本報告は, 1981年8月9日から同年9月5日まで, 文部省科学研究費補助金 (海外学術調査) と日本学術振興会およびインドネシア共和国文部省による学術交流事業として「インドネシア共和国, ランポン州を中心とした水田及び畑地の農業生態学的調査」の合同調査の一環として行われたものの一部である.
本調査は, インドネシア, ランポン州の乾季における水稲の葉面積指数, 水稲群落内への光の透過, 生産構造, 根の暗呼吸並びに分級等の側面から作物栽培学的に生育の実態を把握するために行ったものである.乾季の初めに植付けられた水稲は穂ばらみ期から登熟期に達していた.全乾物重 (葉+茎+穂+根) は, 在来品種が最大値を示した.PelitaとIR36は同じ程度であった.葉面積指数ではPelitaの方が高い値を示した.分枝根密度は, 第2次根および根の分級IVと高い正の相関関係が認められた.
根の呼吸活性としての酸素消費量は, 品種間でかなり相違がみられ, 概して, Pelitaは高い値を示し, 在来品種の中では, Ketanが著しく高く, Gajah MenurやNyampahは低い値で, IR36と同じ程度であった.
葉の層別分布は, Ketanが40~120cm層にその大部分が位置しているのに対して, IR36は15~50cm層にもっとも多く, 茎の分布においてもKetanが110cmまで位置し, IR36は45cm程度であった.また, Ketnaは穂量が大きいのに対して, IR36は小さかった.群落内への光の透過は, IR36は30cm層で, 急げきに光が減少したのに対して, Keatnは, 群落内への光の透過が滑らかで, 葉面積指数の大きい割には, 光の透過が良好であり, 地表面における光の到達率でもIR36が7%に対して, Ketanは14%であった.吸光係数の値でもKetanが0.29に対して, IR36は0.43のごとく, Ketanの方が光の透過が良好であった.Ketanは草丈が高く, 幹が太く, 頑丈であり, 葉身も強固であることが光の透過を良くしているものと考えられる.光の透過がよいことが, 第4および第5葉位まで緑色が維持され, いまだ光合成生産に貢献しているものといえよう.また, 止葉から第4葉位まで, ほとんど同じ程度に気孔が開いており, IR36に見られるごとく, 下位葉の枯れ上りが著しく, かつ, 気孔の閉塞が起こっている場合とは著しく異なるものであった.
インドネシア, ランポン州において, 水稲の根の黒色化したものが, ほとんど見られなかったことは, 熱帯における水稲が, 栄養不足の状態, つまり肥料不足あるいは有機質肥料の急速な分解により, 硫化水素や有機酸等の根に有害な物質の残存がないことによるものと考えられ興味あることであった.
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