1.東京都西郊高尾山の一水系に, 14ヵ所の観察地点をもうけ, 1956年3月から1957年2月にかけての1年間, この水系のブユ幼虫, サナギの分布構造と, その周年遷移が調査された.2.1年間の延調査地点は119点で, 採集種は2属9種に及び幼虫, サナギの合計採集数は次の通りであつた.Simulium tuberosum 4, 932, S. aokii 1, 252, S. bidentatum 1, 186, S. japonicum 313, S. subcostatum 176, S. uchidai 33, S. rufibasis 3, S. venustum 2, Prosimulium hirtipes 1. 3.本水系はブユの分布に従うと, 大体4つの大きな棲息場所群に分けられる.つまり, 下流から上流にかけて, bid, aok+tub, tub+jap, subがおのおの代表する分布帯によつて構成される.また, bid, aok, tub, jap, subという種の配列が下流から上流にむかつてみられた.4.延119地点の採集で, 90地点に幼虫またはサナギが得られ, それぞれのブユの群集構造を調べてみると, 26の型がみられた.頻度3回以上の主な群集構造型とその頻度は次の通りであつた.記号に種名の頭文字を使用する.B(3), BAT(7), AT(7), ATJ(4), T(18), TJ(6), TJS(13), TS(3), S(6). 5.ビワタキ水系に於ける幼虫, サナギの出現時期をみた所, 5型がみられた.すなわち, 通年核型(tub), 春夏型(bid), 夏秋型(aok), 冬春型(jap), 春型(sub)である.6.ブユ幼期にみられるすみわけに2つの型があつた.最下流の観察地点に於て, 4〜8月はbidが94〜100%を占めるが, 2〜3月には逆にtubが80〜100%を占め, 10〜1月には両種の勢力は伯仲した.bidは春夏型, tubは通年核型でbidが出現する時期にはtubが後退するといういわゆる第1型のすみわけと考えられた.他の種類の間では, 種間のこのような明瞭な相互作用は見られず, 恐らく第2型に近いすみわけと考えられた.7.ブユ幼期のすみわけに関与する無機環境因子について論ぜられた.今回のようなmacro-habitatを単位とした調査で, 巨視的な水系の分布構造を論ずる場合は, 「河川型」という川の属性と考えられる色々の環境因子の綜合された型で説明するのが現状では妥当と考えられた.更にmicrohabitatを単位とした精密な分析によれば, さらに個々の環境因子の役割も明らかになるものと考えられた.
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