西島・岩佐(1979,1984)は, ヒグマの糞より発生するハエ類について報告した。これらのハエは山地のみに生息することから, それらの若齢期についてはほとんど知られていない。著者らは, これらのうちイエバエ亜科に属する3種, タテヤマコミドリイエバエPyrellia tateyamensis Shinonaga, キバネクロバエMesembrina resplendens Wahlberg, ワタナベトゲアシイエバエHuckettomyia watanabei Pont et Shinonagaの若齢期を新しく記載し, 分類学上および食性上重要な形質について論じた。タテヤマコミドリイエバエの3齢幼虫は糞食性で, 近縁のDasyphora属とはextra-anal papillaeをもつことにより区別でき, 同属のコミドリイエバエP. cadaverinaとは後方気門の特徴により区別できる。キバネクロバエは, 1齢, 2齢, 3齢, とも糞食性で, 3齢幼虫は旧北区に生息するMesembrina meridianaとは前方気門の数と後方気門の特徴により区別できるが, ソ連から記載されているM. mystaceaに酷似している。ワタナベトゲアシイエバエの卵は, 典型的なイエバエ亜科型であるが, 3齢幼虫はトゲアシイエバエ亜科やマルハナイエバエ亜科の幼虫と共通の特徴をもっていた。この種の2齢は, 糞食性と思われるが, 3齢はfacultative carnivorousと考えられる。3齢幼虫のとくに口鉤の対称性, 付属片や歯板の構造, 咽頭板の形態・構造, 前・後方気門などの特徴において, タテヤマミコドリイエバエは典型的なイエバエ亜科型で, ワタナベトゲアシイエバエはトゲアシイエバエやマルハナイエバエに近く, キバネクロバエは両者の中間移行型の特徴を示した。Mesembrina属の他種の幼虫の食性については, 同じMusciniに属するクロハナイエバエ属(Genus Polietes)の幼虫と同様に不明な点が多い。
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