低層住宅の密集している既成住宅地では, 地区や街区の密度が高くなれば, 一般に, 建物の建詰, 公的空地の不足, 街路網の狭隘複雑化などがすすむ。したがって, 既成住宅地の場合は, 地区や街区の物理的状況を概括的に密度指標によって代表させることができる。しかし, 計画団地の場合は, 密度と空間的条件は一応独立的である。最後に, 密度と児童交遊の間にある変動傾向についてまとめを行なっておく。(1) 低層住宅群の密集する高密から過密段階にある既成住宅地では, 密度の上昇に応じて児童の交遊に一定の変動傾向のあることが認められる。密度が高くなるにつれて, 交友人数は減る傾向が認められ, その友達の地理的分布は自宅近辺の極めて狭い圏域に集中する至近型とその逆の遠方に分散する遠方型の両極の型が増える。友達の学年構成も街区レベルの場合は密度の上昇に応じて通学年型が減っていく。児童の交友関係は, 密度の上昇に応じて, その地理的分布と学年構成でみていわば両極化あるいは中抜け現象とでも呼べるような傾向をみせる。戸外遊び時間の減少や遊び場進出の低下も密度の上昇に準じている。これらの変動傾向は, 常に全般的に現われるとは言えないが, それらは総じて, 地域交遊の縮小化の傾向として受けとめられる性格のものである。(2) しかし, これらの現象は, 純粋に密度因子による影響として確定することはできない。高密度な計画団地の場合, その密度は既成住宅地よりも更に高いものでありながら, 団地の変動傾向は, 既成住宅地の変動傾向の延長線上にのるものではない。高密度な既成住宅地の場合は, 空間的条件が密度依存的(density-dependent)に変化するために, その条件のもとではじめて, 密度が児童交遊に一定の影響を及ぼすように作用していると考えられる。(3) 団地の場合は, 住棟規模や住棟配置と遊び場構成それに高層住棟の階位などの空間的条件の相違による交遊の変動が顕著であり, 密度による影響を十分に抽出できなかった。しかし, 密度との関連を無視することはできない。それは, 計画団地の場合も, 密度と空間的条件の関係が常に独立的であると言えないことが関係していると考えられる。極端に高い密度域では, 建物の高層大規模化, 人口当りの公的空地の縮小化, 空間構成上の画一化, 空間構成スケールの非人間化など, 空間的条件が密度に並行して変化することが考えられる。そのような密度域では, やはり, 高密度とそれによって制約される空間的条件の両者が相俟って, 児童の交遊を制限するようになる。本調査の結果からも, 人口密度の極めて高い公団団地でそのような傾向がみられる。(4) 密度や空間的条件の児童交遊への影響は4, 5年生でみた場合, 概ね, 男子よりも女子においてより強く現われる傾向がうかがえる。主体属性の差異によって, 影響の現われ方に相違の生じている点が注目される。(5) なお, 以上は地域の密度についてであるが, 住宅における混み合いと児童交遊の関係では, 4, 5年生の児童の同室就寝人数を指標としてみた限りで, 特定できる関係を捉えることができなかった。(6) 以上, 日常的場面における密度が人の相互関係に及ぼす影響を, 密度と児童交遊の変動関係に注目してみてきたわけであるが, 密度の影響は, 一般に, 密度と関連する様々な要因との総体的な結果, ないしは, 他の要因が介在することによって, より強く作用したり, あるいは逆に弱められたりすると考えられる。動物学者D.E.デイビスは, 「密集度という言葉は, 動物や植物の様々な現象に関連をもつ高度という言葉に類似している。高度そのものだけでそれらの現象を引き起こすのではなく, 高度と連携する何物かの総体が影響を与えるのである」とする。本研究の結果からみた場合も, 人の集合や分布の程度を示す密度に対して, それをとりまく空間的条件が強く作用し, 密度の影響に介在する重要な要因になっていると考えられる。
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