Journal of Spine Research
Online ISSN : 2435-1563
Print ISSN : 1884-7137
13 巻, 2 号
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Editorial
総説
  • 加藤 欽志, 伊藤 紀治, 野澤 一貴, 菊地 臣一, 紺野 愼一
    2022 年 13 巻 2 号 p. 67-86
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    腰痛の原因は多岐に渡るため,原因や病態に応じた適切な治療が求められる.腰痛に対する薬物療法の選択肢は多く,その有用性に関してはシステマティックレビューも多数実施されている.しかし,システマティックレビューに採用されるプラセボ対照ランダム化比較試験の結果は,厳格な適格基準により一般化可能性が限定されており,システマティックレビューの結論も実臨床で観察される結果と一致しないことがある.そこで今回我々は,国内外のエビデンスを網羅的に収集して腰痛および坐骨神経痛に対する薬物療法の有用性を検討するため,実薬同士のランダム化比較試験や観察研究も含めて体系的に文献収集を行い,ナラティブレビューを実施した.今回得られたエビデンスは総じて現行のガイドラインの推奨に沿うものであったが,エビデンスが依然不十分である薬物療法も存在した.今後も知見集積の継続が求められる.本稿が患者の病態に応じた適切な薬剤選択に役立つことを期待する.

原著
  • 橋本 朋久, 宇野 耕吉, 鈴木 哲平, 伊藤 雅明, 山本 修士
    2022 年 13 巻 2 号 p. 87-95
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:神経合併症は脊椎脊髄手術にとって回避すべき合併症の一つである.本研究では,マルチモダリティを用いた術中脊髄モニタリングと術中対応策の効果を調査した.

    対象と方法:成人脊柱変形手術272例で使用した経頭蓋刺激筋誘発電位(TcMEP),持続筋電図モニター(fEMG),短潜時体性感覚誘発電位(SSEP)から波形変化と術後神経障害の関係を後ろ向きに観察した.

    結果:TcMEP単独22例,fEMG単独5例,TcMEPとfEMG30例,TcMEPとSSEP1例のAlertを認めた.手術操作の一時中断,除圧追加,ロッドの一時抜去,麻酔調整,昇圧,輸血などの術中対応策を施行したが,手術終了時に波形の回復を認めなかったTcMEP単独11例,TcMEPとSSEP1例,TcMEPとfEMG18例のうち,17例(56.7%)にて術後神経障害を認めた(全症例中6.3%).モニタリング精度は感度100%,特異度92.9%,陽性的中率48.6%,陰性的中率100%であった.

    結語:神経合併症の軽減には,マルチモダリティを用いた術中脊髄モニタリングの適切なAlertと術中対応策が必要であると考えられた.

  • 安部 真人, 宇野 耕吉, 川北 晃平, 鈴木 哲平, 伊藤 雅明, 山本 修士
    2022 年 13 巻 2 号 p. 96-101
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:思春期特発性側弯症に対する胸椎ペディクルスクリューは広く普及している手技で,具体的な方法は用手的,X線透視下,ナビゲーション下など施設により様々である.我々は一貫してball tip probeを用いた用手的screw刺入を行ってきたので,術者間での逸脱率につき比較検討した.

    対象と方法:2008年1月から2019年7月までに手術を行ったAIS 804例の内,Lenke 1に分類される100症例を熟練した術者1名による初期の50例(A群)とその術者より指導を受けた術者4名による最近の50例(B群)に分け対象とした.ball tip probeを用いたフリーハンドテクニックにより刺入し,CTで刺入位置を評価した.逸脱方向を内側,外側,前方に分類し,逸脱の程度をGrade分類した.

    結果:逸脱率はA群3.6%,B群3.4%であり,重大な合併症は認めなかった.

    結語:フリーハンドテクニックを用いた胸椎pedicle screw刺入手技は,適切な指導環境下では逸脱率もナビゲーション下手術と遜色なく,かつ術者間での逸脱率誤差を小さくすることも可能な,安全,安価な手術手技である.

  • 相庭 温臣, 門田 領, 望月 眞人, 糸井 陽
    2022 年 13 巻 2 号 p. 102-109
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:嚥下障害は頚椎前方除圧固定術後の注意すべき合併症であるが,発症因子を分析した報告は少ない.発症回避や対応に役立てることを目的とし,頚椎前方術後の嚥下障害リスク因子の検討を行った.

    対象と方法:頚椎変性疾患に対し前方除圧固定術を施行した802例を対象とした.術後3日目以降に嚥下困難により2日以上の補助栄養を要した症例を嚥下障害ありと定義し,有ったD群と無かったN群間で性別・年齢・疾患・手術椎間数・C2を含むか・手術時間・術中出血・髄液漏の各リスク因子につき比較を行った.

    結果:嚥下障害発生は802例中21例にみられた.術後に補助栄養を施行した期間は平均22.5日間であった.D群がN群に対して有意に年齢・OPLL割合・椎間数・C2を含む率・手術時間・術中出血量・髄液漏率が高かった(p<0.05).多変量解析においては,高年齢・C2を含むことが独立して関与する因子として挙げられた.

    結語:頚椎前方除圧固定術後の嚥下障害の危険因子として,高齢・OPLL・多椎間・C2を含む・長い手術時間・術中出血が多い・髄液漏が挙げられ,高年齢とC2を含むことは,特に重要な因子である.

  • 小圷 知明, 小野田 祥人, 大柳 琢, 相澤 俊峰
    2022 年 13 巻 2 号 p. 110-118
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:化膿性脊椎炎重症例に対して,敗血症診療ガイドラインを遵守するとともに,明確な目的・適切なタイミングを意識した整形外科的治療介入を行った.診療の実際と治療成績を調査した.

    対象と方法:2008年4月以降10年間に東北大学病院高度救命救急センターで治療した,椎体周囲・硬膜外腔に膿瘍を形成した化膿性脊椎炎重症例27例を対象とした.電子カルテから診断・治療内容,画像所見,ガイドライン遵守の有無,転帰等を調査した.

    結果:全例でガイドラインを遵守した初期対応が行われ,1例を除き起炎菌を同定した.穿刺・ドレナージ術を25例(93%),手術を18例(67%)に行い,1例が死亡,26例が生存退院(自宅退院5例,転院21例)した.

    結語:敗血症診療ガイドラインに基づいた初期対応に整形外科的治療介入を加えた当施設の包括的治療戦略を呈示し,その結果を報告した.

  • 小西 一斉, 佐野 秀仁, 長谷川 雅一, 高橋 雅人, 市村 正一, 細金 直文
    2022 年 13 巻 2 号 p. 119-125
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:中下位頚椎脱臼骨折は生命・機能予後に影響を及ぼす疾患であり,その麻痺改善に関与する因子の過去の報告は様々である.本研究の目的は当院で手術を施行した中下位頚椎脱臼骨折症例を後ろ向きに調査し麻痺改善に関与する因子を明らかにする事である.

    対象と方法:中下位頚椎脱臼骨折の診断で手術を施行し,半年以上経過観察可能であった15例を麻痺改善群と麻痺非改善群の2群に分類し,年齢,受傷から整復までの時間,受傷から手術までの時間,AISの推移,受傷時の局所後弯角,損傷高位椎体間転位距離,椎間板脊柱管内占拠率,SLIC scoreについて2群間で後ろ向きに比較検討した.術後平均経過観察期間は10.5ヶ月(6~41ヶ月)であった.

    結果:麻痺改善群6例,麻痺非改善群9例であった.2群間に有意差を認めたのは受傷から整復までの時間のみで,麻痺改善群が有意に短いという結果であった(p = 0.027).特に受傷から12時間以内に整復し得た症例で有意に麻痺を改善しやすい結果であった.

    結語:本研究の結果からも過去の報告と同様に早期に脱臼を整復する事で麻痺の予後を改善できる可能性があると考えられた.

  • 高宮 成将, 土屋 勝, 久保田 光昭, 金 栄智, 乾 哲也, 大野 隆一
    2022 年 13 巻 2 号 p. 126-131
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:Balloon Kyphoplasty(BKP)でのセメント漏出は,重大な合併症を引き起こす可能性があるが,術前画像で血管系への漏出リスクを予測する報告はなかった.本研究では,BKP術後のセメント漏出リスクを術前CTで予測可能か,また術後血管内塞栓について検討した.

    対象と方法:対象は2016年11月から2019年9月に急性期骨粗鬆症性椎体骨折に対しBKPを施行した81例.骨折分類に杉田分類を用いた.術前CTで椎体骨皮質破断の有無,術後CTでセメント漏出の有無を評価した.

    結果:セメント漏出群は23例(28.4%)だった.終板ずれ型は,他の型に比べ有意にセメント漏出が多く(p = 0.0072),椎体骨皮質破断ありでの漏出群の割合は35.6%であり,破断なしに比べ有意に高値だった(p=0.015).また,椎体周囲静脈叢へのセメント塞栓についても全例が終板ずれ型だった.

    結語:術前CTで椎体骨皮質破断が見られる場合は,セメント漏出が有意に多かった.血管内へのセメント塞栓については,終板ずれ型が危険因子である可能性が考えられる.

  • 山本 祐樹, 村越 太, 成山 雅昭
    2022 年 13 巻 2 号 p. 132-136
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:当院における骨粗鬆症性椎体骨折症例について調査すること.

    対象と方法:交通事故及び発症時年齢60歳未満を除き骨粗鬆症性椎体骨折の診断で入院した175例199椎体に対し,発症時年齢,性別,BMI,骨折椎体高位,発症機転,脆弱性骨折の既往,骨粗鬆症薬の使用,発症前の内科併診の有無,入退院時の生活環境について後ろ向きに調査した.

    結果:平均年齢は82.8歳,性別は男性37例,女性138例.平均BMIは21.5,骨折椎体高位はL1が51例で最多であった.非転倒は49%(86例),脆弱性骨折の既往は脊椎が114例で最多であった.骨粗鬆症薬の使用率は全体では26%(45/175例)で,初回骨折11%(6/56例),既存骨折は33%(39/119例)であった.内科併診ありは89%(156例)であった.生活環境は入院時が自宅87%,施設13%,退院時が自宅61%,施設30%,その他9%となった.

    結語:入院時の骨粗鬆症薬の使用率は26%であった.骨脆弱性を有する患者の受傷は歩行能力の低下を起こしやすく,受傷前からの骨粗鬆症対策を行う必要がある.

症例報告
  • 佐々木 大雄, 三宅 敦, 安田 明正, 北村 和也, 寺本 裕明, 天野 翔太, 遠藤 想, 今井 大輔, 栗田 洋平, 千葉 一裕
    2022 年 13 巻 2 号 p. 137-143
    発行日: 2022/02/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:全て自己血から精製される全自己フィブリン糊は,ウイルス感染やアレルギー反応などの懸念がある市販フィブリン製剤や,以前より使用されていた用手法での自己フィブリン糊と比較してより安全であるが,その使用報告はまだ少ない.今回硬膜内腫瘍摘出時に全自己フィブリン糊を使用した3例を経験したので報告する.

    症例:2020年3月から7月に硬膜内腫瘍摘出術を施行した3例でいずれも馬尾腫瘍であった.術前に自己血400 mlを貯血し,CryoSeal Systemを用いてフィブリノゲンを含む自己クリオプレシピテート及び自己トロンビンを作成した.手術は腫瘍を摘出した後,硬膜を連続縫合し,polyglycolic acid(PGA)シートと全自己フィブリン糊で硬膜縫合部を被覆した.3例とも術中に髄液の漏出は認めなかった.1例で術後にドレーンから髄液様の排液を認め,頭痛を訴えたが,数日で自然軽快した.いずれの症例も術後MRIで髄液漏を認めなかった.

    結語:全自己フィブリン糊は同種血製剤を使用することによるウイルス感染やアレルギー反応のリスクを避けられ,より安全である.今後は硬膜修復だけでなく,止血目的での使用など適応を拡大し有効性についてさらに検討していきたい.

訂正文
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