4.1結論本論文は, 柱はり接合部内に通し配筋されたはり主筋の付着性状を明らかにするために行われた, 押込み力と引抜き力を同時に受ける鉄筋の付着実験に関する報告であり, 今回の実験の範囲内において得られた結論は, 以下の通りである。(1)鉄筋に作用している外力条件によって, 鉄筋の応力(鉄筋に作用している外力)と抜け出し量の関係は異なった。特に, 押引荷重を受ける場合, 高荷重での繰返しによる抜け出し量の増加が著しかった。(2)柱面近傍の付着応力と相対すべりの関係は, 内部のそれとは, 大きく異なり, 引抜き時には付着剛性の低下も大きく, 最大付着応力度も小さいのに対し, 押込み時は, 付着剛性の低下も少なく, 最大付着応力度も大きくなり, 原点に関し, 非対称の付着応力と相対すべりの関係となった。しかし, 多数回の繰返しを受けると内部の付着応力と相対すべりの関係は, 剛性低下を起し引抜き端とほぼ同じになった。(3)柱軸力は, 荷重と抜け出し量の関係に影響を及ぼすが, これは, 柱軸力が特に, 押込み端における付着応力と相対すべりの関係に影響を与えているためであった。軸力は, 付着剛性を高め, 抜け出し量を小さく押える効果があるが, 軸力が大きいと, 付着応力が大きくなるところで, 付着破壊を早める可能性がある。(4)コンクリート強度は, 荷重と抜け出し量の関係, 付着応力と相対すべりの関係に大きな影響があった。しかし, 付着応力を相対すべりの関係では, 付着応力をコンクリート強度で除して無次元化することにより, 本実験の範囲では, コンクリート強度の影響を少くすることができた。(5)太径鉄筋(D19)を使用した場合, 引抜き端における付着劣化がみられたが, 押込み端では, D16を使用した場合とあまり違いはみられなかった。4.2今後の課題今回, 押込み端での付着剛性, 最大付着応力度ともに高いのは, 軸力の影響度等から考え, 鉄筋が圧縮力により膨張するためであろうと推論したが, S. Viwathanatepaらが指摘しているように, 柱主筋や帯筋等による拘束とも考えられる。付着応力と相対すべりが影響を受ける範囲を, もう少し詳しく調べられれば, これらの影響について明らかにできるであろう。実際の接合部では, 今回の実験のように, 押込み力と引抜き力が等しいわけではない。さらには, 抜出し量が, はりの柱面における回転変形や圧縮鉄筋の応力に影響することから, 引抜き力と押込み力が相互に影響を及ぼし合う複雑な状態であるので, さらに, 柱はり接合部内部の応力状態を調べていきたいと考えている。
抄録全体を表示