この研究は, 火災に対する都市の防災計画について, その計画としての評価方法の確立を目的としたものであり, ここでは評価値の定量化及び算出方法についての理論的な考察を行う。一般に計画の評価というものは, それが実際に運用された場合に目的をどれだけ遂行できたかにより判断されるわけであるが, ここでは火災に対して人の安全の確保を計るためにとられる一連の活動をシステムとしてとらえ, 計画とは「システムとしての目的を最大限に発揮できるように, システムの状態を決定する変数値の設定, 操作である」という立場をとるものとする。従って計画の評価というものは, そこで決定された操作変数の値により, システムとしての目的がどの程度の確率で遂行されるのかという有効性(信頼性)Eで表現できるわけで, 逆にその値を判断することにより, 計画案の再考というフィードバックが可能となる。なお火災による人命および物的な損害について経済的な評価を行い, それを防ぐための計画を実施するのに必要な投資や防災施設の維持, 運用, 保全等に関する費用を加えて総コストCを算定すれば, システムの評価関数として一般に用いられている経済的な効率, すなわちコスト有効性(cost-effectiveness) E/Cを採用して, それを最大にするという方法をとることができる。しかしこの研究では, 人命等の経済的評価の難しさからまず分子の方の有効性のみに着目し, 評価関数として「安全性の確保に関する信頼度」をとりあげ, その最大化を目的としてシステムの最適な制御, すなわち計画値の設定を試みようとするものである。従来この分野の研究としては, 1972年に寺井俊夫氏らが建築物の火災に対する総合的な安全性についてこれをシステムとして扱い, その信頼性を定量的に求める方法について論じられた研究発表が最初であると思われる。同研究は, 各サブシステムの動作状態の組合せにより決定されるシステムの状態の中から, 許容される異なった正常状態をすべて拾い出し, その確率の和から信頼度を求める方法に当り, サブシステムの信頼度(有効度)を独立に設定できるとした場合の, 感度解析の問題についても論じたものである。一方この研究では, 信頼性を時間の関数としての確率で表わすことを目的としており, サブシステムとした各対策相互間の独立性に留意しながらシステムを構成し, 信頼度の算出方法としては, 各システムについて修理系, 非修理系の区別を行って, 系がとりうる状態図(シヤノン図)から求められる推移確率行列により, 正常状態の確率を計算する方法を用いている。
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