実験犬32頭における発情出血,外陰部の変化およびV.S.所見は以下のとおりであった。
1.発情出血所見
発情出血開始時の漏出液は暗赤色または赤褐色,粘稠で漸次増量するが,発情前期の後半から発情期の前半で漏出液は淡赤色となり,量が減少して,発情期の後半には見られなくなった。しかし,実験犬の1/3は発情終了後も4~10日間,暗赤色,粘稠の血様粘液を少量漏出した。
2.外陰部の所見
外部陰の腫大は,早いもので発情出血開始61~70日前から徐々に始まり,21~30日前までに実験犬の約70%にみられた。この外陰部の腫大は,とくに発情前期の3~4日頃から著明となり,その後半に最高に達し,この状態を発情期の中頃まで持続し,その後徐々に縮小した。
3.Vagina18mear所見
実験犬32頭について,発情出血開始3ヵ月前から発情終了後10日まで約130日間のV.S.を観察し,次のような成績が得られた。
1)発情出血開始前:中性多核白血球,有核腟上皮細胞や角化細胞は常に少数出現しているが,後2者は発情出血の始まる約1~1.5ヵ月前から約2/3の犬において僅かに増加がみられた。赤血球は発情出血の始まる約1.5ヵ月前に数日間僅少出現し,発情出血の認められる平均7日前からV.S.中に少数出現し始めた。
2)発情前期:角化細胞は徐々に増加し,有核腟上皮細胞および中性多核白血球は,この期の後半で大部分は消失した。赤血球も前半は多数出現するが,後半は徐徐に減少した。
3)発情期:有核腟上皮細胞,中性多核白血球はこの期の後半から再び出現し始めた。中等度に出現していた角化細胞は後半から約半数の犬において減少した。不鮮明に染色された赤血球が少数出現するものや,まったく消失しているものが,それぞれほぼ同数認められた。
4)発情終了後:有核腟上皮細胞,角化細胞は少数みられるが,中性多核白血球は約半数のものにおいて一過性に増加した。また,血様粘液の漏出がないにもかかわらずV.S.中に赤血球の存在することを認めた。
以上のごとく,大部分の犬においては,V. S.中に出現する各種細胞が卵巣周期と関連して周期的に変動することを知った。しかし,若干の犬(5頭,13%)では判然とした細胞の出現消長はみられないので,V. S.のみによって発情の各期を正確に判定することは困難である。
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