日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
選択された号の論文の290件中201~250を表示しています
発表要旨
  • 近藤 博史, 酒井 暁子, 若松 伸彦
    セッションID: P1209
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    はじめに
    日本において、ヤナギ、ハンノキ属樹種は河川植生を形成する主要な要素となっている。それらの分布に関する研究は、東日本の主要な河川において、主にヤナギを対象として行われており、河川勾配や河川堆積物に良く対応することが知られている。本研究では、南アルプスの亜高山帯の渓流域において、地質の河川勾配と河川環境への影響、およびそれらの河川植生分布への影響を検討した。

    調査地
    野呂川は、南アルプス・北岳と間ノ岳を源流とする河川あり、途中で白鳳渓谷より早川に名前を変え、富士川に注ぐ。上流域では、両俣で右俣と左俣に分かれる。調査地は、両俣から左俣大滝までの1.8kmの区間(標高2000~2200m)である。周辺植生は、シラビソ等の亜高山性針葉樹が優占し、河川沿いには、オオバヤナギ、ミヤマハンノキなどの樹種が分布している。この周辺の地質は、緑色岩、チャート、メランジュからなる白根層群で形成され、南アルプスの中でも地形は特に険しい。

    調査方法
    調査は、2011年8月に野呂川の上流部、両俣から左俣大滝において行った。その区間で詳細な河床勾配を計測するために河川の縦断測量を行った。同時に測量地点周辺の河床において優占するヤナギ・ハンノキ属樹種を記録した。立地環境を把握するために、任意の地点で河床の様子、河床幅を記録し、河床において基盤岩が露出している場所では、その岩石の種類を記録した。堆積物などで露岩が見られない場所での地質の把握には、地質調査総合センター発行の5万分の1地質図幅「市野瀬」を参考にした。

    結果・考察
    地質の河床勾配への影響として、地質の境界において河床勾配が変化する傾向があった。これは、チャートが他の岩石に比べて硬く、侵食されにくい性質が関係していると考えられた。特に、チャートで構成された場所から下流側のメランジュにかけての地質の境界で、河床勾配が急になった。同時に、河川幅も狭く、河床に基盤岩が露出している所が多かった。そのような場所では、ミヤマハンノキ、ヤハズハンノキが優占する傾向にあった。 
    一方で、地質の境界から上流側では河床勾配が緩くなった。河床に基盤岩が露出していることは少なく、多くが土砂堆積地となっていた。これは、チャートがダムの役割を果たし、上流からの土砂を堰き止め、堆積地となりやすいからであると考えられた。そのような場所では、オオバヤナギやオノエヤナギが優占していた。ヤハズハンノキとオノエヤナギは、全域には分布せず、それぞれ特定一定箇所より上流では分布しなかった。これは河床幅や標高的な分布上限が考えられた。特に、オノエヤナギに関しては、河床幅の広い下流のみの分布が顕著であった。このように、地質と、河川環境と河川地形の関係は、密接であり、植生分布を考える上で重要であると示唆された。

  • 東京都江戸川区・小松川境川親水公園を事例として
    坪井 塑太郎
    セッションID: 309
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1980年代以降,「人と水とのふれあい」を標榜した親水施設の整備が全国的に進められている.既往の研究ではこれらの施設や景観に対し,定型の形容詞句を用いたSDアンケート調査法により,空間的価値や快適性の認知構造等に関する知見が提示されている.しかし,採用する用語の種類や数量等により解釈に制約が生じることや,施設計画・改修に際しての優先度を検討することが困難であったこと等が課題として挙げられる.そこで,本研究では,被験者の自由意思による景観写真撮影により得られた写真データをもとに対象物の特徴を検討し,これをふまえてCS(Customers Satisfaction:顧客満足度)分析を援用することにより,改善が必要な施設・空間のコンテンツに対する希求度を明らかにすることを目的とする.本研究で得られた被験者の撮影した景観写真からは,人工造形・構造物について良悪の評価が分かれたほか,施設改善計画においては,都市内部における自然のある空間として「生態環境」の整備に最も高い改善要求がみられた.また,遊具の整備や歩行配慮など,都市施設としての利用向上や安全性に配慮した整備が求められていることが明らかになった.
  • 小川 滋之
    セッションID: 219
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    研究の背景と目的:カバノキ属樹木は,街路樹や庭木などの園芸品種や建築資材,民芸品の材料として古くから人々の間で親しまれてきた.しかし,二次林要素や急峻な尾根や露岩地の林分要素とみられており,生育地の分布を規定する要因には不明な点が多い.本報告では,日本列島に分布するカバノキ属樹木の中でも,林分形態や種子特性,生育地タイプから代表的な4種(シラカンバBetula platyphylla ver. japonica,ヤエガワカンバB. davurica,ミズメB. grossa,オノオレカンバB. schmidtii)を選定し,生育地の分布要因を検討した. 調査地と方法:調査地は,カバノキ属樹木が多くみられる外秩父山地(埼玉県)を選定した.山地北部には三波川変成岩類(斜線の上端),山地南部では秩父帯中古生層が分布している(斜線の下端)(図1).調査は,カバノキ属樹木の生育地の分布調査と立地環境調査を行った.  結果と考察:カバノキ属樹木の生育地の分布は,3タイプに分けられた(図1).シラカンバとヤエガワカンバの生育地は,山地北部の三波川変成岩類地域,その中でも斜面上部の緩斜面に多かった.シラカンバは,秩父中古生層地域でもみられたが,生育地の分布頻度は低かった.一方,ミズメの生育地,オノオレカンバの生育地は秩父中古生層地域に集中していた.ミズメの生育地は,礫質土に多かった点ではシラカンバとヤエガワカンバに近似するが,斜面下部の急斜面でも多かった点では異なる.オノオレカンバの生育地は,他3種と共通点が少なく,ほとんどが尾根の露岩上に分布していた.このように地質や地形の特徴から,カバノキ属樹木の生育地は分けられた. この2つの地質特性としては,三波川変成岩類は地すべりが頻発することにより緩斜面を形成する特性が報告されており,秩父中古生層は急峻な尾根や急斜面を形成する特性が報告されている.カバノキ属樹木の生育地が形成される立地環境についても,既存研究で述べられている.シラカンバとヤエガワカンバは地すべりによる開放地の出現が,ミズメは開放地のほかに小規模な林冠ギャップの出現が,オノオレカンバは急峻な尾根の疎林の出現が関わることが報告されている. 以上のことから,地質分布によってカバノキ属樹木の分布が規定される背景には,地質特性の違いにより規定される地形形成が関わると結論した.
  • 木庭 元晴
    セッションID: 608
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    2mメッシュDEMから生成した1m間隔の等高線からみると,これまでの研究や報告で沖積平野とされてきた地域のかなりの部分が最終氷期の低位段丘堆積物で構成されていることが予想された。そこで,茨木市下水道課の下水道管の液状化被害想定のためのデータベース「茨木市地盤情報データベース」を利用して,この予想を検証した。  粒度組成が同じ場合に,N値は,地層の堆積時代を反映していることが多い。茨木市域平野部でのボーリング資料を使った報告は,「大阪東北部地域の地質」(VII 沖積層 寒川旭)などにある。ここでは既存のN値境界値を使って,大阪層群,天満層そして沖積層に区分されている。  さて,本報告では大阪層群または低位段丘構成層が露出している部分のボーリング資料を抽出して,両層のできるだけ固有のN値を先に求めた。そして,両者より低いN値を示す堆積層を沖積層と判断し,この推論基準を求め,これに基づいてこの地の平野構造を明らかにした。  下の図はその一例である。この場所は千里丘陵の東端部で既存の考え方では破線が沖積統と更新統の境界となっているが,本報告では沖積層とされている比較的傾斜の急な部分は低位段丘構成層となっている。沖積層は千里丘陵末端部と淀川支流の安威川平野中央部にそれぞれ5m余りと20m足らずの厚さで分布している。発表では安威川下流域の低位段丘構成層の分布を論じる。
  • 半澤 誠司
    セッションID: 323
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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      福岡市のゲーム産業集積は,当地企業を中心に意図的形成が進められてきた.その背景には,ゲーム産業で近年進んだ技術変容がある.ただし,ゲーム産業集積は未だ発展途上である.
  • 松原 宏
    セッションID: S1301
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本シンポジウムでは,日本におけるクラスター政策,地域イノベーション政策の展開を振り返り,その特徴と問題点を明らかにし,今後の課題を考えることにしたい.本シンポジウムの主な論点としては、以下の3点があげられる。第1は,経済産業省の産業クラスターと文部科学省の知的クラスターとの違いが地域イノベーションにいかなる差異をもたらしているかという点,第2は政策の成果の地域差がいかなる理由によるものかという点,第3は今後の政策の方向がどのように展望されるかという点である.
  • ―ひたちなか海浜鉄道を事例として―
    今井 理雄
    セッションID: 108
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    東日本大震災は鉄道インフラに多大な痕跡を残したが,その復旧にあたっては,ルート選定,資金面をはじめ,様々な課題が指摘されている.被災した全ての鉄道路線において全面復旧が予定されるが,不通時の輸送体系や利用者の逸走,復旧後の持続可能性などに不安要素も残される.被災路線は概ね,過疎高齢化の進む地域にあり,輸送需要の下支えとなってきた高校生をはじめとする通学利用が減少傾向にある.仮に鉄道を復旧したとしても,不通時に逸走した利用者が回帰するとは限らず,維持には相当の困難を伴う.しかしながら多くの地域は鉄道の復旧を望んでおり,早い段階で鉄道復旧を果たした地域の事例は,その後の展開に影響を与えるものと思われる.茨城県ひたちなか市に路線を有するひたちなか海浜鉄道湊線は,市が主導する第三セクター事業者であり,被災によって運休を余儀なくされた鉄道のひとつである.最大の被害は,沿線の溜池決壊による軌道敷流出であり,洞門ひび割れ,軌道湾曲,駅ホーム崩落など,被害総額は約3億円弱に及ぶ.被災後,3月19日から代行バスによる輸送を開始するとともに,4月以降は沿線高校の授業開始とともに運行ダイヤを修正(増便)し,集中的な工事の結果,鉄道は6月下旬から順次復旧し,7月23日には全線復旧した.ひたちなか海浜鉄道においては,2009年8月~11月に実施したアンケート調査,乗降調査などをもとに,土`谷(2010)が旅客流動,鉄道存続についての市民,利用者の意向を明らかにしており,さらに豊田(2010a;2010b)が,第三セクター化の過程と沿線住民の意向,鉄道存続に向けた市民活動などについて分析している.また土`谷(2011)では,市民アンケートなどをもとに鉄道サービスの評価を検討している.以上のような知見をもとに,本研究では被災鉄道復旧の課題について,当鉄道を事例に,その一端を明らかにすることを目的とする.本研究では鉄道不通にともなう旅客流動の変化を明らかにするため,代行バス運行時(6月22日金曜日)および鉄道全線復旧後(11月8日火曜日)において,終日全便全旅客を対象としたOD調査を実施した.両調査とも基本的に,乗車時に調査票を配付し,降車時に回収,利用券種の分類を行った.さらに2009年10月末実施のOD調査のデータと比較することで,一連の旅客流動の変化を明らかにする.
  • 対馬に暮らす高校生の意識を手がかりに
    神村 絵織
    セッションID: 207
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ はじめに
    地理的見方・考え方は地理教育でこそ獲得される学力として、久しくその最重要課題に位置づけられてきた。地理教育の改善のために地理的見方・考え方を理論化しようとする試みが取られ、内容やその関係を整理する議論も多々あるが、そこに子どもの存在を見ることができをないという課題を見出すことができる。また、子どもの実態把握を地理教育研究に活かそうとする試みも見られるが、次の2つの課題をあげることができる。それは、子どもの空間認識を「理解している」「知識を習得している」という視点によってのみ捉えようとしていること、そして、小学校・中学校での学習を通して形成された認識と意識を持つ存在としての高校生に、調査対象としての重要性を見出していないことである。 そこで本研究は、地理的見方・考え方の内容を理論的に整理し、さらに「生活者」としての子どもである高校生の実態把握を通して、地理的見方・考え方を地理教育でどう扱っていけばいいのかを考えることを目的とした。
    Ⅱ 地理的見方・考え方の整理と地域的見方・考え方
    日本の学習指導要領、地理学の5大テーマ、『地理ナショナル・スタンダード』、『ナショナル・カリキュラム地理』をもとに、地理的見方・考え方の内容を整理すると、その内容はある事象に対する4つの探究方法として表すことができた(図1)。まず、どこでその事象が見られるのか地理的にある事象を捉え(探究1)、どのようなところでその事象が見られるのかを捉える(探究2)。次になぜその場所でその事象が見られるのかを、地域内の関係(探究3-1)と地域外の関係(探究3-2)を探ることによって捉える。そして、ここで捉えた地域間関係をもとに世界像を形成し、その構造の中で地域を捉え直す(探究4)。 子どもの世界像形成という地理教育の目的から考えると、地理的知識をつなぐ階段としての「地域」の重要性が浮き立ってくる。図1の中で地域概念から導かれる地域的見方・考え方に該当するものは探究3-1から4である。また、先の「地域」とはその中でも探究4のことである。ここから、地理的見方・考え方において地域的見方・考え方の中でも探究4を重視する必要があると言える。
    Ⅲ 子どもの生活に見られる地域的見方・考え方
    長崎県対馬市にて、地元に対する高校生の意識を明らかにするために小学校・中学校・高等学校の教員、高校生、そして高校既卒の若者を対象とした調査をおこなった。多様な捉え方のできる対馬だが、高校生の捉え方は「郷土としての確かな愛着」は感じつつも他の場所と比較すると「さえない」場所というものに偏っていた。これは地域ぐるみの教育活動によって地域内関係を豊富に体験してきたこと、一方で卒業後の進路選択などにおいて「周辺」地域としての対馬を幾度となく体感してきたことによるものと考えられる。子ども達は日常生活の中で探究3-1と4を繰り返すことによって世界像を形成していた。一方で、高校既卒の若者は高校生とは別の捉え方もできていた。移動と経験を重ねることによって対馬を中心とした地域間関係(探究3-2)にも着目するようになった結果だと考えられる。以上のことから、探究3-2をふまえない探究4は、所与の構造における限られた関係性からしか地域を捉えることができない状況を我々に促す危険性を持つことが明らかになった。
    Ⅳ おわりに
    地域的見方・考え方は知識をつなげ世界像を形成することを可能にするという意義を有しながらも、一つの地域を核にした地域間関係を探る過程が不可欠であるという課題を持っている。この過程は、どのような「周辺」地域でも「中心」になることができるという可能性を私たちに示唆してくれる重要な地理的見方・考え方である。
  • (シンポジウム趣旨説明)
    熊木 洋太, 宇根 寛, 鈴木 康弘
    セッションID: S0101
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     地理学は空間(土地,地域)の性質を明らかにする学問であり,その知識を防災・減災に具体的に役立てる方法として,ハザードマップの作成・公開は大きな意義を持つ。このため,災害対応委員会は発足当初,学術大会時のシンポジウムの企画においてハザードマップを取り上げるなどしてきた。
     一方,行政による各種のハザードマップの整備は最近進んでおり,今回の東日本大震災の被災地に関しても,多くのハザードマップが作成されていた。これらには,空間の性質として災害現象発生ポテンシャルや対災害脆弱性を表現しているものと,特定の想定の下での予測結果を表現しているものがあるが,これらの内容や広報のされかたが被害の軽減にどのように役だったか,あるいは役立たなかったかを検証し,今後の防災対策にフィードバックしていく必要があろう。放射能汚染の災害はなお進行中であるが,これについても,マッピングされた情報の重要性が指摘できる。地理学は,このような課題に取り組むべきであると考える。
     そこで,本シンポジウムでは,東日本大震災を踏まえ,今後のハザードマップのあり方とそれに対する地理学の貢献のあり方について改めて検討する。

  • 中口 毅博
    セッションID: 801
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本研究では、CO2排出特性に基づき市区町村を類型化するとともに、地域特性との相互関係を明らかにし、数量化Ⅰ類分析を用いてCO2排出特性を規定する地域特性要因について検討した。その結果、2007年の1人あたりCO2排出量は、人口密度が高い、人口規模が大きい等の特徴を持つ都市的な地域ほど、業務部門では排出量が大きく、家庭および運輸部門および全合計で小さくなる傾向がみられた。また、家庭部門と運輸部門については気候が寒冷なところほど排出量が大きい傾向が見られた一方、製造業部門では明瞭な傾向はみられなかった。修正ウィーバー法を用いて市区町村を14区分に類型化したところ、4部門均衡型、製造業・運輸複合型、製造業特化型に分類される市区町村数が多かった。1人あたりCO2排出量は製造業特化型、業務特化型が大きく家庭・業務複合型が最も小さくなった。さらに1990~2007年の増減率をみると、4部門均衡型など7類型で減少し、製造業や業務を含む5類型で増加していることから、企業の活動拠点の集約化が進み、排出量の大きい市区町村にますます集中し、それ以外の市区町村で減少したことが読み取れた。
  • ‐大阪府を事例として‐
    寺谷 諒
    セッションID: P1311
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近年、スプロール現象やそれに伴う郊外の緑地の減少などの問題が生じている。また、今後、人口が減少する時代に入り、新たな土地利用の政策も必要とされている。しかし、複雑で多様な社会的条件を、包括的にとらえて分析し、高精度なモデルを構築した研究はまだ少ない。上記をふまえ、土地利用の変化と社会的要因の関連に関して分析を行い、実世界の土地利用変化を高精度に再現・予測ができるモデルの構築を行う。予測には、マルチエージェントシミュレーションの手法を利用し、最終的に土地利用政策へ役立てることを目的とする。モデルの構築のために、過去の土地利用や社会の動きに関して分析を行うことが必要なため、まず地域間の人口の増減を分析する。

    大阪府全体の近年の人口増減を見ると、減少傾向にあった大阪市の人口の増加が顕著であり、都心回帰の現象がみられていることが分かった。さらにより詳細な地域の分析のため、データとして、国勢調査地域統計メッシュの、1995年から2000年、2000年から2005年の2期間の人口総数のデータを用いた。対象地域は、大阪府の北部とする。このデータをもとにメッシュ単位で、2期間に一貫して大きく増加している地域を抽出した。そして、地域の特徴の分析のため、44個の変数を地域の属性としてとりあげた。解析手法は、まず、変数間の冗長性の排除のために、主成分分析を行う。次に、主成分の主成分得点を用いて、階層型クラスター分析を行った。

    まず、主成分分析で、固有値が1以上の主成分が11個得られた。その後、実施したクラスター分析において、大きく4つのクラスターに分類できた。グループのうちの2つのクラスターは都心部に近いところに集中し、逆に、残りの2つは都心から大きく離れた場所に多く位置する結果となった。また変数をみると、都心部と郊外部では、地域の特徴に大きな違いがみられ、郊外部においては、核家族世帯の割合が高く、一戸建てで、延べ面積が広い住宅が多く土地に存在することが分かった。さらに、農地の周辺部においても人口が増加している地域が存在した。これらの結果から、人口回帰現象と並行して、郊外でのスプロールも依然として続いていることが分かった。また農地周辺の集落においては、道路沿いにおいて、転用が目立つ地域が多い。土地利用変化は、これらの社会的要因が複雑に影響しあうことで、引き起こされている可能性がある。
  • 森田 匡俊
    セッションID: 211
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1. はじめに
    本発表では,サービス需給の空間パターンの把握に2変量ローカル・モラン統計量を利用することの有効性を検討する.この統計量は,ある地区iの変量xiと地区iの近傍地区jの変量yjとの関係を表す.この統計量の具体的事例への利用は管見の限りあまり多くない.その理由の一つとして,この統計量を適用して有効性が確認された具体的事例のないことが挙げられる.本発表では,2変量ローカル・モラン統計量の適用が有効な可能性のある事例として,サービス需給の空間パターンの分析を取り上げ,この統計量の有効性を検討する.
    2. サービス需給分析への適用の有効性
    需要の分布を踏まえ,サービス供給の地域差や地理的偏在,需給にミスマッチが生じている地区を把握しておくことが重要である.とりわけ,保育や介護といった公的性格の強いサービス供給に利用できる社会的な資源は限られており,需給の分布の地理的なミスマッチを可能な限り少なくすることが肝要である.また保育サービスなどは,自地区の施設に利用が限られないため,近傍地区の供給量を考慮する意味がある.そこで本発表では,愛知県名古屋市における保育サービスを事例とし,2変量ローカル・モラン統計量によるサービス供給の地理的偏在や需給のミスマッチ地域の把握を試みる.
    3. 名古屋市における保育サービス
    名古屋市の保育所待機児童数(2011年4月1日時点)は1,275人と,全国政令指定都市の中で最多であり,名古屋市における保育サービスについて,供給の地理的偏在や需給の地理的なミスマッチを検討する意義は大きい.
    4. 2変量ローカル・モラン統計量による分析
    変量xiとして,平成17年国勢調査小地域統計の0~4歳人口(保育需要量),変量yjとして各保育所の定員データから作成した小地域別保育サービス供給量(保育供給量)を用いる.2変量ローカル・モラン統計量は小地域ごとに算出することができ,統計的に有意な値となった小地域は,以下の4つのパターンに類型化できる.
    H-H:需要量が多く,近傍の供給量も多い地区L-L:需要量が少なく,近傍の供給量も少ない地区
    H-L:保育需要量は多く,近傍の保育供給量が少ない地区
    L-H:保育需要量は少なく,近傍の保育供給量が多い地区
    上述のうち,H-LおよびL-H類型の地区は,保育サービスの需給にミスマッチが生じている可能性が高いといえる.
  • 森本 健弘
    セッションID: P1310
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本報告の目的は耕作放棄の空間的パターンの解明と,そのパターンと他の地域特性との関係の検討を,作成したメッシュデータを用いて試みることである.農林業センサスのデータを小地域統計のスケールで分析したい場合,現状では有用な地域単位が農業集落に限られる.しかし農業集落データを統計的に分析するにはいくつかの課題がある.第一にそれは他の統計の単位地域と合致しないため活用の可能性が限定されている.第二に不定形で,経年的変化があり,場所によって面積の差が非常に大きい.それは市町村域を余すところなく農業集落に区分したために中・山間地域等で非居住地・非農用地を大幅に含んでいるためである.農林業センサスからメッシュデータを一定の手続きで作成すれば,これらの課題を原理的には解消可能である.
     まず農林業センサス農業集落データの按分組み替えによって耕作放棄地率の3次メッシュデータを作成する.次にこれと自然環境,社会経済的環境等のメッシュデータの分布を対応させて,それらの間の関係を検証する.対象地域は標高・傾斜の面でも都市化の面でも多様な環境を有し,農業経営の点での地域差も大きいことからまず群馬県を選んだ.
     メッシュデータの作成手順は以下のようにした.第一に農業集落境界と3次メッシュ境界をオーバーレイし,農業集落をメッシュで切り分けた細分区画を作成した.これに農業集落の統計値を後述する比率に基づき按分して,最後に3次メッシュごとに再集計して分析用のメッシュデータを得た.按分比率の算定には国土数値情報3次メッシュ土地利用データを利用した.3次メッシュごとの農用地比率を求め,これを細分区画それぞれの面積に乗じて推計農用地面積を求め,その値の,農業集落について合計した推計農用地面積に対する比率を按分比率とした.すなわち農用地の分布に従った属地的配分を行ったのである.こうして求めたメッシュ統計値をもとに耕作放棄地率を算定し,次の分析すなわち環境条件との対応関係を検証した.
     作成した3次メッシュ耕作放棄地率の分布は,当然ながら農地の分布を反映しており,農業集落データ境界地図を用いた場合とは大きく異なる様相を示す.おおむね山麓部から山間斜面,山間の渓谷状の場所のメッシュで耕作放棄地率が高い.地形のみならず農業経営部門や従前の経営規模との対応が予想できる.
  • 古橋 大地
    セッションID: S1103
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    現代のデジタル世代にはほとんどの作業をデジタルで完結してしまうように見える一面がある一方で、遠隔地にいたとしても、デジタルな手法でコミュニケーションをとり、リアルな世界に還元する社会貢献が可能になってきている。その具体的な事例を、東日本大震災では多く社会に示した。本発表ではその経緯と地理学の関わり方、そして現状の問題点について報告する。
  • 立岡 裕士
    セッションID: 806
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本発表における『御伽草子』は狭義のもので、中世から伝来した300~500編の物語から選定されて『御伽草子』と題されて刊行された(18C初)、23編の物語集である。そのいずれも、話の舞台が明示されている(例外は「さざれ石」のみ)。しかも道行きが大きな部分を占める話や、寺社の尽し物的な記事が取り込まれているものもある。したがってこれらの話が読まれる背景、あるいは話を読むことで自ずから蓄積されるもの、として当時の地理的知識について知ることができよう。話の舞台は、日本国内(16)、日本・異界(4)、外国(3)に分けられる。今回は日本の地名のみを対象とする。<BR>
    以下の点が明らかとなった:<BR>
    ・『御伽草子』に現れる地名は、行政的なもの(国・郡・郷・里)・歌枕・寺社・その他に分けられる。<BR>
    ・日本内の国名に関しては、15編を通して36国が何らかの形で(「○○守」を含む)言及されている。そのうち3編以上で挙げられているのは4国にすぎない(その意味で偏りは小さい)。ちなみに、「都」は14編で言及される。国より広域の名称としては関東(八か国)・筑紫・東山道・山陰道・海道がある。<BR>
    ・挙げられた国名は東国のものが比較的多い。単なる偶然であるかもしれないが、中世以降(特には近世)の東国の重要性を反映しているか、あるいは『御伽草子』の基調である王朝趣味における東国の「重要性」を反映しているのではなかろうか。<BR>
    ・郡以下の行政的地名ないしは地点名は明示されないことが多く、実在性の薄いものもある。系統的な地名の呼び方(○○郡○○郷のごとく)は少ない。<BR>
    ・歌枕は約90箇所が挙げられている。その多くが「小町草紙」「唐糸さうし」の東下りの道行きに現れるものであるため、東海道・東山道の歌枕が多い。<BR>
    ・寺社は約40が挙げられている。これらも尽し物的に列挙されているも(「物くさ太郎」「猫のさうし」)のが多いので、複数の作品で触れられているものは少ない(3編の清水が最多)。
    ・都のなかでは五条の橋が、それ以外の場所では難波が、それぞれ3編で(単なる言及ではなく)話の舞台(の一部)として用いられている。<BR>
    ・産業・生産物に関する言及はほとんどない(明確に描かれた地場産業は常陸の製塩のみ、地名のついた産物は美濃上品・富士の結綿のみ)。
  • 北島 晴美, 太田 節子
    セッションID: 404
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに<BR>
    1990年代以降,高齢化の進展とともに,高齢者(65歳以上)死亡数が増加し,高齢者死亡比率も上昇している。2010年には高齢者の死亡が総死亡の85%を超え,高齢者の死亡状況が総死亡(全年齢)に反映される状況となっている。<BR>
    日本の月別死亡率は,冬季に高く夏季に低い傾向があり(厚生労働省,2006,など),高齢者(65~74歳,75~84歳,85歳以上の年齢階級)の月別死亡率も,冬季に高く夏季に低い傾向が顕著である。2001~2010年の10年間の月別死亡率年次推移は,85歳以上では,年による変動が大きいが,65~74歳,75~84歳では,いずれの月の死亡率も,次第に低下する傾向が見られた(北島・太田,2011)。<BR>
    本研究では,高齢者の月別死亡率について都道府県別の特徴を把握した。<BR><BR>
    2.研究方法<BR>
    使用した死亡数データは,平成22年(2010)人口動態統計(確定数)(厚生労働省)である。<BR>
    2010年死亡率,2010年各月死亡率は,1日当り,人口10万人対の死亡率として算出し,月別日数の違いによる影響を除去した。2010年の都道府県別月別死亡率は,2010年国勢調査人口(日本人人口)(総務省統計局)を用いて算出した。全死因,4大死因別の死亡率の季節変化傾向の地域差についても検討した。<BR><BR>
    3.都道府県別65歳以上死亡率と人口<BR>
    2010年都道府県別65歳以上死亡率は,人口が多い都道府県(東京都,神奈川県,大阪府,愛知県,埼玉県,千葉県)で全国値(9.63)よりも低い(図1)。これらに次ぐ人口規模の北海道,兵庫県の65歳以上死亡率も全国値よりやや低い。他に65歳以上死亡率が全国値以下となる県は,沖縄県と,奈良県,京都府,滋賀県であり,全国値並みの県は静岡県,岐阜県,広島県,福岡県である。沖縄県以外は大都市周辺の府県である。これら以外の県の死亡率は,全国値よりも高く,相互に近接した値である。<BR>
    人口上位6都道府県では,65歳以上人口に対する前期高齢者の比率が特に高いため,65歳以上死亡率も低下すると考えられる。<BR><BR>
    4.都道府県別65歳以上死亡率の季節変化<BR>
    都道府県別65歳以上死亡率(全死因)の季節変化は,いずれの都道府県においても冬季に高く夏季に低い傾向が確認された。2010年の死亡率(図1)の高低に応じて,季節推移も全国値を中心に上下で推移する(図2)。人口が少ない県では,死亡数の変動が大きいため,死亡率も変動が大きいと考えられる。<BR>
    4大死因別死亡率のなかで,悪性新生物の死亡率では,ほとんどの都道府県で明瞭な季節変化が見られない。心疾患の死亡率は,多くの都道府県で冬季に高く夏季に低い傾向がある。脳血管疾患死亡率も冬と夏の死亡率にやや同様な傾向がみられる。肺炎死亡率の季節変化は,明瞭ではない県が多い。2010年65歳以上月別死亡率全国値の変動係数は,心疾患,脳血管疾患,肺炎,悪性新生物の順に大きい。詳細は会場で報告する。<BR>
  • 松原 健太, 松田 修三, 小沢 和浩, 但馬 文昭, 宮武 直樹
    セッションID: 725
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は大規模な計測・解析システムを必要とはせずに、人の持つ感覚的な計測手法(感性的な計測法)を基にして身近な気候環境の様子を定量化し、その情報をもとに都市の微小気候環境を可視化し、さらにそのモデル化を試みることである。自然や都市の微気候環境(主に気温環境)の変化を広葉樹の紅葉(黄葉)や落葉(指標植物)などの進行状態を観測し、その地域の気候環境の様子を可視化することで、その地域の気候環境の変化を分かりやすくとらえることができる。さらに数理的な黄葉の進行モデルを構築することで他の微気候地域との関連も調べることが可能になると考えられる。  具体的には指標植物としては身近なイチョウの葉に注目した。イチョウは街路樹として国内で広く植栽されており、街道沿いの気候環境をよく反映していると考えられる。観測場所としては、地形的要因や人工構築物による人為的な要因及びこの両者の要因が混在する環境を持ち合わせた東京の郊外に広がる多摩ニュータウン通り(多摩境~永山橋までの12km)を対象とした。この区域を21の区間(微気候区)に分けて観測を行った。この地域における黄葉の始まりは9月下旬であることが分かっているため、この頃を観測の基準日として約70日間以上かけて黄葉の進行の様子を観察する。観測方法としては樹一本の平均的な黄葉の程度を5段階の数値で分類し黄葉度として記録し後にグラフとして可視化を行っている。2010年の観測データをもとにして、21区間の中から代表的なものを選びモデル化の検討を行った。黄葉度の進行過程を表現するモデル関数としては累積分布関数のひとつとしてよく知られているロジスティック関数を用い、数理モデルとしての妥当性の検討を行った。最小二乗法による推定結果からロジスティック関数は観測値とよく適合することが分かった。また、観測年による気温変動や地域による気候環境の違いがあってもよく実測に適合している。提案した数理モデルの有効性が示され、微気候環境の違いをよく再現していることがわかった。
  • 相馬 秀廣, 山内 和也, 山藤 正敏, 安倍 雅史, バレンティナ サンコバ, ヴァレリー コルチェンコ, 窪田 順平, 渡辺 三津子
    セッションID: 812
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに:天山山脈西部北麓には,オアシスを連ね唐代には「天山北路」が通り,北方にはカザフ草原が広がる.ヌリアン(2009)によれば,アクベシム遺跡は,紀元5-6世紀にソグド人による建設後,交易の発達により繁栄し,7世紀には西突厥の中心地として玄奘も滞在し,657年以降は断続的に唐,西突厥,吐蕃の支配下に置かれ, 682年の唐の「杜懐寶石碑」が出土している.「タラス河畔の戦い」の後も、カルルク、カラハン朝の中心的な都城址として13世紀初頭まで居住されたとされ,仏教寺院,ネストリウス派キリスト教会などの遺跡も複数存在する. 考古発掘により,アクベシム遺跡の概要は大まかには判明しているものの,何故この場所に同遺跡が建設されたか,南東部のラバドの性格など,基本的な点で未解決な部分も少なくない.また,同遺跡からおおよそ25km圏(アクベッシム遺跡地区)内には,数多くの遺跡の存在が知られているものの,それらの立地条件については,必ずしも明らかではない.そこで,発表では,高解像度衛星画像・同写真の判読と現地調査結果により,各遺跡の立地条件などについて報告する.本研究は,1967年撮影のCorona衛星写真(地上解像度約3m. Corona)および2007年観測のQuickBird衛星画像(同約0.6m)などによる衛星考古地理学的手法を用いた.アクベシム遺跡地区の囲郭遺跡の立地条件:当地区の囲郭遺跡の立地条件は, a)段丘面上端,b)段丘面上(一辺が数10mの小規模囲郭),c)扇端(アクベシム遺跡),d)沖積低地(ブラナ遺跡)に区分される.aは一辺の長さが100mオーダーで囲郭の一部に段丘崖を利用し,幅数から10mの空堀を周囲に巡らせており,防御に重点がおかれた可能性が高い.同様な囲郭址がイシク湖南岸にも存在する.bは烽火台である. アクベシム遺跡は,東西両側を南からチュー川に延びる2つの大きな開析扇状地扇端付近のほぼ合流部に位置する.当地区の遺跡の中では地下水を最も得やすく,また,両側からの河川氾濫に対して最も被害を受けにくい立地にある.ブラナ遺跡は,アクベシム遺跡の後,当地区の中心だったとされる囲郭であるが,アクベシム遺跡両側の扇状地の間を流下する小河川の沖積低地に立地する.以上の点から,アクベシム遺跡は,当地区において,中心となるのに最も望ましい立地にあることが判明した.
  • 九州大学の事例
    小柳 真二
    セッションID: 324
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    ローカルな地域内における産学連携に焦点を当てる従前の議論に対し,近年の調査研究では,大学の側から連携相手とのリンケージをとらえるとノンローカルな連携の方が優勢な場合もあることが明らかになっている。しかしながら,それらの成果においてはリンケージの量的な把握に終始する傾向があり,質的な側面,すなわち対面接触の頻度や通信手段によるその代替など相互の知識・情報移転の実態については必ずしも明らかになっていない。そこで本研究では,九州大学教員と企業等の組織との間で行われた共同研究を事例に取り上げ,そのリンケージを量的のみならず質的に把握した。
    まず,共同研究の実績リストからリンケージを技術分野別,連携相手組織の種類別及び所在地別に集計を行った結果,次のことが明らかになった。①リンケージは全技術分野では81%が九州外とのものであるが,②技術分野別には,例えばナノテクノロジー・材料分野においては九州外が90%であるに対し環境分野では同71%にとどまるなど,ばらつきがある。次に連携相手企業の規模に注目すると,③全技術分野では,九州外の大企業とのリンケージが多いのに対し中小企業とのリンケージは九州内に限定されている傾向が強い。ただし,④九州内外での連携相手企業の規模は技術分野により異なっている。
    次に,ヒアリング調査による質的把握の知見として,①暗黙知や秘密性の高い情報の対面接触による共有は依然として重要であるが,②それ以外の情報共有については電子メール等の通信手段によって代替されている。また③一般的に対面接触の頻度は少なく,数ヶ月に一度程度の接触で済んでいる場合が多いが,④長期にわたって連携を行う場合には企業側の研究員を受け入れることでより頻繁なやり取りがなされている。ただし,技術分野や研究の局面(基礎寄りか応用寄りか)の違いを背景として,各教員の連携方針は多様である。
    それにもかかわらず,連携の継続段階において,パートナーとの地理的近接性がほとんど重要でないことは教員の共通認識であり,このことは量的把握の結果とも整合的である。ただし,連携の開始段階においては,連携に適した相手と巡り合う機会があるかどうかが問題となる。この機会は,特に中小企業にとっては,大学の産学連携部門や地方自治体,産業支援機関などにより提供されることも多く,この文脈において地理的な近接性や領域性が重要であると考えられる。
  • 渡辺 悌二
    セッションID: S1208
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    大地の遺産には,保護保全対象となっていない地域・場所で選定される場合と,国立・国定公園・都道府県立自然公園・世界自然遺産などのいわゆる保護地域で選定される場合,さらにジオパークで選定される場合がある。法的な裏付けがある保護地域とはいっても,公園である以上は観光客の利用を基本としているため,国立・国定公園や世界自然遺産に指定・登録されていることが,多くの人を寄せ付けることになってしまう危険性が高い。観光客が現場に行くことができれば,保護保全すべき対象物が大きなインパクトを受けることになってしまう。指定した大地の遺産を多くの人に知ってもらうことの重要性がある一方,容易に人為的影響を受けやすい遺産については保護保全を優先すべきであり,ここにジレンマが生じる。人の踏圧だけでも破壊につながり得るトムラウシ山の構造土や,高根ヶ原のパルサなどは,大雪山国立公園という一つの公園の中にあっても,その他の大地の遺産とは異なるレベルでの選定が行われるべきであろう。 一方で,保護地域のなかにこうした保護保全の価値が高い大地の遺産が存在しているときには,管理者が存在している点や,保護保全の必要性を国民に伝えやすい点で保護地域にはメリットがある。ただし,この際に,管理者である環境省や都道府県の理解・協力が不可欠となる。 大地の遺産に関連した研究の進展がなければ,ジオに関係した「守るべきサイト」が保護地域にたくさんあることを環境省が認識することは難しい。大地の遺産に関連した調査・研究を推進すべきである。大地の遺産が国民に広く知られるようになった時には,生物多様性の重要性と同様にジオ多様性の重要性が理解されていることを目標にすると良いだろう。 さらに,「守るべきサイト」の調査に対しては,研究者自身の側にも注意すべき点がある。大地の遺産は,すべて同じレベルあるいはカテゴリーや目的で選定するのではなく,すでに研究者でさえ可能な限り立ち入るべきではない,まさに「守るべきサイト」というカテゴリーの設定が必要である。 以上のように,保護地域において指定される大地の遺産には,観光地としての利用上の意義だけではなく,保護保全上の意義を認めるべきであり,法的拘束力をもつ保護地域としてのメリットを最大限に強調し活かすべきである。 そのためには,保護地域における大地の遺産選定作業に環境省を巻き込むと良いだろう。
  • 池谷 和信
    セッションID: 520
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1 はじめに 
     途上国における定期市は、野菜や家畜や衣料品などの流通のなかで生産者と消費者とをつなぐ結節点として経済的に重要な役割を果たしてきた(石原1987ほか)。同時に、定期市は様々な社会集団が相互に交流する場として社会文化的な側面を持つ。これまで報告者は、乾燥帯アフリカにおける牛市・ラクダ市に焦点を当ててフルベやソマリの牧畜民と定期市とのかかわりについて報告したが、ここではモンスーンアジアのバングラデシュの家畜市のなかで豚市に焦点を当てて、地域における豚の流通の実際を把握する。同時に、アフリカとアジアの家畜市における地域間比較の際の枠組みについて考察する。現地調査は、2011年12月にバングラデシュ北部のマイメンシン・ディストリクトを中心に約2週間にわたって行われた。対象地域は、ベンガル系のイスラム教徒が多数を占めているが、豚市に密接にかかわるのはベンガル系の非イスラム教徒およびマイノリティのマンディ(ガロ)の人々である。なお、豚市の分布および豚の売買の概観に関してはすでに報告した(池谷2011)。
    2 結果と考察 
     今回の調査では、年中行なわれている2つの豚市(Gaptoli,Shombugon)に加えて、12月から3月までの季節限定の2つの豚市(Bakgahitola, Haluaghat)を訪問した。その結果、「都市近郊型」と「都市郊外型」の2つのタイプに豚市は分類できる。前者は、大部分の購買者がベンガル系ヒンドゥー教徒であり、100km以上離れた地域からの購入者(仲買人)もみられた。これに対して後者では、購買者の大部分は近隣で暮らすマンディの人々である。
     後者の事例を詳しくみてみると、マンディはキリスト教徒であり、クリスマス前後の時期の食用のため、およびそれ以降年始までの時期に親族の結婚式ほかなどが集中して、そこで豚を消費するために9-11ヵ月の大型の豚を購入していた。同時に、前回と同様な傾向として3-5ヵ月の小豚を肥育用に購入していた。この場合、飼育してきた豚を対象時期に地域需要に応じて販売するために新たな肥育豚を備えるということもみられた。
     2つの季節限定型の市では,大部分の購買者がマンディであり仲買人が豚の群れをそのまま市場に移動してきていた。このため、市の開設時には牧夫が常に群れを監視していた。しかし、どうして市が3月まで継続する必要があるのかは明らかではない。 
     その一方、市に参与して豚を販売する仲買人の暮らす村を訪問することで、そこには多数の仲買人(ベンガル系ヒンドゥー教徒)が集まっていること、ダッカ市場、チッタゴン市場、本研究が対象とする豚市、近隣地域市場などのように個々の仲買人によって市場が異なっていた。彼らは、自らの群れを所有している人も多いが、別の群れの所有者から家畜を購入する。但し、肉量の大きい成獣を求めるダッカ市場と肥育用の幼獣を求める家畜市への供給では、仲買人の販売戦略が異なっている。 
     以上、国内の豚流通のなかで家畜市を媒介とする流通の位置づけ、および家畜市をめぐるベンガル系非イスラム教徒と近隣民族とのかかわり方が明らかになった。また、アジアとアフリカでは、家畜の流通における家畜市の役割やその比重が異なっていると考えられる。
    文献
    池谷和信2011「バングラデシュにおける家畜市と豚」日本地理学会予稿集
    石原 潤1987『定期市の研究:機能と構造』名古屋大学出版会
  • 神奈川県藤沢市を事例として
    金田 亜妃子
    セッションID: 403
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1、目的と方法 高齢者福祉ニーズは、住居や交通機関、買い物施設、病院、行政や民間事業者による各種サービスなどの社会的資源から、家族や友人、近隣者などの社会関係までを含む高齢者の生活空間の、関係性の中で形成される。本稿では、高齢者の生活空間内のこれらの配置によって社会的に形成されるニーズを、地域的ニーズと呼ぶ。この地域的ニーズに応える新たな主体として、各地でNPOや地域住民組織による活動が活発になっている。本稿では神奈川県藤沢市のワーカーズ・コレクティブ(以下W.Co)を対象として、活動の展開とその地域的諸条件を明らかにすることを目的とした。W.Coは協同組織型の民間非営利組織で、藤沢市において存在が顕著である。介護保険制度よりも以前から、地域における高齢者福祉の担い手として20年近く活動を継続してきており、地域的ニーズへの対応において蓄積がある。方法は以下の通りである。まず藤沢市の郊外化の過程の中で高齢者の地域的集中を示すため、地区別の住宅団地開発のデータを用い、それに小規模世帯割合のデータを重ねることで、何らかのきっかけで外部サービスへ依存する必要が生じる、ニーズの潜在地域を把握した。次に、行政や介護保険サービス事業者によって提供されるサービスや、その立地傾向を分析した。その上で、W.Coの立地の傾向やサービスの内容、経営や労働力、さらに独自のニーズ対応について分析した。最後に、W.Coがいかなる地域的諸条件によって存在しているのかを考察した。2、結果 藤沢市において、高齢化地区(図1)と60年代後半の住宅団地開発地区、小規模世帯の分布とに重なりが見られた。70年代後半の大規模開発によって誕生したのが大庭地区で、ここで流入した主婦の存在がW.Coの設立に貢献し、1990年代から設立が相次いだ。藤沢市の全14のW.Coは、生協法人Aを中心とするW.Coと、社会福祉法人Bを中心とするW.Coの2つに大別される。A系W.Coは市中東部に立地し(図1)、生協としてまとまりを持ってサービスを展開していることから複数事業所が一地点に重なる。経営面で収支を分け合い、かつ複数のW.Coによって複合的にサービスを供給している。B系W.Coは法人格の取得とともに分離独立していったものが多く、大庭周辺の市中西部から中南部に分かれて分布する(図1)。しかし、社会福祉法人Bが運営する特養施設を中心としたまとまりを維持しており、業務の請負を通じて連携体制を築いている。両系統のW.Coはグループ化することと、介護保険制度施行後、一方では保険適応のサービスを提供することで収入を得、民間事業者の中で競争力を保っていた。もう一方では保険によらず、非採算部門の独自サービスを「地域に必要なサービスを自ら作り出し、担う」というW.Coの理念の下提供することで、保険の規定から漏れるニーズに対応していた。3、まとめ 開発時期のずれによって、藤沢市には異なる世代が流入し、高齢者とW.Coの間で福祉サービスの受給関係が形成されてきた。W.Coは一方ではグループ化と保険収入によって継続的に経営を行い、もう一方では非採算性を被りつつも保険外に自由度の高い独自サービスを持つことで、保険の規定に漏れる地域的ニーズに対して独自性を持って展開してきたと言える。
  • 船引 彩子, 高野 洋一, 竹村 貴人, 濱本 昌一郎, 小松 登志子
    セッションID: P1225
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.   はじめに東日本大震災及に伴う原発事故以降,再生可能エネルギーである地中熱を利用したヒートポンプの導入が各自治体で促進されつつある.しかし実際にヒートポンプを導入した場合の地下の熱汚染や地下水流動への影響については不明な点が多い.本研究は,ボーリング資料から作成した三次元の地質モデルを利用し,首都圏での地中熱利用に伴う影響を事前評価した結果を報告するものである.2.   対象地域の地質と研究手法関東平野西部には武蔵野台地に代表される更新世後期以降の段丘地形が広がり,特に多摩川の下流域左岸には一部に最終間氷期の堆積面である下末吉面が分布している.本研究では下末吉面の淀橋台地西端(稲子ほか,1978)で掘削されたCRE-NUCHS-1コア(船引ほか,2011)を中心とした東西5km×南北5kmの範囲でボーリング資料を収集し,熱汚染の影響が予想される地下20~30mの範囲で,関東ローム・段丘礫層および上総層群の分布域を明らかにした.さらに岩相を考慮して平均熱伝導率を求め,地下水位から求めた地下水の流向・流速について検討した.3.   結果と考察段丘礫層は主に神田川・北沢川・烏山川の流路沿いに集中している.また下末吉面の中央部では段丘礫層の分布が見られず,上総層群を直接ローム層が覆っている.計算の結果,段丘礫層の集中する地域では特に熱伝導率が高く,地下水流速(浸透速度)も速い傾向が見られた.このことから,当地域においては礫層の厚さを地中熱利用の適地選定を考慮する条件のひとつとすることができる.
  • 佐藤 浩, 岡谷 隆基, 山中 雅之, 鈴木 啓, 関口 辰夫, 小荒井 衛, 宮原 伐折羅, 神谷 泉, 原 哲也, 八木 浩司
    セッションID: 111
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    合成開口レーダー(SAR: synthetic aperture radar)は,人工衛星や航空機から地表に向けてマイクロ波を射出し,その反射波を観測して地表面の性状を把握する技術である.ALOS/PALSARデータを使った平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(M9.0)の地殻変動に伴うSAR干渉画像は国土地理院ホームページから公開されている.この画像では地殻変動とは別に局所的な変動を示す干渉縞が見られ,地震に伴う地すべり性地表変動を検出した可能性があるので報告する.
  • 塚本 章宏, 松葉 涼子
    セッションID: P1319
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1 はじめに
    本報告は、近世期の京都に関する地誌・案内記類を対象史料として、当時の商工業者・文化人などの居住地をデータベース化する取り組みを紹介するものである。また、本データベースとGISを連携させて、商工業者・文化人らの居住地分布の時空間的変遷について、試験的に分析を試みた具体的事例の結果も示したい。本取り組みにおいて注目した史料は、『京羽二重』とそれに関連する地誌・案内記類である。このシリーズには、「諸師諸芸」・「諸職名匠」の項目が設けられ、当時の文化を支えた芸事の師範や伝統工芸品の商工業者に関する名前・住所が職種ごとに掲載されている。

    2 データベース化の対象:京都府立総合資料館所蔵史料
    地誌・案内記類については、影印で写真が確認できるものや、活字で利用できるものが多数ある。しかし、原本が存在していながら紹介されていないものも多い。そこで、京都府立総合資料館が所蔵する地誌・案内記類を基盤史料と位置付け、デジタル撮影を行った。撮影は、立命館大学アート・リサーチセンター(ARC)の協力のもとで進められ、70点(202冊)、11,138カットの画像が作成された。現時点では、パスワード付きでARCの古典籍書籍閲覧システムよりデジタル画像の閲覧が可能である。

    3 事例:漆器関連産業の空間的分布
    京都の地誌・案内記類には、あらゆる職種の住所が掲載されており、その多くは縦横の通名で表されている。つまり、交差点レベルで産業の分布構造を復原することが可能である。本報告では、試験的な分析として、漆器関連産業の商工業者を取り上げる。GISを用いてこれらの住所情報から50年ごとの空間的変遷を示す地図を作成した。本図からは、初期から中期にかけては洛中全体に分布していたが、19世紀なると下京中心の分布に変化した様子が明らかにされた。

    4 おわりに 
    このように地誌・案内記類に記述された情報を統合してGISデータを作成することで、近世京都の多年次に及ぶあらゆる産業に関わる人々の分布を示す地図の作成が可能になる。現時点では画像と書誌情報のデータベースであるが、これをGISと連携・発展させ、商工業者・文化人からみた産業都市京都の新たな一面を描き出すことを本取り組みの最終目的としたい。なお、京都府立総合資料館のトップページから本データベースへのリンクを作成するなど、一般公開に向けた準備を進めている。
  • 高橋 信人, 加藤 内藏進
    セッションID: 706
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.目的
     日本の梅雨期と秋雨期は、主に日本付近に停滞する前線によって北海道以南の各地に降水がもたらされる季節である。これら両季節における旬単位程度でみた降水量分布の季節進行は、平均的にみると、前線分布の季節進行に同調する。しかし、それぞれの降水イベントに注目すると、例えば2つの事例で地上天気図上の前線がほぼ同じ位置に解析されている場合であっても、両者の前線活動に伴う雨域の広がりはしばしば大きく異なる。本研究では、このような前線活動に伴う雨域の広がりの違いが、周辺のどのような大気循環場に伴って発現しているかを、特に大気循環場が大きく異なる梅雨期と秋雨期の違いに注目して明らかにすることを目的とする。

    2.データと方法
     調査対象期間は1998年から2007年の10年間の梅雨期(6月、7月)、秋雨期(9月、10月)とする。前線データは、9時と21時の気象庁地上天気図上に描かれている前線の位置(緯度)を、緯度1度単位で東経130度と140度において読み取ったものを用いる。また、降水量データには、日本各地のアメダスの時間降水量を用いる。
      本研究では、梅雨期と秋雨期の地上天気図上で頻繁にみられる、次の位置に前線が伸びる降水イベントに注目する。
    ・A:日本の南沖(30°N, 130°E ~ 32°N, 140°E)
    ・B:日本の南岸(33°N, 130°E ~ 35°N, 140°E)
    ・C:日本海から東北地方(35°N, 130°E ~ 38°N, 140°E)
     そして、これらのイベントA~Cにおいて、事例ごとに気圧配置と雨域の関係を分布図の比較を通して整理する。

    3.結果
    10年間の1日2回の地上天気図をもとに、イベントA~Cを、梅雨期からは順に18、17、6事例、秋雨期からは順に9、7、6事例選出した(連続する事例も含む)。これらの各イベントの出現時期をみると、それぞれ特定の時期に現れやすいことが確認された。次に、各イベントの事例ごとに気圧配置を調べて分類し、気圧配置と降水量分布(前後6時間、例えば9時の天気図の場合は7時から12時までの6時間降水量)の対応関係を整理した。明らかになった特徴をイベントごとに以下に示す。
    ①イベントA: 気圧配置をみると、梅雨期に多くみられるのは、前線に沿って西方から湿舌に対応した低圧域が伸びる事例(9事例)である。雨域の広がりは低圧域が伸びてくる方向により異なり、例えば南南西から九州南部に低圧域が伸びる事例(7事例)は、九州南東部を中心とした雨域がみられる。一方で、このような西方からの低圧域が侵入していない事例(8事例)では、雨域は狭い。また、雨域が関東を中心に広く拡がるのは関東南岸付近の前線上に小低気圧がある場合(1事例)であった。秋雨期の事例をみると、9事例とも付近に熱帯低気圧(台風を含む)が存在するが、雨域が日本の南岸地域に及ぶのは、日本の南沖に熱帯低気圧が発達している時(3事例)である。一方、雨域が関東を中心に拡がるのは、梅雨期と同様に関東付近の海上の前線上に小低気圧も存在している時(2事例)であった。
    ②イベントB: 気圧配置をみると、梅雨期に多いのは日本海に前線を持たない小低気圧が存在する事例(6事例)である。この時、九州地方(主に南部)と東北地方で雨域が拡がる。日本海に小低気圧がない場合は、東北地方の雨域は不明瞭で、九州地方をはじめとする前線付近のみに降水域が限られる。また、九州北岸付近で前線上に低気圧の中心がある事例(2事例)では、雨域が西日本に集中する。南西諸島付近に熱帯低気圧が存在する事例(3事例)では、前線付近の降水量が多く雨域は南北に拡がる。秋雨期の7事例はいずれも天気図上に熱帯低気圧が存在するが、前線付近の雨域が拡がるのは南西諸島付近に熱帯低気圧の中心が位置する時(4事例)である。
    ③イベントC: 気圧配置をみると、梅雨期は6事例中3事例で天気図上に熱帯低気圧が存在し、残りの3事例は西日本付近が気圧の谷(130~140°E付近の前線上に小低気圧の存在)となっていた。このうち、雨域が西日本から東日本まで広く拡がり、多降水地点が多いのは後者である。秋雨期は6事例すべてにおいて天気図上に熱帯低気圧が存在する。秋雨期と梅雨期の熱帯低気圧がみられる9事例では、南西諸島近海(北緯25-28度、東経125-132度)に台風の中心が位置する場合(5事例)は、九州南東部と東北・北陸の前線帯付近に雨域があるが、それ以外で熱帯低気圧の中心が日本列島から離れている場合(4事例)は、雨域が東北・北陸の前線付近に限られる。

     このように、梅雨期、秋雨期の前線活動に伴う雨域の拡がりを把握するためには、前線が伸びる位置に加えて、梅雨期には小低気圧または熱帯低気圧、秋雨期には熱帯低気圧の存在位置を特に考慮する必要があるといえる。
  • ハンドメイドコスメ店を事例に
    秦 洋二
    セッションID: 326
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    企業がどのような人材を採用するかは,当該企業の経営戦略と密接な関わりを持つ。しかし管見の限り,これまで地理学的研究においては,こうした経営学的視点が十分議論されない場合も少なくなかったと思われる。そこで本研究では,ハンドメイドコスメ店を事例として小売企業の採用戦略が当該企業の出店行動とどのように関わっているのかを考察することを研究目的とする。事例とするハンドメイドコスメ店(A社)はイギリス発祥であり,1990年代の後半に日本にも進出した。主として自社製造の固形石けんを販売している企業である。本社は東京であり,この不況下にありながら全店で黒字を確保するなど好調な経営状態を維持している。2000年代半ばにアットコスメ賞の受賞や雑誌ハナコへの掲載といったメディア露出により消費者認知を高め,成長軌道に乗っていった。A社の経営上の特徴は,フランチャイズ店舗を持たず,全ての店舗を直営店としていることにある。同社が実店舗販売,それも直営店による販売にこだわる理由は,比較的高価格の同社の商品をできるだけ値下げせずに販売しようとしているからだと考えられる。このように高品質ではあるが、比較的高価格な商品を販売するために最も効率的な地点として,A社は全国各地の大都市ターミナル駅周辺や大型ショッピングモール内を中心に出店している。人材採用面の特徴としては,正社員だけでなく契約社員やアルバイトも含めて全従業員が自社採用であり,派遣社員はいないことが挙げられる。従業員に自社商品に対する十分な理解を持たせ,実店舗において消費者を惹き付ける商品紹介や接客を行わせることで,比較的高価格の商品の販売を可能としている。しかしながら,こうした従業員教育の徹底は一方で問題も孕む。同社はリニューアルを含めて年間20店舗程度の新規出店を行っているが,これらの店舗の運営に携わる従業員に,商品知識以外のいわゆる新人教育を一から施していたのでは,この出店スピードは維持できないのである。そこでA社は従業員募集において新卒を一切採らず中途採用のみに絞り,即戦力となる人材を積極的に採用しているのである。中途採用の募集は人件費の高騰にも繋がりかねないが,A社の場合はそれよりも従業員に対するトレーニング・コストの削減及び出店地域の迅速な拡大の方が,より有益であると判断してこのような施策をとっていると考えられる。
  • 汚染の分布をいかに地図化するか
    近藤 昭彦, 小林 達明, 鈴木 弘行
    セッションID: S0105
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    2011年3月11日は日本にとって忘れられない日となった。東電福島第一原発の一連の事故により大量の放射性物質が環境中に放出され、阿武隈の山村で人の暮らしが突然奪われてしまった。人と自然の関係学である地理学の立場から、福島に通いつつ地理学の貢献のあり方について考え続けてきた。
    福島県を含む広域を対象として空間線量率、沈着量等の地図化が試みられている(文科省HP)。しかし、地域はそれが狭くても個性を持つ。“暮らしスケール”の汚染の実態を認識し、対策を進めるためには地域の個性を理解する地理学の知識、経験が力を発揮すると考えられる。
    現在公開されている空間線量率、沈着量等のマップは自動車による走行サーベイ、および航空機サーベイによって作成されている。走行サーベイでは道路上の測定しかできない。航空機サーベイはフットプリントの範囲の平均を測定しているが、汚染状況は3月の沈着時の不均一性に加え、その後の再配分により複雑になっている(近藤ほか、2011abc)。
    放射能汚染地域の今後については机上で考えるのではなく、まず地域と話し合い“問題の解決を共有”する枠組みを作る必要がある。その中で研究者の役割の部分を果たしていく態度が必要であろう。
    山村の暮らしは田畑、住居、裏山の水循環・物質循環を取り込んで行われている。暮らしの復旧を目指した除染は住居から一定距離のバッファー領域では不十分で、住居を含む小流域スケールの視点で考える必要がある。そのために地理学の知識、経験が役に立つはずである。
  • 増山 篤
    セッションID: 212
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     一つの地域が、単変量ないし多変量属性の与えられた空間単位の集合からなるとする。このとき、
    1) どの空間単位のグループ(以下、部分地域)も空間的に連坦している
    2) 一つの部分地域を構成する空間単位はなるべく似通った属性値を持ち、部分地域内部は最大限均質となる
    という二つの条件(以下、これらの条件をそれぞれ連坦性条件、均質性条件と呼ぶ)を理想的には満たすものとして、空間単位の集合をグループに分ける試みは地域区分(regionalization)と呼ばれる。
     多くの場面での地域区分を行うニーズから、地理学とその周辺分野では、いくつかの地域区分方法が提案されてきた。これまでの先行研究を見ると、連坦性条件を必ず満たす地域区分方法の中では、Full-Order CLK法と呼ばれる方法が、均質性条件に最も適うものだと目される。ただし、この方法によって必ずしも大局的に最適な区分に達する保証はなく、これを上回る地域区分方法は存在しうる。
     空間単位の属性が単変量であるとき、(部分地域の均質性を偏差平方和によって評価するならば)ある区分が均質性条件の点で大局的最適となるための必要条件が存在し、等値線に沿った区分はこの必要条件を満たすことは知られている。このことから、空間単位の持つ属性が単変量の場合、等値線に沿った区分を列挙し、その中から最も均質性条件に適うものを選び出す地域区分方法も考えられる。また、空間単位の持つ属性が多変量の場合、まず、主成分分析を行い、次に、各空間単位に第一主成分得点を与え、そして、主成分得点の等値線に沿った区分を列挙し、最も均質性条件に適うものを見出す地域区分方法も考えられる。以下、等値線を用いる地域区分方法を等値線法と呼ぶことにしよう。空間単位の属性が単変量である場合、等値線法がFull-Order CLK法よりも均質性条件に適う区分を見出すことがあることは示されている。しかし、一般的にも、等値線法がFull-Order CLK法を上回るかどうかは知られていない。さらに、空間単位の属性が多変量の場合における等値線法のパフォーマンスついては何ら知られていない。
     そこで、この研究では、等値線法とFull-Order CLK法等の既存地域区分方法を繰り返し実行した結果から、等値線法とFull-Order CLK法等のいずれが優れるか明らかにすることを試みる。
  • 佐藤 浩
    セッションID: P1309
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年,通信手段や通信機器の発達による技術的状況の著しい変化を踏まえ,電子国土Webシステムを介さないで国土地理院の背景地図等データを利用したいという需要が高まってきた.このため,国土地理院は本規約を策定して,2011年10月6日に電子国土ポータルサイトから公表した.本発表では,本規約の内容を説明する.
  • 小島 大輔
    セッションID: P1322
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    ソルトスプリング島は,「芸術家の島」や「オーガニックの島」として紹介され,“Salt Spring Culture(Graci and Dodds 2010)”の体験は,サスティナブル・ツーリズムの成功例とされている.本研究は,カナダ・ソルトスプリング島における観光地化の特徴を明らかにすることを目的とする.
    ソルトスプリング島の観光対象の形成は,移住者の変遷と深く関わっている.1961年,カナダ本土やバンクーバー島とのアクセス改善が図られ,移住者が増大することとなった.まず,1960年代から70年代,芸術家や工芸家が,同士が集う心地良い環境に魅了されて移住するようになった.移住した芸術家の製作した工芸品は,やがて1973年に始まった土曜市の中心的な要素となっていった.
    1980年頃から,島内の芸術家によってスタジオ・ツアーが開催された.これは,芸術家のアトリエ等を開放し,製作現場の見学,作品の購入ができるようにした取り組みである.近年は,食品や農場もツアーに組み込まれるようになった.
    1980年代から90年代にかけては,退職移住者が流入するようになった.1990年代半ばには,バンクーバーやビクトリアなどの都市に近いことから,快適な生活を求めた専門家や起業家などのより裕福な移住者が流入してきた.これによって,地価の高騰が生じ,マンション,高層建築開発や戸建開発などの建設ブームが起きた.また,中心市街のガンジェスには,専門店,グルメ志向の食品店,カフェおよびレストランといった洗練された多様な施設が付加され,RBD(Recreational Business District)が形成されていった.
    ソルトスプリング島には,約100軒の宿泊施設がある.その構成は,約3割がB&B,約6割が貸部屋であり,ホテルとその他をあわせても約1割に過ぎない.施設当たりの平均部屋数は3部屋程度であり,小規模な施設が多くを占めている.これらの宿泊施設は,1990年代初頭に急増し,多くの来訪者の受け入れが可能になった.
    ソルトスプリング島における観光の独自性は,1960年代以降の島の環境に惹かれた移住者によって形成された観光形態に加えて,環境保護運動の活発さやバンクーバー島への架橋への反対など島嶼地域としての「隔離性」を維持し続けることによって形成されたと考えられる.
  • いわき市川前町高部地区の事例
    髙木 亨, 田村 健太郎, 大塚 隆弘, 佐藤 竜也, 佐藤 亮太, 清水 康志, 高橋 琢, 吉池 隆, 鳥海 真弘, 浜田 大介
    セッションID: 105
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    東日本大震災を起因とする福島第一原子力発電所の事故は、福島県を中心に甚大なる放射性物質による汚染被害をあたえ、今なお多くの住民に避難を強いている。  今回の原子力災害では、県内をはじめ各地域で、避難「する」「しない」といった住民の「分断」が見られる。これは、住民間に対立を生み、地域コミュニティの崩壊を招く恐れがある。本研究では、このような分断を発生させる要因について、一つの集落での住民の避難行動を分析することによって明らかにし、「分断」の予防について検討することを大きな目的としている。今回の報告では、以前から交流のある福島県いわき市川前町高部地区を事例に、住民の原発事故発生直後の「避難する・しない」の判断をさせた要因について明らかにする。  高部地区は福島第一原子力発電所から半径30km圏のすぐ外側、31~32kmに位置しており、事故発生直後からその影響が心配された地区であった。事故発生当時はどの程度の放射能汚染があるかははっきりと把握できなかった。このため事故発生直後、高部地区外へ避難した住民と避難しなかった住民とに二分される結果となった。表1は事故発生直後に避難した住民への聞き取り調査結果である。避難先は、福島第一原子力発電所から遠いところであり、遠方にいる親戚や子息を頼って避難している。避難理由は様々であり、親族の病気や娘の避難の呼びかけに応じて、というものである。しかし、避難先での暮らしが窮屈なこともあり、早々に避難先から高部地区へ戻って来ている。  一方、避難しなかった住民は、住民同士が声を掛け合い、15日あたりから集会所に集まって過ごしていた。17日には屋内待避指示の関係で福岡県警の警察官が集会所に常駐、放射線の観測機器等を持っていたことから、住民に安心感を与える事となる。避難しなかった理由は、仕事の関係、家畜の飼育などの理由であった。  「避難した・しなかった」は、住民間にとっても微妙な問題である。個々の住民が抱える状況によってその行動に差異が生じている。このため住民間のコンフリクトを引き起こし、地域コミュニティの崩壊につながる可能性があった。一方で、一時避難から戻って来た住民を「受容」するなど、コミュニティ維持への「知恵」ともいうべきものがみられた。
  • 湖山池と鳥取砂丘を事例に
    新名 阿津子
    セッションID: S1206
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本報告は,山陰海岸の湖山池を事例に,ジオストーリーの再構築過程について示し,大地の遺産百選の選定に向けて「ストーリー性」,「ストーリーの多様性」をその基準に加えることを提案するものである.ジオパークにおいてストーリー性およびジオストーリー(大地の物語)の多様性が,ジオサイトの活用において重要なものとなっている.実際,ジオパークで語られるストーリーの時空間スケールは広がってきている.このジオストーリーの時空間的広がりが,ジオサイト間の学習行動ならびに観光行動に結びつき,ジオストーリーを巡る多様な周遊形態を生み出している.山陰海岸ジオパーク(以下,山陰海岸)において地域の認識は、地形地質といった狭義のジオから,広義のジオへと解釈が変化しつつあり,現在,多様な地域性を示すジオストーリーの再構築が行われている.事例とする湖山池でジオパークへの取り組みが本格化したのは,2010年5月以降である.湖山池公園管理事務所に湖山池情報プラザが開設されたことを受け,建物のエントランスに湖山池およびその周辺地域に関する展示パネルを共同で作成した.山陰海岸のジオサイト百選には,湖山池と湖山砂丘が選定されている.パネルの作成過程で,ジオサイト百選に示されている説明をベースとし,湖山池のストーリー形成についての議論を行った.その結果,湖山池では湖山池とその周辺地域にある多様なジオストーリーを構築し,これらをジオツアー等で活用している.さらに,湖山池南東岸で甌穴群と水上飛行機桟橋跡の存在が確認され,現在,調査研究が行われている.この湖山池でのジオストーリー再構築過程において,時空間的な広がりを持たせることができているものの,湖山池およびその周辺地域では環境の改変が大きく,また水環境の問題も抱えていることから,「鑑賞に値する価値(岩松2010)」を持つジオサイトとして認識されているとは言い難い.ゆえに,湖山池そのものを大地の遺産百選の1候補地として推挙することは難しい.一方で,湖山池は広義の鳥取砂丘を構成する一つの要素であり,狭義の鳥取砂丘を補完する地域としての性格を有する.広義の鳥取砂丘を軸としたジオストーリーを構築した場合,湖山池を含む砂丘地の自然環境から人間活動まで多様な展開をみることができ,砂丘地の広がりとその利用形態の多様性を来訪者に伝えることができる大地の遺産となるのではないだろうか.
  • 咏 梅
    セッションID: P1202
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     
    1.  はじめに内モンゴル草原は、半乾燥地域から半湿潤地域に位置し、自然草地資源として、中国北部の重要な牧畜生産基地となっている。しかし、近年温暖化と人為撹乱などの影響により、草地退行が進行し、沙漠化が問題になっている。一方、近年内モンゴル沙漠・沙塵暴防止などの努力の結果、地域によって植生の緑化に成功しているとも言われている。しかし、多くの研究では特定の2つの時点の比較から沙漠化の進展を議論しており、 全体的な変化傾向を必ずしもとらえていないと思われる。また、沙漠化の進展や回復の要因については人為的影響が大きいと論じている研究が多く、気候変動など自然的要因から論じた研究は少ない。2.  研究方法およびデータ本研究では、近年沙漠化の進展が著しいと言われ、北京・天津で急増した砂塵暴の発生源として注目を集めているシリンゴル草原の渾善达克沙地に注目し、詳細な解析を行った。まず1981年から2010年までのAVHRR/GIMMSとMODIS/TERRAの衛星データを使用し、生育期間の植生量を算出した。植生量の指標として年最大NDVI値と4月~10月積算NDVI値を用い、年々変動および長期変動の時空間変化を調べた。次に、渾善达克沙地内11観測点の気温と降水量のデータを用い、NDVI値に及ぼす影響を調べた。最後に、家畜頭数変化、植林、土地利用変化などの人為的影響がNDVI値に与える影響を検討した。3.  結果シリンゴル草原における渾善达克沙地では、対象期間30年全体を通してみると、植生指標には、明瞭な増減傾向は見られなかったが、2003年以降でみると減少傾向がみられた。降水量と気温の両方を用いて重回帰分析した結果、NDVI実測値と予測値との重相関係数Rは積算値で0.83、8月値で0.91と非常に高かった。すなわち、先行研究や各種メディアで喧伝されるほど、過放牧や過耕作等の人為的影響が沙漠化の主たる要因であるとはいえない。
  • ―大分県竹田市を事例に―
    上村 博昭
    セッションID: 415
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    Abstract:地理学では,農産加工の事業展開に着目した研究,担い手としての農村女性の社会進出に着目した研究がみられている.一方で,2010年には「六次産業化法」が成立するなど,農産加工の事業化に対する政策的支援が強化されている.いわゆる「六次産業化」の議論では,農業者を始めとする主体を農産加工の担い手と捉えるが,この場合には,担い手が農産加工,あるいはその事業化ノウハウを有していないケースもみられることが想定され,その点で,公的支援などによる担い手の育成と事業化の支援が求められている. そこで本報告では,人材育成を切り口とした公的補助事業による農産加工の事業化を採り上げ,その事業概要と進展の経緯,農産加工品開発の過程,担い手の状況について検討する.事例である大分県竹田市では,2007年度から2010年度にかけて,厚生労働省の地域雇用創造推進・実現事業が実施され,農産加工の事業化を通じた人材育成と事業化支援が行われた.本事例では,人材育成と農産加工品開発の場となった「研究会」において,地域資源の探索と農産加工技術の導入が行なわれている.推進・実現事業の終了後は「たけた食ネットワーク」が後継組織となっており,農産加工事業の担い手による自主的な組織運営が行なわれている. 竹田市の事例は,農産加工そのものではなく,農産加工を通じた人材育成と事業化による雇用創出を目標としていた.そのことが,参加者を広範に集め,農産加工事業の担い手にみられる多様性を生み出す素地となった.担い手の多様性は, 農産加工品と事業形態における多様性を現出させた一方で,全体での統一性の欠如をもたらしている.なお,加工組織の内部では,小規模な「六次産業化」的な動きがみられるものの,担い手同士の連携には発展していない.この背景には,担い手の大半が副業で農産加工を実施していること,集落や家族内部の嫉妬や反対が事業展開上の制約となったこと,連携の経済的効果が見出されないことを挙げることができる.一方で,担い手はノウハウ不足,販路整備を共通の課題としており.その支援が必要となっている.本事例では,支援に対して民間での取組みが試みられているものの,採算面で課題があるため,公的な支援が有効となろう. その際には,担い手を地域資源のPR主体と捉えることが求められる.
  • 東 善広, 大久保 卓也
    セッションID: 522
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     近年、琵琶湖や内湖に流入する河川において、治水や利水のための整備が進められ、河川環境が大きく変化した。特に、堰等の河川構造物は、魚類等の生き物の移動経路を寸断するため、生息環境への影響が懸念されるため、琵琶湖流域における河川の変遷および上下流の連続性について、マクロ的に把握した。
     その結果、湖辺域における内湖と河川・水路分布については、明治時代は、内湖に接続する水路が多く、流路の分布は、琵琶湖-内湖-河川・水路のつながりが明確だった。一方、現在は、琵琶湖に接続する河川・水路が多く、流路の分布は、直線的形状を示すものが多くなっていた。河川の上下流の連続性を阻害する可能性のある取水堰等については、1968年と2006年の資料で調べたかぎりでは、施設数は、1968年のほうが多かった。しかしながら、1968年当時の施設は、流れの一部を人力で堰き止めて作った小規模な井堰が少なくなく、生き物の移動への阻害度は低かったと考えられる。それに対し、現在の取水施設の大部分は、近代化・大型化し、頭首工やダムにより流れを大きく阻害するものであった。さらに、近年は、取水目的以外の多数の河川構造物が存在するが、下流から上流まで構造物が数多く分布し、落差によっては魚類等の移動を阻害する可能性のある構造物が多くの河川で存在していた。
  • 埼玉県北部地域を事例に
    伊藤 徹哉, 岩間 信之, 平井 誠
    セッションID: 715
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     人口減少の影響は,大都市圏においては外縁部でいち早く現れ,社会的・経済的な地域再編を生起すると予想される。本研究は,東京大都市圏外縁部を事例として,人口減少下にある都市地域の社会・経済的再編を明らかにし,今後の地域社会維持へ向けた課題を検討することを目的とする。分析では,統計分析による人口変化,アンケート調査に基づく地域住民の社会生活行動から社会的変化,中心市街地での商業活動から経済的変化を明らかにする。事例地域は,東京都心から北西60~70km圏に位置する熊谷市,深谷市,寄居町の2市1町に着目した。
     熊谷市と深谷市の中心部では高齢者のみ世帯の割合が相対的に高く,近隣住民との交流の機会も減少しており,また,消費行動においても近隣のスーパー利用が一般的となっている。一方で,高齢者のみの世帯の割合の高さや,若年人口も減少する中心市街地では,来街者が減少し,商業施設売り上げが減少するだけでなく,経営者の高齢化も進んでいた。両都市の中心部は,都市機能が集積する一方で,同居家族のサポートを期待できない高齢者のみ世帯の割合が高い状況に置かれており,日常生活のレベルの生活支援から,より専門的な医療・介護に至るまできめ細かな取り組みが,今後の中心市街地を対象とする都市施策に求められているといえる。
  • 鶴島 大樹
    セッションID: 729
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    雷は積乱雲や対流性降水の発生頻度を示す指標になりうるとして、その有効性が認識されつつある。例えばTakayabu(2006)では、TRIMMのデータを用いた解析により、エコー頂が-20℃層を超える背の高い雲からの降水の割合が、雷を伴う降水頻度と高い相関を持つことを示した。また最近では、衛星や地上電波観測等で推定した雷放電の頻度を気象モデルに同化させることで、密な気象観測の難しい海上や多島域における降水予測の精度向上に繋げようとする試みもある(Pessi and Businger,2009)。このように雷のデータは、広域に渡る積乱雲発生頻度の様相把握、極端気象の予測精度向上などに対し大きく貢献できるものと期待される。 近年、都市化によって雷放電の頻度が増加する可能性が指摘されている(Stallins and Rose,2008)。我が国においては、「都市型水害」に対する社会的関心も手伝って、東京近辺で発生する強雨を扱った研究が多数存在する(藤部,2004)。これらの研究では、都市熱の影響によって広域海風の収束がおこり、都心部およびその周辺に強雨をもたらす可能性が議論されてきた。しかしこの一方で、東京周辺の雷活動の実態と都市の影響についての調査は未だ行われていない。 本研究では、東北電力(株)が運営する落雷位置評定システム(LLS: Lightning Location System)により観測された1994~2010年の落雷頻度データを用いて、東京周辺における夏季(7~8月)落雷頻度分布の特徴を調べた。さらにAMeDSデータを併用し、都心周辺での雷雲の発生に関係する地上気象場の特徴を、複数件の事例解析を通じて調査した。
  • 日本地理学会災害対応本部 津波被災マップ作成チーム, 鈴木 康弘
    セッションID: 102
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     2011 年3 月11 日の東北地方太平洋沖地震により,広域的な津波被害が生じたことを受け,日本地理学会災害対応本部は津波被害を検討する作業チームを立ち上げ,航空写真判読に基づいて縮尺2万5千分の1の津波被害分布図を作成し,3 月29 日にインターネットを通じて発表した.(http://www.ajg.or.jp/disaster/201103_Tohoku-eq.html;英語ページもあり).
     被災マップ作成の目的は,被災範囲をできるだけ迅速に把握し,救援活動や復興計画の策定に資するデータを提供すること,および津波遡上の全体像を明らかにして現地調査のベースマップを提供するとともに,被害分布の地域性を明らかにして,被害の原因解明調査に資するデータを提供することであった.
     本発表では,マップ作成の経緯と意義について述べる.
  • 中井 達郎
    セッションID: S1203
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     サンゴ礁に対する関心は近年非常に高まってきている。それは、生物多様性保全上の価値、それに裏打ちされる観光や水産業等産業上の価値、あるいは人間の生活とのかかわりで認識される文化・歴史・社会上の価値が広く認識されるようになってきたためである。 しかし、そのサンゴ礁の価値については、サンゴ礁生態系の生物群集部分に対する評価にとどまっていることが多い。サンゴ礁生態系は、サンゴ礁上での地形・堆積物-波・流れ-生物を中心とした関係性によって成立している。サンゴ礁の利用と保護のためには生物的自然への理解だけではなく地学的自然およびそれらと人間のかかわりへの関心と理解が不可欠である。そのことは、2009年秋季学術大会(沖縄)でも述べたとおりジオパークという発想とその展開によって、この課題をクリアするきっかけとなる可能性がある。 本発表では、以上のような認識に立ち、「大地の遺産」、ひいてはジオパークとして日本のサンゴ礁を選出する場合の注目点を提示したい。
  • 廣内 大助, 堀 和明, 丸山 陽央
    セッションID: P1106
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    2011年9月15~22日にかけて日本列島に襲来した台風15号は,広い範囲で土砂災害や浸水被害を引き起こした.中心気圧は940hPa,最大風速50m/sの強い台風であり,紀伊半島に接近した後,21日14時頃に静岡県浜松市に上陸した.台風による人的被害は,全国で死者12名,行方不明者3名であった.9月15~22日の期間降水量は岐阜県多治見市で504mm,愛知県豊田市阿蔵で437.5mmであり,多治見市では20日に時間雨量76mmを記録し,24時間降水量も432mmと,観測史上1位であった.9月の月間平均降水量の2倍以上の雨が数日で降ったことになる.下流の名古屋市では庄内川流域の少なくとも2箇所で破堤,越流が生じた.また天白川にも氾濫の危険があり,100万人に避難勧告が発令された.本研究では,水害後に被災地域において浸水深などを調査し,水害の発生要因について考察した.
    下志段味の破堤地点は,堤防が未改修で周囲よりも低かったこと,堤防上面や法面が補強のない土手であったことが,破堤に大きく影響した.また浸水被害は低湿な後背湿地でより顕著であった.一方,八田川は人工河川であり,今回の水害では氾濫域と地形条件との対応は明確ではなかった.今回最も被害が大きかった越流地点は,追進町から北区東味鋺を結ぶ橋の上流側である.この橋は堤防より若干低く,上昇した八田川の水面が橋にぶつかり,両岸の堤防へ越流したことが原因である.また八田川上流側の越流も,この水位上昇に伴って発生した可能性が高い.橋の上流側では,越流した洪水流が堤防の背面を大きく侵食し,両岸とも決壊寸前であった.また左岸側の洪水被害が大きかった原因は,左岸堤防が若干低かったためと考えられる.さらに,東味鋺やその西に位置する2000年東海豪雨で大きな被害を受けた西味鋺での被害は殆どなかった.これは春日井市側へ流れた水が八田川と交差する地蔵川へ流入したが,両河川の交差はトンネルとなっており,一定量以上の水が下流の名古屋市側へ流入できず,結果的に地蔵川上流側に浸水域が拡大したためであろう.
    今回の水害では,守山区下志段味地区では,後背湿地など地形条件と湛水深との関係が見られたが,北区や春日井市では,堤防の高さや交差する河川の構造など,人工構造物の影響により浸水域や深さが決まったことが明らかとなった.
  • 古川 智史
    セッションID: 328
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     東京に一極集中する日本の広告産業において,これまでローカルな広告産業の存立基盤に着目した研究は少ない.そこで,本発表では,日本の地方都市における広告産業の特性を把握するため,大手広告会社の事業所配置に着目し,戦後以降の展開と再編の実態を把握することを目的とする.本発表では,年間売上高の上位に位置する電通,博報堂DYホールディングス(博報堂,読売広告社,大広),アサツーディ・ケイ(以下ADK)の事業所展開を,社史,業界誌,新聞記事等の資料から整理した.<BR> 大手広告会社を中心とした広告代理業は,戦後の民放の開局を契機に,地方への支所網を拡充した.当時,既に全国規模の営業所網を抱えていた電通もさらに支局を新設し,また東京以外に営業所を持たなかった博報堂も,大阪,名古屋,九州へ進出した.<BR> 一方,新聞社側の動向と密接に関わり,支所網が拡大する事例もある.読売広告社は,読売新聞社の動向にあわせ,福岡,北海道,名古屋に支社を開設した.また,朝日新聞との関係が強い大広は, 1961年に朝日新聞大阪本社管内の各県版広告取扱所を吸収統合した.その背景には,大阪朝日側が有力広告代理店の営業網拡大に対し営業拠点の強化の必要性を認識していたことがある.<BR> また,地方の有力広告会社との提携という形で全国ネットワークを構築する事例もみられる.ADKの前身である第一企画は全国サービス網を拡充するため,地方有力広告会社と連携し,1974年DIKパートナーズネットワーク(現ADKパートナーズネットワーク)を発足させた.<BR> 大手広告会社の事業所展開に大きな変化が見られるのは,1990年代以降である.この時期に,支社を分社化し地域広告会社を設立する動きが活発化した.地域子会社の設立は,地元の需要への即応,新たな広告主の掘り起こしなど地域への密着度を高めることを企図する一方で,地域別の賃金体系を採用することでコスト削減に結びつけるという経営的な理由もある.<BR> 2000年代に入ると,地域子会社の再編も進んだ.地域子会社の合併の背景には,管理機能を統合して経営コストを圧縮するとともに,経営規模を拡大することで子会社の経営基盤の強化を図ることがある.
  • 横手盆地の稲作農村を事例に
    高橋 靖典
    セッションID: 409
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    2005年に決定された品目横断的経営対策において集落営農が担い手として政策に組み込まれ、それ以降比較的農業労働力の残存している地域でも集落営農の形成が進んだ。こうして設立された集落営農は、従来の集落営農とは異なる性格を持つと考えられる。
      本研究では、集落営農が設立された集落においてその前後で農業がどのように変化したのかを明らかにし、政策推進によって形成された集落営農の地域農業における役割について考察する。
      研究対象地域は集落営農数の増加が特に顕著に見られた秋田県とした。その中で集落営農を組織主体型と個別経営維持型に大別し、それぞれの事例として横手盆地の2集落をとりあげた。
    組織主体型の事例集落では都市部への近接性の高さにより1970年代から郊外化・工業化が進展し、混住化が進んできた。そうして他産業に農業労働力が流出していく中で、兼業による粗放的な水稲単作の農業構造が形成され、2000年代に入って高齢化と後継者・担い手不足が顕在化した。集落営農化については、法人の代表者と常勤職員2名が中核となり、外部からの雇用労働力を利用して農業を行うという形になっている。
      個別経営維持型の事例集落では工業化の影響は小さく、兼業化は進展したものの恒常的勤務との兼業が主になったのは1990年代以降であった。そして、1980年代後半に生産調整への対応と農業収入の向上のために水稲に加えてネギなどの野菜を栽培する農家が増加した。この集落では、2005年時点で比較的若い農業者が多く、集落営農化に先立って水稲の栽培協定や野菜の共同栽培が始められていた。集落営農化については上記の活動に加えて転作田の団地化や一部機械の共同利用なども行われるようになったが、基本的には個別農家の維持されている。
    組織主体型の事例は労働力の不足への組織的な対応という面で従来の集落営農と同様の性質をもつとみられる。一方で個別経営維持型の集落営農については、現状では労働力の不足が深刻ではないといっても将来的には農業従事者の高齢化と減少が進むことから、段階的に組織主体の組織へと移行していくと考えられる。つまり、個別経営を継続したい農家との軋轢を避けつつ、労働力不足が深刻になる前に将来の共同化や経営集約への下地を作ったといえる。しかし、組織としての活動が小さいものは自然消滅する恐れもあり、今後の動向が注目される。
  • 橋本 暁子
    セッションID: 408
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     本研究は,京都市北区上賀茂における野菜生産および行商の変化と実態を検討し,野菜行商が存続している要因を明らかにする.本研究では,1662年以降の集落は上賀茂地区,柊野地区,深泥池地区,3地区全体を上賀茂と記す.
     上賀茂では,明治期以降,本格的に野菜の栽培および行商が開始されたが,高度経済成長期を通じて変化が見られた.まず,1960年から1975年にかけて上賀茂全体で世帯数が急増した.これに伴い農地面積が減少し,離農あるいは兼業農家が増加した.また,農地をマンションや駐車場などに変える農家も出現した.1950年代後半から1970年代にかけては,農業器具の機械化と化学肥料の普及により農作業にかかる労働力が軽減し,替わりに野菜の栽培品目数が増加した.農業器具の機械化以前は,重労働であった農作業を男性が担い,結果として女性が行商を担っていたが,女性が行商を行うことが慣例化し,現在も女性が行商を行っている.また,1950年代から1960年代にかけて農家の若い女性が運転免許を取得し,リヤカーから軽トラックによる運搬に切り替え,行商範囲が拡大した.
     現在,上賀茂の世帯数は5,192,農家戸数は253で,行商を行っている農家は55戸である.上賀茂地区と深泥池地区では行商以外にスグキの生産,柊野地区では米による収入を得ており,不動産収入はいずれの地区の農家も得ている.行商従事者は女性が圧倒的に多く,60歳代の女性が最も多い.夫婦間での作業内訳は,主に夫が圃場を管理し,妻は行商と夫の作業の補助を行う.妻は野菜の販売量を夫に報告し,翌日の収穫量を夫が判断するため,妻の報告が重要な指標となる.農地面積は平均50.6aである.野菜の栽培品目数は,上賀茂地区の表作が約17.5種類,柊野地区の表作が約27.5種類,裏作は約17.8種類と,多品目を少量ずつ栽培している.しかし,所有する農地面積が少ないため大量生産ができず,共同出荷は行われてこなかった.購入客は,「作っている人の顔が分かるから安心して買うことができる」と話し,農家が直接販売することで野菜に対する信頼が維持されていることが分かる.
     流通機構が整備されている現代においても,上賀茂で行商が野菜の主な販売手段である要因は,1戸当たりの農地面積が狭小であるために大量生産ができず,共同出荷に適さない点に集約される.
  • 笠原 天生, 鈴木 毅彦, 今泉 俊文
    セッションID: 604
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    郡山盆地は,東北日本弧の前弧側に位置する内陸盆地である.盆地内には,丘陵化はしていないものの台地化した段丘が広く分布しており,その構成層(郡山層)は厚い未固結堆積物からなることが知られている(鈴木ほか 1967).今回,郡山盆地においておよそ100mのオールコアボーリングが実施され,郡山層のほぼ全層および盆地地下に挟在する火砕流堆積物が確認されたので報告する.本研究で使用したKR-11-1コアは,2011年に福島県立郡山北工業高等学校内(37°25’43.7”N, 140°22’28.6”E, 標高248.6m)において掘削された,オールコアボーリングである.コア長は100.33mで,肉眼で観察されるテフラ層が7枚と,1枚の火砕流堆積物が挟在される.周囲の地形との関係から,郡山層の最上部5m程度はコアに含まれていないと考えられる.郡山盆地における各種のボーリング資料の解析によると,郡山層の基底深度は起伏に富み(鈴木ほか 1967),丘陵状の地形が存在するらしい.これらのことから,郡山層堆積前の時期には侵食作用が卓越していたことが示唆される.芦野火砕流堆積物は,郡山盆地東方に位置する阿武隈山地北西部の小起伏面上に存在することが明らかにされており(鈴木・植木 2006),単純にKR-11-1コアの火砕流の基底と差を取ると,およそ130mの比高が導かれる.この値の一部は,火砕流が流下して以降の郡山盆地と阿武隈山地の異なる垂直変動様式を反映している可能性がある.
  • 島津 弘
    セッションID: 626
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    上高地の徳沢-明神間の梓川で上高地自然史研究会が1994年以来行ってきた調査により,上高地における梓川河床の地形は数年に一度変化することがわかっている.2010年夏および2011年夏に簡易測量に基づいて作成した地図の比較および現地観察から,2011年に地形変化が生じたことが明らかになった.また,2011年7月3日から10月4日まで設置した継続観察地を撮影したインターバル撮影カメラの映像から,当該期間について増水の状況,降雨との対応が明らかになった.そこで,この地形変化の特徴を記載するとともに,地形変化と降雨の関係について検討した.2011年の最大級の連続降雨を記録したと推定される6月22~25日の降雨では23日の10:00~11:00に17mm/hを記録した.その後,23日13:40にアメダスが計測不能となり27日まで欠測が続いたため,この期間の23日の日雨量,期間の総降水量は不明である.明神橋近くにある信州大学上高地ステーションにおける雨量計による計測によると,6月豪雨の期間内に検証を要する値が含まれているものの6月23日の日雨量はおよそ120mmであった.このほか2011年には梅雨入り前の5月10日に123.5mm,台風15号が接近した9月20日に148.5mmを記録した.継続観察地の地形は2009年以降毎年変化が生じた.主流路は幅250mの河道の中央部に主流路が位置するという傾向は2007年以降変化していないが,2010年と比較して主流路の位置の移動と流路分岐のパターンの変化が認められた.この地形変化は観察と降雨状況から5月10日または6月23~25日の降雨のいずれか,または両方で生じたと推定される.カメラの設置許可が梅雨入りに間に合わず,6月の豪雨時の地形変化を記録することはできなかった.カメラ設置後の9月20日に日雨量140mmを超える降雨があったが,主流路がわずかに側刻された程度で地形変化は小さく,カメラで捉えられるような流路の移動は生じなかった.なお,このときには主流路周辺は河床の一部を除いて全面的に流れで覆われていた.以上のことから,以前からの予測通り,梅雨時期あるいは融雪時期における日雨量120mm程度以上の降雨で地形変化が生じるが,梅雨明け以降は豪雨が降っても大きな地形変化は生じないことが確かめられた.
  • 小泉 武栄
    セッションID: S1202
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    日本のジオパーク活動をもっと盛んにし、地理学のファンを増やすために、大地の遺産を100、早急に選んで公表しよう。
  • 佐々木 明彦, 高橋 伸幸, 長谷川 裕彦, 澤口 晋一
    セッションID: 611
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    ■はじめに 大雪山の高山帯では,泥炭を主体とする土層が湿原や雪田草本群落を中心に分布する(高橋,1992)。これらの土層の生成開始期や層相の変化の時期を明らかにすることは,大雪山の高山帯環境の変遷を議論するうえで重要である。 ところで,大雪山中央部に位置する白雲岳の南東側斜面には,圏谷状の地形(以下,白雲圏谷)がみられる。白雲圏谷内には,堤防状の高まりが複数列認められ,それらは完新世の氷河作用によるモレーンであると考えられる(長谷川ほか,本大会で発表)。これらのモレーンが異なる時代に形成されたとすれば,モレーンを覆う土層の生成開始年代も異なるであろう。 本研究では白雲圏谷において土層や斜面構成物を記載し,それらの生成年代あるいは堆積年代を明らかにすることを目的とする。
     ■土層の概要 白雲圏谷の圏谷底でみられる土層は,層厚がおおむね20cm程度かそれ以下の,シルト~細砂を含む腐植質土層であることが多い。ただし,それらの分布はモレーンと考えられる堤防状の高まりの上に限られる。モレーンの周囲は,8月半ば以降も残雪が滞留するために,植生に乏しく,腐腐植質土層は生成していない。またモレーン上の水はけの悪い場所には,イネ科やスゲ科の高茎草本が群落をつくり,そこでは泥炭が生成している。一方,白雲圏谷の外縁部から下方では,土層はおもに泥炭質土層からなり,流水成の砂礫層がそれに挟まることが多い。また,土層の基底部には厚さ5~10cmのスコリア層が特徴的に認められる。
    土層には複数のテフラ層が介在する。これらを中村ほか(1999)にしたがって対比した。圏谷底のモレーン上の土層には樽前aテフラ(Ta-a;AD1739年)と駒ヶ岳C2テフラ(Ko-C2;AD 1694年)が介在する場合と,これらに加えて白頭山-苫小牧テフラ(B-Tm;AD 947年)が介在する場合がある。白雲圏谷内のモレーンは,B-Tmの降下以前に形成されたものと,それ以降に形成されたものとに分けられる可能性が高い。また,白雲圏谷の外縁部から下方斜面では,少なくともスコリアの降下期以降に土層が生成し始めている。このスコリアの降下期は5000年前よりは古いと考えられるために,土層の生成開始は5000年前から完新世前半にさかのぼると考えられる。今後,土層の生成開始年代と氷河前進期の関係について詳細に考察していく予定である。
  • 中村 努
    セッションID: 316
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    Ⅰ.はじめに
    高齢化による医療需要の高まりと医師不足を背景として,効率的で公平な医療供給体制の構築が急務になっている。こうした課題への対応の一つとして,ICTを利用して,市町村,二次医療圏などといった地理的境界,医療,介護といった職種の境界を超えた地域医療連携が政府によって推進されている。本発表は,地域医療連携におけるICTの利用状況を把握し,ICTの利用によって,医療供給体制がどのように再編成されつつあるのか考察する。

    Ⅱ.従来の医療供給体制の空間性
    医療供給にあたって,その費用対効果とともに,患者のアクセシビリティが考慮されなければならない。日本では,各都道府県が最適な医療従事者や医療施設といった医療資源の配分のための地域医療計画を実行している。しかし,そうした資源の地域格差は依然として解消されていない。
    医療供給体制の空間性に注目すると,これまでは大病院を中核にした階層構造をなしていた。すなわち,疾病の重症度に応じて,1次から3次まで医療サービスを区分し,それぞれに対応した医療圏を市町村,二次医療圏,都道府県に設定していた。しかし,こうした構造によって,医療の需給ミスマッチが生じていた。 
    そこで,政府はそれぞれの医療機関の機能を明確にし,医療資源を活用した,医療情報ネットワークの構築を検討している。特に,診療所や病院,保健所,介護施設などが連携する「クリティカルパス(診療計画)」によって,患者に必要な医療を提供し,早期に在宅生活へ復帰できるような体制の整備を推進している。医療機関の運営を効率化するだけでなく,健康情報や診療情報を共通化する基盤としてのICTの導入が目指されている。

    Ⅲ.ICTを活用した地域医療連携の運用状況
    小規模な市町村内で医療が完結している場合,ICTの導入による効果は少ない。また実際のICTの利用は,導入以前の既存の医師間の関係や,医療機関とベンダーとの関係を反映している。こうしたことから,地域医療連携におけるICT利用には地域的な偏りがみられる(図)。
    一方,東日本大震災では,紙媒体のカルテやお薬手帳が津波によって流されたり,電子カルテがサーバごと水没したりして,診療履歴や薬歴が失われた例があったことから,ライフラインとしてのクラウド型電子カルテの有効性が注目されている。
  • 田中 健作
    セッションID: 719
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本報告では,近年の瀬戸内海島嶼地域における旅客船航路(便宜上,一括して離島航路と呼ぶ)の再編動向を検討し,航路存在形態の変容を明らかにすることを目的とする。研究対象海域には広島県内の大崎上島以西,および愛媛県内の来島諸島から忽那諸島にかけての範囲を設定した。対象海域における離島航路は,ほぼ人口規模と対応した輸送規模階層別に区分され,航路サービスの変化もその区分に応じて異なっている。人口の少ない島における小規模輸送航路は輸送量の減少とは対照的にサービス面の変化が小さく,大規模輸送航路は1980年代半ばから2000年にかけて増便がみられたが,2000年以降は輸送量の減少とともに減便が進んだ。また,輸送量が伸び悩む中で架橋や原油高といった要因が複合的に航路経営を圧迫したため,非補助航路の淘汰が進み,事業者の廃業をもみられた。
    このような航路運営環境の変化に対し,民間事業者は航路再編を繰り返して行ったが,市町村合併や行財政改革を進めてきた地元市町村も様々な対応に迫られた。その対応とは,①不採算化した航路の救済,②公営航路からの相対的な撤退,③国の補助金を用いた航路統廃合の検討である。 このうち,近年の新しい動きである②と③のうち,③は国の公共交通政策の転換によるインパクトを受けたものであるが,今後の状況を見極める必要があるため,本報告では詳細を分析しない。 一方,②に該当するのは輸送規模の大きな,中島~松山航路と中町(能美島)~宇品(広島)航路である。前者は民営化,後者はフェリー便の全廃が行われた。 この2航路に焦点を当てて,航路の輸送機能や運航体制の変遷について検討したところ,個々の地域的な文脈は異なるが,国による合理化や再編を促進する施策による影響をうけていた点や自治体が民間部門の活用を視野に入れた航路の維持を行うようになった点で共通していた。様々な要因が複合化し,公営の大規模輸送航路の再編が導かれていた。
    以上の検討や先行研究より,瀬戸内海西部地域の離島航路は輸送規模別に異なった対応がみられるが,瀬戸内海における離島航路は,航路再編成の波が輸送規模の大きな航路を中心に各地に様々な形で波及している。そして,それに伴う航路維持上の地元自治体側の対応は航路の存在形態によって分化している。このような構造変化を伴いながら今日の離島航路は存在している。
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