1968年11月から翌年5月まで, 名古屋市および知多郡美浜町の11洞穴において越冬中の蚊成虫個体群の動態を調べ, 次の結果を得た.(1)洞穴内で越冬中の蚊797匹, 越冬直後と思われる蚊103匹, 計2属5種900匹の雌蚊が採集された.その内訳はアカイエカが最も多く約67%, コガタクロウスカが約13%で, 以下多い順にシナハマダラカ, ハマダラウスカおよびトラフカクイカであつた(表1).(2)このうち同時期に採集された9洞穴の越冬蚊群集を, 優占種の異同によつて次の3群に分けた.(a)アカイエカを優占種とする群集, (b)コガタクロウスカ・アカイエカを優占種とする群集, および(c)コガタクロウスカ・ハマダラウスカを優占種とする群集(図2).(3)洞穴内壁面に休止するアカイエカ越冬雌は, 1月に最も多く2月後半に激減し, 4月には認められなくなつた(表4, 図3).(4)夏季に捕集されるアカイエカ個体群の雌の翅長分布は正規型である(図5)が, 洞穴内越冬個体群では正規型にならず(図4), 総個体数の約90%を占める長翅群と約10%の短翅群から混成されることが明らかになつた(図6, 7, 表5).(5)越冬アカイエカの複眼の個眼数とチカイエカのそれとの比較結果(表6), および無吸血飼育で卵巣の発育が認められないことから, 長翅群・短翅群ともチカイエカの混入しないアカイエカ個体群と判定された.(6)野外水域のアカイエカ蛹を飼育し羽化させた雌成虫群および豚舎内ライトトラップで捕集した雌成虫群の翅長分布を年間にわたつて追跡した結果, 越冬長翅群と同長の羽をもつ長翅型の雌は10月以降に出現すること, 越冬短翅群は夏季個体群の残存雌に由来するものと見なしうることが明らかになつた(図8).(7)越冬アカイエカ雌を継続的に飼育した実験成績および野外成虫群の翅長分布の季節的変動に基く残存率の推定から, 長命の越冬蚊は翌年の7月まで残存することが推測された(表7).
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