近年,急速に高性能化・低価格化の進むドローン(小型無人航空機)は,空撮など従来からの利用だけでなく,インフラ点検・物流・セキュリティ・農業など多分野にその利用が広がっている.現在ドローンは「目視外・第3者上空」を安全安心に飛行でき,多様な産業のイノベーションの基盤となるよう,官民を挙げた取り組みがなされている.多様性を内包するドローンイノベーションの推進で必要な安全は,経験的な取り組みでは限界があり,システム安全の系統的なアプローチが必須と考える.本稿では,ドローンイノベーション推進の取り組みを概説し,ドローンの産業応用で必須である個人保護具と飛行区域の人による管理に関する著者らの取り組みを,システム安全の観点から紹介する.
「これからの時代のシステム安全」について展望する本特集にて,本稿では建設機械の安全設計,安全運用制御に関する研究例を紹介し論じる.システム安全は,対象を“システム”と見なし,体系的,系統的,組織的かつ持続的にその安全確保に取り組むための学問体系である.システム安全では,対象システムの安全性を技術とマネジメントを統合し確保しようとするところにも特徴がある.主題に掲げた建設機械は,一般的な土木・建築工事のほか,災害時の救援から復旧工事まで幅広く活用されており,システム安全の恰好の対象となる.設計するにしろ,運用制御するにせよ,その対象とする機械にてライフサイクルを考え,使用中に起こりうることの十分な把握が大切である.建設機械は使用中動いて作業する.どう動くか,どのような力で動くかを知る動力学(ダイナミクス)が重要な役割を果たす.安全を考えると何を守るかが重要である.人を守る場合,人に危害を及ぼさないことが求められる.これからは環境等を守ることもより一層重要になる.これらの方策をシステム安全の考え方のもと合理的に検討するために,本稿で紹介するような各種シミュレータの価値は今後増してくると思われる.
最近,材料の損傷や破壊,経年劣化等を原因とした,製品事故が多発している.この様な製品事故は,PL問題等の経営や社会に対して大きな影響を与え得る.材料起因の製品事故を未然防止する為には,システム安全の概念に基づき,製品の構想設計段階から,材料に関する故障モード解析の実施が求められる.そこで著者らは,材料起因の製品事故を未然防止する手法「設計偏差法」を提案した.設計偏差法は,製品仕様に於ける設計変更 / 環境変化と材料の特性変化を対応付け,関連する材料の故障モードを論理的に導出する手法である.更に設計偏差法が機械学習手法との親和性が高いことに着目して,故障モード解析結果の妥当性を確認する「損傷・破壊モードの誤り判別法」を提案した.損傷・破壊モードの誤り判別法は,機械学習手法のサポートベクターマシンを用いて,導出された故障モードの妥当性を判定し,材料に関する知識が少ない故障モード解析者の解析支援を行う.本稿では,材料起因の製品事故がもたらす影響,故障モード解析に関する研究,設計偏差法並びに損傷・破壊モード判別分析について解説する.
システム安全におけるソフトウェア品質の重要性は今後益々増大すると考えられる.日本の鉄道信号ドメインではソフトウェア開発に際して安全性・信頼性を確保するために一般的な手法に加えて,タスク制御方式としてシングルスレッド方式を採用してきた.本稿ではこのシングルスレッド方式の概要と利点を説明し,その有効性をソフトウェア不具合データから分析した事例を説明する.その結果からは,マルチタスク方式に比べてシングルスレッド方式のほうが不具合の混入率が低い,というデータが認められている.さらに本稿では,シングルスレッド方式を発展させたタスク制御方式として開発した「排他ダブルスレッド方式」の概要と導入効果を説明する.
本稿では,「システム安全」という安全技術とマネジメントを統合的に適用する手法の体系の原子力発電分野での適用について解説するものである.安全技術の中心的思想となる深層防護の考え方は,脅威から人を守るため幾つかの防護レベルを用意して,各々の障壁が独立して有効に働くことを求めるものである.原子力発電分野では,5つの異なる防護レベルにより構築している.各レベルでは脅威を体系的・網羅的に想定することに加え,後段ほど包括的な想定が必要である.これによる原子力発電所の基本的な設計は,安全目標を参考にしながら継続的に改善がなされるべきである.深層防護の考え方に基づく基本的な安全設計を現実に確実に実現するためのマネジメントとしての統制組織,統制環境を整えるためのトップのリーダーシップが必要である.リーダーシップを発揮させるためには,トップに事故に関する経営的責任のみならず,法的責任を負わせることが有効であると考える.
労働安全は,グローバル社会,少子高齢社会,技術革新,持続可能社会など,企業を取り巻く状況の変化に伴う様々な課題を抱えている.これらの課題に対し,労働法からの取組みや現場管理からの取組みなどにより様々な取組みがなされている.このような各分野の取組みにもかかわらず,いまだに労働災害による死亡者が絶えることはない.
事故は停止が遅れた結果であり,安全は事故の前に遅れないように止めることといえる.そこには明確な論理が求められる.ここでは,労働安全を発生件数や度数率など統計的にとらえるのではなく,システム安全の観点から基礎的条件を示すとともに,労働安全のマネジメントとリスクアセスメントについての課題を示した.