1.当該集落で多数を占める主屋の向きの方位は, 海岸沿いか否かの立地条件で大きく規制される。前者の集落では南寄りが優勢であり, 海岸の位置の相違によって, 南東から南西までの間で異なった分布をする。一方, 後者の集落では, 台風の被害が大きい地方では, 台風シーズンの風向に対して主屋の背面を向けるようにし, また, 被害が大きくない地方では, 冬季の風向に対して主屋の背面を向けるようにする。従って, 主屋の向きの方位に地方差が生ずる。2.当該集落で多数以外の向きとなる要因は次の七項目である。i)集落の形成過程, ii)習俗, iii)主屋の規模, iv)敷地の接道条件, v)敷地の形状, vi)横方向の大通り, vii)集落の東側に位置する海。なお, iv)〜vii)までは, iv)が主要因であり, v)〜vii)はiv)を前提としている。3.集落の形成過程と関連するのは, 右向きおよび左向きであるが, 集落景観に著しい影響を与えるのは左向きである。それは, 当該集落において左向きが大量に, かつ, 集中的に分布するからである。従って, 当該集落で多数を占める向きの民家群と, 左向きの民家群とが集落を二分する景観となる。4.習俗と関連するのは右向きであり, 戸数としては少なく, 集落景観に及ぼす影響は小さい。5.主屋の規模と関連するのは右向きで, RC造の場合に限定されている。戸数としては少なく, 集落景観に及ぼす影響は小さい。6.敷地の接道条件と関連するのは, 右, 左, および後向きである。多数の向きも含めて, 正面に門を設ける指向性の強さに基づく。多数の向きに対して正面に門を設けることの不可能な敷地で, 右, 左, および後向きが多く出現する。従って, 多数の向きに対して, 敷地が横方向に二列でつながる宅地割の, 上の方の敷地群で, 右, 左, および後向きが多く生ずる。また, 多数の向きに対して正面入り可能な敷地でも, 門が左側面の場合は左向きが, また, 右側面と背面の場合には右向きとなる例がある。全体として, この要因に該当する右, 左, および後向きの内訳は, 多数の向きに次いで気象条件の有利な右向きが最も多く, 不利な後向きが最も少ない。7.敷地が横長の場合には, 主屋および付属屋の配置が有利なことから, 前述の接道条件でも, 当該の向きに対して横長の敷地の方が, 右, 左, および後向きの割合が増す。8.多数の向きに対して, 敷地が横方向に二列でつながる宅地割の上部に, 横方向の大通りがある場合, 大通りに面する敷地では後向きの割合が増す。9.多数の向きに対して, 敷地が縦方向に一列あるいは二列でつながる宅地割をもつ集落の, 東側に海がある場合は右向きの割合が増す。
抄録全体を表示