腰部脊柱管狭窄症,特に変性すべり症を伴う症例に対する固定手術必要性の結論は出ていない.当院では低侵襲な内視鏡下除圧術のみを行っている.固定手術を追加する理由としてよくあげられるのは,変性すべり症に伴う腰痛の存在である.この腰痛は,除圧術のみでは改善が期待できないため,固定術を行って変性すべり症自体を加療する必要があるという理由である.
目的:本研究の目的は,腰部脊柱管狭窄症手術症例において,腰痛と変性すべり症の関係を調査し,さらに固定をしない除圧術のみによって腰痛の改善が得られるかどうかを検証することである.
方法:当院でL4/5椎間のみに内視鏡下除圧術を行った腰部脊柱管狭窄症213例を対象とした.L4椎体の5%以上の前方すべりを変性すべり症と定義すると,非変性すべり症群(NDS群)84症例,変性すべり症群(DS群)129例に分類された.DS群は,平均すべり度(%):16.8(5~35),平均%スリップ(前後屈でのすべりの変化量):4.9(0~14),Meyerding分類1度84%(109例),2度16%(20例)であった.検討①:全症例に対してすべり度や%スリップが術前腰痛numerical rating scale(NRS)と相関関係があるかについて検討した.検討②:NDS群とDS群間において,術前・術後腰痛NRSの差があるかについて検討した.検討③:術前腰痛NRSが7以上の腰痛重症例に症例を限定して,検討②と同様の検討を行った.
結果:検討①:すべり度や%スリップのいずれも,術前腰痛NRSと相関関係は見られなかった.検討②:NDS群とDS群間で,術前・術後腰痛NRSに差はなかった.検討③:腰痛重症例においても同様の結果であった.
考察結論:すべりの有無,程度によって,術前術後共に腰痛の程度に差がなく,除圧術のみで改善が見られた.術前腰痛が強い症例も同様であった.これらの結果からは,変性すべり症合併において,固定術を追加する理由としては術前の腰痛は不十分であると考えられた.
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