表皮の触覚受容器であるメルケル細胞と, それに接続する神経線維を白マウス, 黒マウス, イヌおよびヒト胎児について電子顕微鏡により観察した.
1. メルケル細胞は表皮の基底層または有棘層深部に位置し, レンズ形または楕円形をなして, その長軸は表皮と真皮の境界面に対し垂直な場合と平行な場合とがある. 核はつねに深い切れこみをもち, 核の長軸は細胞の長軸と平行に位置する.
2. メルケル細胞は直径700-1000Åの多数の特殊顆粒をふくみ, その電子密度ははなはだ変異に富み, 若干の顆粒は空虚な小胞のようにみえる. この特殊顆粒はおそらくゴルジ装置で産生されるもので, 神経終末に面する細胞質領域に強く集積している.
3. メルケル細胞の特殊顆粒はおそらく刺激伝達物質をふくんでおり, この物質は透出分泌の機序によって細胞外へ放出され, 神経終末を刺激して, 触覚の興奮を惹起するものと思われる.
4. イヌの鼻の多量に色素を有する表皮においては, メルケル細胞もメラニン顆粒をふくんでいる. このメラニン顆粒は表皮のケラチン産生細胞 (通常の上皮細胞) がメラニン顆粒をとりこむと同様に, メルケル細胞がとりこんだものであろう.
5. メルケル細胞はケラチン産生細胞と結合する面にデスモゾームを備えているが, 神経線維と接する面にはそれをもたない. メルケル細胞の表面におけるデスモゾームの微細構造は, ケラチン産生細胞相互間に出現するものと異らない. このデスモゾームの存在はメルケル細胞が求心神経線維の分布にもとづいて, 未分化な表皮基底層細胞から分化して来ることを示唆している
6. メルケル細胞に接続する神経線維とその終末は多数の糸粒体をふくんでいる. それらはメルケル細胞と緊密な接触をもつにもかかわらず, 両者の間にはデスモゾームのような形質膜の特殊化はおこらない. 求心性終末の中にみられる少数のシナプス小胞は, おそらく上皮細胞から感覚細胞への分化の誘導に関係するものであろう.
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