1) 牛の過剰排卵誘起処置において, 黄体期の各期に,機能的な黄体を除去したのち, PMSとHCGのgonad-otrophin処置を実施した群, 性周期の末期の黄体が消退する時期に, 消退中の黄体を残したままgonadotrophin処置を行なった群, およびestrogenを前処置して卵巣機能を1時的に抑制したのちにgonadotrophin処置を施した群, などでは, 一定して多数の受精卵を採取することができなかった。性周期の16,7日にPMSを注射し, PMS注射後卵胞が発育を開始する時期にestradiolを注射し, 発情の出現をまって授精とHCGの静脉注射を行なう, あらたに開発した方法で, 発育程度の揃った多数の受精卵を, かなり一定して採取することができた。
2) 採卵に関する実験において, 採卵成績は, 排卵数の多寡によって異なり, 排卵数が1卵巣あたり, 18コ未満, 1頭あたり40コ未満の場合に, 採卵率が高い。また, 受精卵は, 排卵後4日目に75%, 5日目には,ほとんど大部分が, 子宮に下降するが, 屠殺や開腹手術せずに, 子宮洗滌によって採卵する場合には, 排卵後4日目, 5日目に行なった子宮洗滌では卵子を採取することが困難で, 6日目に至って初めて採卵できた例が増した。しかし, 採取された卵子の数は, きわめて少なく,まだ満足できる方法は開発できていない。また同一個体について毎日継続して子宮洗滌を実施しても, 最初の洗滌で採卵できないかぎり, その後の洗滌で卵子を採取できた例はなかった。
3) 受精卵の移植に関する実験においては, 開腹せずに牛の子宮内に卵子を移植することができる特殊な牛用の卵子移植器具を考案した。この器具は, 組になった3本のプラスチック管と, 2本の長い注射針からなり, 移植時に子宮頸管に刺激を与えることをさけるために, 膣壁を刺し貫いて子宮角に達し, 外側の針先から炭酸ガスを吹き出しながら子宮腔をさがしあて, 卵子を子宮腔に注入するように造られている。この器具を用い, 2頭の牛に受精卵を移植し, 2頭とも受胎させることに成功した。そのうち, 採卵も移植も, まったく牛を開腹することなく, 非手術的に実施した1組で, 初めて移植した受精卵から発育した子牛を生産することに成功した。この方法は, 家兎卵の牛子宮内移植や, 山羊の受精卵移植などの予備試験により, 容易に, かつかなり成功率が良く, そのうえ子宮の損傷も少なく, 牛の子宮腔に卵子を注入することができ, 移植した受精卵の受胎を妨げないことを知った。
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