香辛料作物は, 数百年前から先進地域においては, 金に次いで貴重な品として珍重され, ヨーロッパの先進国は, 競ってこれを採求し, それが世界の歴史的・地理的開発に重要な足跡を印してきた.
その香辛料作物の大半の原産地は, 熱帯アジアであって, 香辛料が貴重品視された時代には互に栽培地を秘し, 種子の移動がまったく禁じられていたために産地の移動はみられなかった.その後種子の移動が行はれるようになってからは, 産地が各地に急速に広まり, 原産地を凌ぐ新生産地が各所に出現した.
このように, 香辛料作物の栽培地は, 各地に広まったが, 香辛料の生産は, 栽培的見地からみた生育の適・不適のみによって決定されるものでなく, 生産物が商品として高い価値を有するためには, 生産物に含有する成分の良否と多少が大いに問題となる.従って, 産地決定は, 商品的にみると, 生産物中に香辛主成分が良質で多量に含まれるような栽培環境条件, すなわち立地の選択が問題となるであろう.また香辛料作物の栽培や収穫物の調整に当っては, 集約的手労働を要求する面が多いから良質労働力等人的資源についても考慮を払う必要がある.その他集荷・運搬などの流通組織についても充分解析がなされなければならない.従って香辛料作物の栽培地の開発を行い, 生産の増大を計るためには, 一応既存の産地の開発に最重点を置き, 加えて栽培指導・生産物管理を円滑に行ない, 優れた生産物の作出に努力することは勿論, 集荷, 運搬などの組織を整え, 需要側の要請に応えてスムーズな供給路線の確立に努力することが香辛料作物栽培地域開発の重要課題であると考えた.
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