1.筆者らは, 1954年12月より1955年12月まで13ヵ月間, 富士山麓北斜面の忍野入口及び籠坂峠地区で毎月調査を行い, 野鼡寄生各種恙虫幼虫の発生状況を調べた.2.捕獲鼡はアカネズミ, ヒメネズミ, ハタネズミ, スミスネズミ, ヒミズの5種で計193頭であつた.3.両地区での恙虫の種類は, fuji, kit., int., mz., pall., palp., mj., him., jap., nag., mit., Eik, Gsa, Phaの4属14種で総数5, 915疋の恙虫幼虫を採集した.1955年12月忍野入口地区でParashunsennia harnaensis 5疋の未記録種を得た.4.地域的にはC地区(忍野入口, 低地山林性)とD地区(籠坂峠, 高地叢原性)とでその恙虫相に著明な差がみられ, 前者にはfuji, kit., mj., mit., mz.などの本州低山と共通する種が圧倒的に多くみられたのに反し後者はint., pall., palp.(山中型), nag.のような北方系, ないし北海道の恙虫相と共通するものが多く見出された.5.季節的にはnag.が夏に, palp.が冬に圧倒的に多く, fujiは秋, 冬, 春に, kit.は春, 夏, 秋にかけて発生し, jap.は秋(10月)に高くて春にも少数現れmit.はこれよりおくれて12月から春にかけて出現し, int.は5, 6月に少いが, 9月をピークに長期に出現することなどそれぞれの特徴を示すことを認めた.6.宿主的には全般的にハタ, スミスの両種に多数多種の恙虫が寄生し, アカが次ぎ, ヒメ, ヒミズには少いが, ヒミズはhim., mit., Phaなど特異な種類の宿主としての特徴を示し, 全体として複雑な様相が認められた.特にpalp., int., kit., mz., Gsa, nag.などの種についてはアカよりハタ又はスミスの寄生指数が著しく高いが, jap.では逆で, fujiやmj.では3種の間に著差のない成績がえられた.7.これらの成績から恙虫各種の地域, 季節, 宿主特異性などを解釈するにあたつては, 見かけ上の差異が必ずしも単純な原因により支配されて起るものではなく, 恙虫幼虫の地表分布の不均一性にもとづく偶発的な誤差も加わつてこれらの影響が複雑にからみ合つていることを考慮すべきであろう.
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