH(単位mm)を屈曲位,中間位の順にA群(≧4,≧4),B群(<4,≧4),C群(<4,0<かつ<4)に分けて後方除圧術の治療効果や画像上の形態変化を比較検討した.

    対象と方法:選択基準をCSM,40歳以上,術前中間位K-line(+),後方除圧術,術後1年以上追跡可能な症例とした.臨床成績やKLBH,局所後弯角など評価できた症例は33例あり,A群13例,B群14例,C群6例に分けて比較した.

    結果:臨床成績はC群で有意に低かった.術後中間位KLBHはA,B,C群の順に大きく,中間位K-lineが陰転化した症例が2例あった(全てC群).局所後弯角≧10°を有する例はA群で有意に少なかった.

    結語:CSMの後方除圧術では,中間位K-line陰転化のリスクを考慮すると,術前中間位KLBHの安全域は4 mm以上であることが示された.

  • 谷 陽一, 中 信裕, 小野 直登, 川島 康輝, 朴 正旭, 石原 昌幸, 足立 崇, 谷口 愼一郎, 安藤 宗治, 齋藤 貴徳
    2024 年 15 巻 5 号 p. 744-752
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:我々は,胸腰椎部の化膿性脊椎炎に対しPPS固定,LLIFを中心とした低侵襲脊椎手術(MIST)を導入してきた.本稿では,当教室におけるMISTを組み入れた化膿性脊椎炎に対する治療戦略とその臨床成績を報告する.

    対象と方法:当科で治療した化膿性脊椎炎54例を後ろ向きに調査した.保存療法抵抗例には罹患椎間/椎体を挟んで2 above 2 belowでPPS固定のみを行い,麻痺のある症例は別の正中皮切で除圧を行った.感染が沈静化し罹患椎間が骨癒合に至れば抜釘を行った.後方法で感染が沈静化しない症例はLLIF手技で病巣/椎間板を郭清し腸骨移植を行った.

    結果:易感染性要因を有した症例は39例(72%),起因菌を特定できた症例は33例(検出率61.1%,グラム陽性菌30例,グラム陰性菌3例)であった.手術療法を要したものは39例で,後方法のみで治癒したのは35例,前方追加手術を要したのは4例であった.

    結語:保存療法抵抗例に対しては,罹患椎間/椎体に隣接する頭尾側椎体のPPS固定を行うことにより,病巣郭清なしに多くの症例で感染の沈静化と罹患椎間の骨癒合が得られた.

  • 高橋 康平, 橋本 功, 八幡 健一郎, 大野木 孝嘉, 菅野 晴夫, 小澤 浩司, 相澤 俊峰
    2024 年 15 巻 5 号 p. 753-760
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:胸椎OPLL術後の麻痺増悪は3割に及ぶ.近年,後方進入前方除圧術の良好な成績が報告されているが,本術式の術後麻痺増悪の詳細は不明である.

    対象と方法:胸椎OPLLに対して後方進入前方除圧術を行った24例(男14,女10,平均49歳)を対象とした.麻痺増悪の頻度,時期,再手術,回復までの期間を調べた.責任高位,BMI,罹病期間,術前JOAスコア,嘴型か,黄色靭帯骨化の有無,骨化後弯角,骨化占拠率,固定範囲後弯角,後弯矯正角,MEP導出の有無,切除椎弓数,前方除圧椎体数,硬膜損傷,手術時間,出血量を調べた.麻痺増悪あり群と麻痺増悪なし群で各項目を比較した.

    結果:術後麻痺増悪は4例(16.7%)で発生し,全例術直後だった.再手術例はなく,4例中3例は術後4週以内に,1例は術後12週で術前と同程度まで筋力が回復した.麻痺増悪あり群では術前JOAスコアが低く,切除椎弓数が多く,手術時間が長かった(p<0.05).

    結語:術後麻痺増悪の頻度は過去の報告と比べ低かった.重度脊髄障害,広範囲除圧,長時間手術が特徴であり,重篤な障害のある脊髄が腹臥位により長時間前方から圧迫されることが麻痺の原因と推測された.

  • 徳永 雅子, 兵藤 弘訓, 星川 健, 中川 智刀, 髙橋 永次, 佐藤 哲朗
    2024 年 15 巻 5 号 p. 761-770
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)の保存療法の予後不良因子に後壁損傷が挙げられる.後壁損傷の程度と外固定法(体幹ギプス,硬性装具,軟性装具)が骨癒合と椎体変形に及ぼす影響について検討した.

    対象・方法:発症から1ヶ月以内に入院治療を行った麻痺のない新鮮胸腰椎移行部OVFのうち,1年後に観察し得た224例を対象とした.後壁損傷の程度を,荷重位を反映するFlexion CTで評価し,その脊柱管内陥入骨片占拠率(占拠率)によって4群に分けた.1年後の骨癒合率および椎体前縁高,占拠率の変化を検討した.

    結果:A群(占拠率50%以上:7例)の骨癒合率は体幹ギプスで硬性装具に比べ有意に高かった(p<0.05).B群(占拠率30~50%:26例)の骨癒合率は体幹ギプスで軟性装具に比べ有意に高かった(p<0.01).C群(占拠率30%未満:164例)の骨癒合率は体幹ギプスで軟性装具に比べ有意に高かった(p<0.05).D群(後壁損傷なし)の骨癒合率は硬性装具と軟性装具で差がなかった.ABC各群において,体幹ギプスでは椎体前縁高,占拠率に改善がみられた.

    結語:後壁損傷のあるOVFに体幹ギプスは有用と考えられる.

  • 長本 行隆, 古家 雅之, 髙橋 佳史, 松本 富哉, 海渡 貴司, 岩﨑 幹季
    2024 年 15 巻 5 号 p. 771-778
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:遅発性SSIの臨床像を明らかにすべく早期SSIと比較した.

    対象と方法:対象は脊椎インストゥルメンテーション手術後SSIで追加手術を要した31例.背景因子,手術関連因子,創部・画像・血液などの診断時所見,起炎菌,インプラント温存の有無,CRP正常化までの期間など治療関連因子を調査し,遅発性SSIを術後30日以降に発症したものと定義して早期と遅発性の二群で比較した.

    結果:遅発性SSIは35%を占め,早期SSIとの比較では創部所見率とCRPが低く,画像ではCTでの溶骨性変化とMRIでの骨髄浮腫像を有意に多く認め,起炎菌はアクネ菌が多く(早期,遅発性:2例/20,5例/11),インプラント温存率は有意に低かった(早期,遅発性:100%,45%).一方CRP正常化までの期間(早期,遅発性:61日,62日),治療期間に両群で有意差はなかった.

    結語:遅発性SSIは臨床症候が乏しく潜行性に骨破壊を進め,診断時に顕著な不安定性を呈し多くでインプラント抜去を要する.術後に背部鈍痛を伴い骨癒合遷延する症例では本病態を念頭に置く必要がある.

  • 竹本 直起, 鳥畠 康充, 岡本 春平, 加藤 仁志, 小林 源哉
    2024 年 15 巻 5 号 p. 779-785
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:下肢神経症状を伴う骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)に対し,Balloon Kyphoplasty(BKP)単独療法の成績を評価した.

    対象と方法:下肢神経症状を伴うOVFに対する初回手術としてBKPを施行した34例を対象とした.術前後における患者の移動能力・神経症状・腰背部痛,追加手術の有無を調べ,BKP単独手術によってADLに支障のないレベルまで神経症状が改善した群(BKP単独軽快群)と,症状が残存し追加手術を要した群(追加手術群)に分け,術前の神経症状と画像所見を比較検討した.

    結果:全例において,移動能力スコアは術前2.2±1.1,術後1ヶ月4.3±0.8で,術後が有意に高値だった.神経症状は25例(73.5%)がADL上支障のないレベルまで改善し,9例(26.5%)は改善なしもしくは不十分で追加手術を行った.両群で術前の神経症状と画像所見ともに有意差はなかった.

    結語:下肢神経症状を伴うOVF 34例に対しBKP単独療法を施行し,神経症状は25例(73.5%)で軽快し,移動能力スコアは有意に改善した.術前にBKP単独で神経症状改善を予測できる因子を見出すことはできなかった.

  • 吉水 隆貴, 三宅 央哲, 水野 哲太郎, 野坂 潮, 石井 啓介, 渡邊 水樹, 佐々木 寛二
    2024 年 15 巻 5 号 p. 786-792
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:当院ではBESS,もしくはUBEと呼ばれる2つのポータルを作成し灌流下に行う内視鏡手術を行っている.この術式を腰椎椎間板ヘルニア術後再発にも適応しており,その有用性を検討した.

    対象と方法:腰椎椎間板ヘルニア術後再発に対しUBE/BESSヘルニア摘出術を行った15例を対象とし,初回手術内容,初回手術から再手術までの期間,手術時間,術後成績modified MacNab criteriaを調査した.

    結果:初回手術は顕微鏡下LOVE法が3例とUBE/BESSが12例であった.初回手術から再手術までの期間は最短4日から最長5年であった.手術時間は平均が64分(22~166分)であった.最終経過観察時のmodified MacNab criteriaはexcellent 27%,good 60%,fair 13%であった.

    結語:腰椎椎間板ヘルニアの術後再発に対しUBE/BESSによる椎弓間アプローチにより手術加療を行った.本報告の15例においては87%で結果は良好であり,術中合併症は認めなかった.

  • 徳本 寛人, 冨永 博之, 河村 一郎, 小倉 拓馬, 黒島 知樹, 谷口 昇
    2024 年 15 巻 5 号 p. 793-797
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:頚椎後縦靭帯骨化症に対する椎弓形成術において,頚椎伸展位におけるK-lineが術後成績へ与える影響について検討した.

    対象と方法:術後1年以上観察可能であった62名を対象とした.K-line(-)患者を頚椎伸展位でK-line(+)に変化したE-K-line(+)群,変化しなかったE-K-line(-)群の2群に分け,K-line(+)群を加えた3群間で頚椎レントゲンでの可動域,JOAスコアを比較した.

    結果:頚椎伸展ROMは3群間で有意差を認め,E-K-line(-)群においてK-line(+)群,E-K-line(+)群と比較して有意に小さかった.JOA改善率は3群間で有意差を認め(K-line(+)群58%,E-K-line(+)群50%,E-K-line(-)群27%,p=0.03),E-K-line(-)群においてK-line(+)群と比較して有意に低かった.

    結語:E-K-line(+)患者では,椎弓形成術後に良好な成績が期待できる.E-K-lineは頚椎OPLLに対する手術選択の指標として有効である可能性がある.

症例報告
  • 伊藤 不二夫, 中村 周, 伊藤 全哉, 伊藤 研悠
    2024 年 15 巻 5 号 p. 798-805
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:筆者は経胸郭性にL1/2椎体間固定術を受け,30年後にT11/12/L1,L1/2,L3/4の広範性脊柱管狭窄症に罹患した.高位診断に難渋し,また早期回復可能な低侵襲除圧法を選択した.

    症例:中度左腰臀部痛が脊椎屈曲で緩解するため,L3/4馬尾圧迫に対し,経皮的全内視鏡下左片側進入両側除圧UBDで疼痛消失した.しかし2週後に下肢筋力低下,失禁,脊椎右屈曲・右回旋で増強する強度右臀部痛の新たな円錐上部症候群が発現し,T11/12/L1の2椎間除圧を計画した.T12/L1の椎間関節は矢状面形態で椎弓幅と下関節突起が狭く,これを温存すべく,左右交互から対側への両側進入対側除圧BCDで対処した.T11/12には左UBDを施行し,症状は軽快した.ただ軽度右臀部痛,切迫尿意が残存し,後弯右回旋変形固定部L1/2の円錐症状によるものと判断し,3ヶ月後に右UBDで全快した.

    結語:脊髄・馬尾混合症状を呈する胸腰椎移行部は,一部に矢状面形態狭小椎間関節があるが,全内視鏡下両側進入対側除圧法の導入により,両関節温存低侵襲手術が完遂した.

  • 樋口 正樹, 高野 光, 高岡 宏光, 松繁 治
    2024 年 15 巻 5 号 p. 806-811
    発行日: 2024/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:悪性腫瘍の硬膜内髄外転移は稀であり,未だ確立された治療指針はない.原発巣として肺癌,乳癌の頻度が多いとされるが,大腸癌の脊髄硬膜内髄外転移の報告は少ない.

    症例:5年前に直腸癌手術の既往があり,今回,転移性硬膜内髄外腫瘍により腰痛,両下肢痛,急性の対麻痺及び膀胱直腸障害を生じた69歳男性に対して手術治療を施行した.MRIではL2椎体レベルで硬膜内髄外腫瘍が馬尾神経を高度に圧排していたが,手術では馬尾神経との癒着はなく,硬膜内層とくも膜の一部と共に腫瘍を全切除できた.術後4週間で自立歩行が可能となり,2年2ヶ月後の原病死まで高い活動性を維持した.

    結語:転移性硬膜内髄外腫瘍は一般に予後不良とされるが,手術治療は,生命予後改善は困難であっても生活の質向上に貢献できる場合がある.本疾患においても,症例により手術治療を検討する必要がある.

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