熱帯農業
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41 巻, 4 号
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  • 渡邉 巌, 寺尾 富夫
    1997 年 41 巻 4 号 p. 221-228
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    耐乾性極強と評価されたササゲ (Vigna unguica/ata (L.) WALP.) の遺伝資源を降雨の無いスーダン・サヴァンナ (Kano, Nigeria) の乾季現地圃場に栽培して生産力を評価した. また深根性の重要性を評価するため, 根圏が限定されるポット栽培を行い, 耐乾性が異なる系統の水ストレス下での乾物生産を比較した.
    現地圃場試験では, 極強系統 (TVu 11979, 11986, 12348) はいずれも1t/ha程度の収量性を示したのに対し, 極弱系統 (TVu 7778, 8256, 9357) では0.2-0.3t/haにとどまった. このことから耐乾性の評価結果は信頼し得るものであり, 極強の系統を用いれば乾季にササゲを実用的に栽培することが可能であることがわかった.
    水分ストレス下のポット試験では, 乾物生産の阻害程度は耐乾性極弱・極強の系統問で等しく, 極強系統での阻害程度が小さいということはなかった. また, 登熟期における乾物の諸器官への分配率は系統間で著しく異なり, 極強のTVu11979では根への分配が多く, 莢実への分配は少なかったのに対し, 極弱のTVu9357では根への分配が少なく, 莢実への分配は多かった.
    これらの二つの実験から, 乾季の現地圃場でTVu11979等の極強系統の収量生が優れたのは, 根の生育が優れるため下層に残留する土壌水分を利用することができたためであるが, 水ストレス下のポット栽培で極強系統の乾物生産が極弱系統と同程度に阻害されたのは, ポットにより根圏が限定され, 根の生育が優れるという極強系統の特性が水収支上, ひいては乾物生産上有利に働かなかったためと推定された.
  • 渡邉 巌
    1997 年 41 巻 4 号 p. 229-234
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    スーダン・サヴァンナで見られる乾ばつは, 雨季の到来の遅れに伴い播種期が遅れるために, 作物の登熟期が大幅に乾季にずれ込むことにより発生する場合が多い.このため, 土壌水分欠乏下での根の伸長が優れていれば, 乾季の深層土壌に残留する水分を利用することができ, 被害は軽減すると思われる.耐乾性が異なるササゲ (Vigna unguiculata (L) WALP.) の幼植物を, 根の観察が可能な細いアクリルパイプをポットとして用い, 土壌水分欠乏下で育て, 最長根の伸長速度を比較した.
    耐乾性極強の系統では, 土壌水分欠乏下で最長根の伸長が抑制される程度が小さく, 下層に分布する根量の割合も対照区と変わらなかった.一方, 極弱系統では, 土壌水分欠乏下で最長根の伸長が著しく抑制され, 下層に分布する根量の割合も対照区に比べ著しく減少した.
    土壌の水分含有率 (w/w) につき, 13, 11, 9, 7及び5%の処理区を設け, 土壌水分欠乏下での最長根の伸長速度を比較した.極弱系統では, 9%区ですでに伸長阻害が認められたが, 極強系統では7%区ではじめて阻害が認められた.ある範囲の土壌水分欠乏下で根の伸長を継続しうる極強系統の特性は, 乾ばつ下では極めて有利な特性であると考えられた.
  • 福永 健二, 河瀬 真琴, 阪本 寧男
    1997 年 41 巻 4 号 p. 235-240
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    アワ在来系統に芭ける多様性と特性を明らかにする目的で在来272系統について穎果の大きさと形について調査した。ユーフシア東部の日本, 台湾凍南アジアおよび南アジアの一部のブータン, ネパーノレ, インドの一部には小型の穎果をつける在来系統が多く分布するのに対して, インドの多くの地域, パキスタン, アフガニスタン, 中央アジア, ヨーロッパといったユーラシア中西部の地域および中国では大型の穎果をつけるものが多かった.また, 形に関しては, 東アジア, 台湾本島, 南アジアの一部, 西ヨーロッパに丸いものが多かった.これらの地域のうち, 南アジア及びその周辺地域, 特にインドでは穎果の大きさ, 形ともに多様性が認められ、この地域はアワの系統分化を考えていくうえで重要であることが示唆された.
  • 村山 重俊, バーカー ザハリ アブ
    1997 年 41 巻 4 号 p. 241-250
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    マレイシアの木質泥炭土壌においてオイルパーム搾油殻焼却灰 (OPBA) の施用がトウモロコシ (Zea maysL.) の生育および土壌におよぼす影響について調べるために圃場試験を行った.酸性矯正を行わないとNPK肥料や微量要素を施用しても土壌の酸性が強いためにトウモロコシの生育は極めて悪く, 雄穂出穂前に枯死した.OPBAはカリウムに富むアルカリ性の物質でその施用は土壌酸性の矯正には効果的であったが, トウモロコシの出芽および生育に問題があった.すなわち, OPBAのアルカリ性と高濃度のカリウムによるとみられる出芽障害が認められた.また, 栄養成長期のトウモロコシにカルシウム欠乏によるとみられる“葉縁切れ込み症状”がOPBA多量施用区においてかなり多く観察され, これは高濃度のカリウムによるカルシウムの吸収抑制のためと考えられた.OPBA施用区の子実収量は苦土石灰 (GML) 施用区に比べてかなり低く, 最良の生育および最高の収量はGML施用区で得られた.OPBAとGMLの混合施用区では生育, 子実収量ともに良好であった. OPBAは水溶性が高く, アルカリ性溶液となり, 泥炭有機物を溶解することが圃場で観察され, また, この高い泥炭溶解能が実験的に確認された.泥炭土壌有機物の分解に対する影響について, 好気的培養法および圃場の土壌表面からの炭酸ガス発生量を測定して検討し, OPBAがGMLに比べて特異的に分解を促進することはなく, 両資材とも施用による土壌のpHの上昇によって分解が促進された.以上のことから, OPBAは単独施用では泥炭土壌の酸性矯正剤として優良な資材とはいえないが, 限られた量を他の石灰資材と一緒に使用することにより, 土壌酸性矯正剤あるいは肥料の代換え資材の一つとして使用できる可能性があると結論された.
  • 倉内 伸幸, 牧野 徳彦, 廣瀬 昌平
    1997 年 41 巻 4 号 p. 251-257
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    オオムギの一代雑種種子の効率的な生産に必要な技術開発研究として, 受粉生態学的研究と受粉特性の遺伝子分析を行い, 次の結果および結論を得た.
    1.昼夜間における花粉の受粉寄与率を知るために, 花粉トラップ実験を行った.昼間は花粉量が多いが, 風速も大きく, ほとんどの花粉が他花授精に寄与できず飛散する.夜間は花粉量が少ないが, 風速が小さく, 飛来した花粉が有効に他花授精に寄与することができると推定できた.
    2.外部花粉の受粉を防ぐために, 一代雑種種子の採種圃を植物で囲む場合, 3列の長稈植物のライムギを栽植すれば外部花粉の受粉を防御できることが判った.
    3.一代雑種種子を採種圃で, 純度が高く, 効率的に獲得する技術として, 雄性不稔種了親と花粉親を交互に栽植して, 採種圃の周辺に3列のライムギを栽植する方法が考案された.
    4.国内の品種・系統のほとんどが閉花受粉特性を持っていて, 国外の品種・系統のほとんどが開花受粉特性を持っていることが明らかになった.なお, 中間型を示した全ての品種・系統は渦性・密穂と並性・密穂であった.
    5.ミサトゴールデンにさつき二条を交配したF1にミサトゴールデンを戻し交配した雑種第2代の遺伝子分析結果は, 開花受粉性が劣性の単因子支配であることを明らかにした.
    6.現在の国内のオオムギ品種・系統のほとんどは閉花受粉性を示すが, 開花受粉性は単因子劣性遺伝子により支配されているので, 優良な花粉親系統の育成は困難でなく、多様な系統育成が可能であるとの結論に達した.
  • 倉内 伸幸, 古庄 雅彦, 寺島 竹彦, 谷口 きよ
    1997 年 41 巻 4 号 p. 258-263
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    1990年から1992年にチュニジアで収集したオオムギ遺伝資源について, 農業形質に関する一次特性および二次特性調査を行い, チュニジアオオムギの育種素材としての有用性について検討した.また, 収集地域別に形質の地理的傾斜があるかどうかを検討した.
    一次特性は, 300系統を調査した.供試系統は, すべて並性でかつ皮性であり, 芒が多く, 粒大であった.また, 出穂期, 成熟期, 稈長および穂長にはそれぞれ大きな変異がみられ, 日本品種と比較すると, 出穂, 成熟がやや遅く, 長稈で長穂の傾向が認められた.1000粒重は53.0gであり, 日本品種の35.4gに比べ種子が大きかった.地域別の農業形質の特徴をみると, 北部の系統は長稈で穂が短いのに対し, 南部の系統は短稈で穂の長い傾向が認められた.中部の系統は, 北部と南部の系統の中間を示した.
    二次特性は, 縞萎縮病抵抗性について, 158系統を検定し, 2系統が抵抗性を示した.縞萎縮病抵抗性を示した系統は北部および中部から収集した系統であった.うどんこ病抵抗性については, 149系統について調査し, 75系統が抵抗性を示した.北部, 中部, 南部から収集した系統から, うどんこ病抵抗性を示す系統が見出された.播性については206系統について調査した.135系統 (66%) の系統がII以下の低い秋播性, 57系統 (28%) の系統がIII, IVの中程度の秋播性で, 14系統 (6%) の系統がVI以上の高い秋播性を示した.高い秋播性を示した系統は, チュニジア西部のアトラス山脈山麓から収集された系統であり, そこでは強い耐寒性と高い秋播性が要求されるためと推定される.以上のように, チュニジアオオムギ在来種から, 多収性および耐病性育種に利用が期待される系統が見出された.
  • 倉内 伸幸
    1997 年 41 巻 4 号 p. 264-267
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    チュニジアから収集したオオムギ300系統のうち, 10系統を栽培種と交配した.そのうち2系統は, 雑種第1代の種子稔性が半不稔性であった.同様に, 花粉稔性も半不稔性であり, 花粉母細胞減数分裂第一分裂中期で1つの4価染色体と5つの2価染色体が観察された.雑種第2代では可稔性と半不稔性が1: 1に分離した.この結果は, これら2系統が1個の相互転座をもつことを示している.転座染色体を同定するため, 既知の転座テスター系統と交配を行った.雑種第1代の花粉母細胞減数分裂第一分裂中期の染色体対合を観察した.第5染色体と第7染色体をもつ転座テスター系統とのF1個体でのみ6価染色体が出現したことから, 転座染色体は第5染色体と第7染色体で起こっていることが明らかとなった.また, これら2系統のF1個体の染色体対合は7つの2価染色体が観察されたことから, 同じ染色体上で相互転座が起こったと考えられる.
  • サハ ウタム クマール, カン モハマド シュヒドゥル イスラム, ハイダー ジャミル, サハ ルパ ラニ
    1997 年 41 巻 4 号 p. 268-274
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    タマネギ (Allium cepaL.) の一品種であるTaherpuriの栽培における最適潅漑基準を設けるため, 潅漑条件の違いによる収量と水分利用について圃場試験を行った.なお, 試験はBangladeshのMadhuper Tract (agro-ecological zone No.28) において行い, 圃場容水量の90, 80, 70および60%となる潅漑区 (DFCMがそれぞれ10, 20, 30および40%) を設けた.DFCMが10%と20%の潅漑区において, そのりん茎収量はそれぞれ16.29ton/ha, 16.27ton/haであり, 無潅漑区 (6.80ton/ha) と比べて約140%高かった.また, DFCM30%, 40%潅漑区, およびpanによる水分蒸散量 (CPE) に対する割合が0.50, 0.75, 1.00の水量で潅漑を行った区のりん茎収量も無潅漑区を上回ったが, 上述の2区には及ばなかった.この2区の総水分利用量はそれぞれ263, 274mmと見積もられ, 潅漑期間中の潅漑水利用効率もこれらの区で最大となった.これより, 試験地と同様の気候条件を持つ地域において, タマネギ品種の収量ポテンシャルおよび潅漑水利用効率を最も高めるための最適潅漑基準はDFCM10~20%であることが明らかとなった.
  • 宮川 修一
    1997 年 41 巻 4 号 p. 275-285
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2010/03/19
    ジャーナル フリー
    圃場の水分条件を考慮したイネの生長・発育モデルを用いて, 東北タイにおける天水田の水利用法改善の効果を検討した。水田の一部を作付けせずにおき, この部分を作付け部分に対する集水域として用いた場合, 作付け部分の収量が向上する場合も見られるものの水田全体の生産量は常に減少するので, このような方法は有望ではないことがわかった.一方, 現在主流である移植栽培よりも直播栽培のほうが, 作付け可能作期の幅が大きくなるのみならず, 高い収量が期待できる作期の選択が可能であることから, 少ない降雨条件に適していることがわかった.
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