圧電素子の急速変形を利用した移動機構の摩擦力の大きさの影響は次のようにまとめることができる.
(1) 駆動パターン2および3では, Racは摩擦力に応じて, 移動量を最大とする最適値があり, Racを摩擦力に応じた最適値に設定すれば, 摩擦力が増大しても移動量はほとんど減少しない.
(2) 駆動パターン1および3ではTriseをある程度小さく取れば, 摩擦力が増大しても得られる移動量はほとんど減少しない.
(3) 摩擦力を大きくするとパルスレートを上げられるために, 最大速度を大きくすることができる.今回の実験では9.5mm/sが得られた.
(4) 摩擦力を大きくすることで自重に逆らって垂直な面を上ることも可能である。今回の実験では摩擦力を6.8Nのとき80gfの自重に逆らって垂直な面を上ることが可能であった.
(5) 最大負荷力は静止摩擦力に比例し, その比例係数は1/4から1/5である.
以上のことより, 本機構は摩擦力を大きくした場合でも駆動パラメータを適切な値に設定すれば一定の移動量を得ることができ, さらに最大速度, 負荷能力ともに増大させられることが明らかとなった.静止摩擦力を重力による垂直抗力のみによって発生させている移動体では水平面内の移動しかできなかったが, 磁力やばねによる力, 静電力などによって摩擦力を高めることで最高速度および負荷能力を増大させられ, 垂直な面での移動や3次元的な移動機構への応用も可能となる.これによって本機構の応用範囲の大幅な拡大が期待される.
今後は摩擦力の大きさに関連して急速変形あるいは引き戻しと急停止の際に圧電素子によって発生する力を定量的に評価したい.
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