本報では, 定軸力下(P/P_Y=0.3)で断面2主軸方向の成分を持つ繰り返し水平変位をうける比較的細長比の小さいH形鋼柱(λ_x=32, λ_y=53)の実験を行い, 載荷方向, 載荷履歴が弾塑性挙動に及ぼす影響を検討した。また, 簡略化した数値解析法によりどの程度その挙動を再現できるか検討した。結果を以下にまとめる。1)主軸と一定の角度を持つ方向に繰り返し水平変位が載荷される場合, 強軸曲げ方向の復元力-変位関係は紡錘形を示すが, 弱軸曲げ方向の復元力-変位関係では負こう配が強くあらわれ, 強軸曲げに近い場合には剛塑性メカニズムラインより急な負こう配を示す。2)強軸曲げに近い程, ひずみ硬化による復元力の上昇が期待できるが, 局部座屈の発生による復元力の低下も顕著となり, 弱軸曲げに近い程, 局部座屈発生後の荷重-変位ループの安定性は高い。3)載荷履歴の違いにより両主軸方向の復元力-変位曲線の形状は大きな影響をうける。特に弱軸曲げ方向の復元力-変位関曲線は, 強軸曲げ方向の変位履歴の影響を強くうけ複雑な曲線を示す。しかし, 除荷点での復元力の大きさ, 1サイクルでの履歴吸収エネルギー, 復元力が低下しはじめる時の振幅に関しては, 載荷履歴による違いはあまりない。4)本研究で対象とした程度の細長比, 軸力比の部材では, 捩れ変形を無視し, Tri-linear型のような簡単な応力-ひずみ関係モデルを仮定して簡略化した数値解析法を用いても, 任意方向の水平繰返し力を受けるH形断面鋼柱の弾塑性挙動を追跡でき, 実験結果との対応も良いので, 任意方向の地震動を受けるときの弾塑性応答解析に利用できると考える。
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