市街地低層部の風の長期観測により, 次に示すような性状が明らかとなった。(1) 基準点との風速比は日中, および夜間に分けてみると, 基準点で平均風速が6m/s未満の場合, 両者の風速比に大きな差異がみられる。これは大気の安定度の影響を受けているものと考えられる。しかし, 基準点の平均風速が6m/s以上になると両者の風速比は一致する傾向をみせ, ある特定の風速比に収束していく。(2) 地上付近の平均風速, および瞬間風速の超過頻度はワイブル分布でよく近似される。特に, 風向別にワイブル近似し, それらを集計した風速超過確率は観測データとよく一致する。これらの手法を用いると日最大風速および日最大瞬間風速の超過確率もワイブル分布でよく近似される。(3) 毎10分間連続, 毎1時間正時, 毎3時間正時の各平均風速, および1時間連続平均風速等の風速出現頻度分布の形状は, ほとんど差異がみられない。従って, それらから推定されるワイブル係数もほぼ同じ値を示す。(4) 地上付近のガストファクタは約2〜2.8, 乱れの強さは30〜50%を示した。また, 風速の弱い(風速比の小さい)地点ほど, ガストファクタ, 乱れの強さは大きい。(5) 一年間のある独立した風速事象(events)の発生回数v_VTは毎10分間平均連続では約2, 307回, 毎1時間平均連続では約531回となり, 毎10分間連続データは毎1時間連続の約4.3倍の発生回数を示す。また, 上空と地上では, 超過確率と風速の発生回数の関係には差がみられないことがわかった。(6) 風の長周期スペクトルの解析より, 1日周期の日変化が極めて顕著であり, 半日周期の変化も認められる。また, 約4〜7日周期の高低気圧の通過周期も認められる。1日周期, および半日周期は0.04〜0.08cycle/hourであるが, これを(5)に示した年間の風速発生回数に対応すれば, 350-700回となる。(7) 基準点となる場所の風向別風速超過確率, 風向出現頻度, および各地点の基準点に対する風速比が把握されていれば, 各地点の平均風速, 日最大風速, 日最大瞬間風速の風速超過確率を予測することができる。しかし, その予測精度は風速比の性状に左右される。日最大風速, および日最大瞬間風速の風速超過確率の推定においては, 平均的に算出される風速比に+1シグマ(約0.07)の幅を考慮すれば, 風速超過確率の推定値をその範囲内で観測データと対応させることができる。
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