最後に以上の分析結果をふまえ, さらに若干資料を補足しながら農家の市街化対応を跡づける事とする。5.1 森河内地区(表-3, 10参照)昭和30〜34年時点においては, 当地区への都市的土地需要は小さく, 農地としての動態が主であり, 一部5条転用がなされた程度である(外部からの市街化)。その場合の供給主体は3条売, 5条ともC型農家である。この時期, U_R型農家は農地購入が多く, 農家としての対応をしていたとも考えられる。次の昭和35〜39年になると, 農地としての動態, 特に3条買は大幅に減少し, かわって都市的土地としての動態が急増する。特に4条は一挙に増加し, 脱農型農家を主体とする内部からの市街化が進む事となる。この時期までのR型, 特にR_n型農家の動きは農地売買主体で, 都市的土地としての転用は少ない。他方U_R型ははこの時期には一転して都市的対応を示している。昭和40〜44年には, R型農家の農地集積地で公共事業, 区画整理が行われる事となる。ここにおいてR型農家はそれまでの農業サイドからする市街化対応パターンの変更を迫られる事となり, 積極策に転じていく。即ち公共事業で買収された土地の代金, あるいは生産条件の悪化した農地・生産性に劣る水田を売却し, その売却金で優良農地を購入し生産基盤条件を整えると同時に, 貸家経営あるいは次の時期での貸工場・倉庫, 駐車場経営へと転じていく。他方脱農型の場合, 5条は半減し4条と同程度までになる。以上の様にこの時期は, R型の参入, 脱農型の方向転換等により, 内部からの市街化が一層進展していく。昭和45年以降は農地としての売買は姿を消す。また5条は半減し, かわって4条が主体となる。即ち内部からの市街化, 農家の土地の資産視化が一層顕著となる。以上の市街化対応結果として, R型農家の場合, 水田は大幅に減少したものの畑の減少は少なく, R_n型では却って畑面積を拡大した農家もあり, また畑面積の小さな農家は借地による規模拡大によって, 農業生産に必要とされる30〜40aは各農家とも確保している。また優良農地の購入, 農地集積によって生産基盤を整備した農家も多く, R型農家全体としては, 以前にもまして積極的な農業経営を行っているといえよう。他方C型を中心とする脱農型農家の所有する農地は激減し, 残存している農地も貸付地として残っているケースが多い。その場合, 貸借契約解除の煩雑さから農地として残ったものと考えられるわけで, 実質的には完全脱農型といいうる農家が多い。5.2 小曽根地区(表-11, 12参照)小曽根地区においては農業だけでは生計を維持し得ず昭和30年以前から全階層的な兼業化が生じ, 新規就業者層だけでなく既農業就業者層までもが農外流出していった。基幹的就業者の農外流出に伴う労働力不足の為, 農地は売却される事となるが, 都市的需要のない昭和30年代前半においては, 主として農地として売却されていく。他方湿地帯で畑作転換の困難な当地区では, わずかに残っている専業的農家は, それらの農地を購入し, 規模拡大によって都市化・市街化に対応していく。昭和30年代後半になると, 当地区へも市街化の波がおしよせ, 都市的土地としての農地動態が急増する。またそれに伴ない内部からの宅地化も活発化する。しかしその主体はR型農家, 特にR_n型農家で, R_n型では殆んどの農家がこの時期までに転用自営を始めている。他方農地購入にも積極的で経営規模拡大をはかっており, 両面からの都市化・市街化対応がみられる。R_U型農家も同様のパターンを示すが, 農地購入, 転用自営ともR_n型ほどの積極性はみられない。C型, U_U型農家は農外安定就業に就き定常的所得を確保しているが故に転用自営収入の必要性はR型よりも少なく, 転用自営に向かう農家は少数で, 前時期と同様, 労働力不足, 臨時的出費に迫られ農地を売却していく。次の昭和40年代前半になると農地売却は減少し, かわって転用自営が増加する。転用自営の主体はU_U型, C型農家へ移る。この層の場合, 生活の安定・生活水準の一層の向上を求め, また地価高騰を考慮して資産として土地を保有していく為, 自宅近くの農地を転用していく。他方地価高騰により規模拡大の途を閉ざされたR型農家は, 転用自営を拡大し, 不動産収入への依存を増していく。昭和45年以降は農地としての売買は姿を消しR型農家は規模拡大の途を完全に閉ざされただけでなく, 農地集積地において公共事業が行われ, 経営規模が減少した為, 農業の崩壊は決定的なものとなり, 家計構造としては不動産収入へのより一層の依存, 就業構造としては転業困難な為実質的非就業者化が進んでいく。U_U型は貸駐車場を中心とする転用自営を拡大し, 他方C型の場合, 所有農地は底をつき, 売却・転用自営とも激減する。以上の様に当地区の場合, 全階層的に農業崩壊が進みわずかに残存し得ている専業的農家も, その実体は転業困難な中・高年令層が過剰労働力として残留しているにすぎない。他方脱農型農家もその大部分は, 小規模農地を財産として保有しようとしている層, あるいは農地の貸借契約解除の煩雑さから零細地主, 零細小作人として残存している層であり, いずれのケースにおいても農家とは名ばかりの層が多い。
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