蝙蝠の気管支枝は短小であるが, 細気管支は比較的長い. 気管支枝は1-2列性の氈毛上皮で蔽われ, 其固有膜は薄く周囲には発達良好な輪走平滑筋束が1列に配列し, 軟骨片と気管支腺とは殆んど証明されず, 粘膜は著明な縦走皺襞形成を示す. 筋膜は外膜で包囲される. 淋巴球集合は特に固有膜内に形成される. 細気管支は肺胞を所有せず, 1列性の氈毛上皮と略ぼ之に外接する1列性平滑筋層とから成り, ここでは皺襞形成は見られない. 肺胞管と肺胞嚢とは肺胞の連続で表わされ, 肺胞壁は有核性及び無核性扁平上皮細胞と之に外接する血液毛細管に富む間質結合織から構成される. 内臓胸膜は上皮細胞層と薄い結合織層とから成る. 肺静脈は末梢に至るまで其中膜は極めて不規則の厚さの心筋線維層で表わされる.
蝙蝠気管支枝周囲性神経叢内にも所々に神経節の存在を見るが, 其発達は人や犬に於けるよりは遙かに劣勢で, 大きな神経節でも20ケ以上の神経細胞の存在は見られない. 且つ細胞は甚だ屡々無極性を示す. 神経束は無髄性の植物線維と有髄性の知覚線維とから成るが, 後者が目立って多量を占める事は興味深い. 植物線維の終末は蝙蝠肺内でも Stöhr 氏終網で表わされる. 肺静脈の心筋層内には心臓心筋内に於けると同様甚だ良好な発達の終網の形成が認められる.
神経叢内の知覚線維は外膜から筋層を通って固有膜内に, 更に上皮内にも進んで終末を形成するが, 尚お其途上筋層内にも多少の終末形成を示す. 即ち筋層内には非分岐性及び単純性分岐性終末の外, 甚だ太い線維に由来する血圧下降反射に関する知覚終末第I型も稀ならず発見される.
固有膜内に入る知覚線維は細気管支では其量も少なく, 且つ終末形成も甚だ単純で, 専ら非分岐性終末で表わされるが, 気管支枝特に大型や中型のものでは其量も多く, 非分岐性及び単純性分岐性終末の外に複雑性分岐性終末も各所に発見される. 尚お之等終末の終末枝の1部は屡々上皮内線維に移行する.
上皮内線維も蝙蝠気管支枝壁には多量に見られ且つ複雑な分岐性終末で表わされる事も屡々である. 即ち髄鞘を失った知覚線維が上皮内に来て多数の分岐に分れ, 上皮細胞間及び細胞体内を通貫し夫々尖鋭状に終る. 尚お細気管支にも上皮内線維が証明されるが. 之は概ね非分岐性終末で表わされる.
蝙蝠肺実質内にも少量の非分岐性終末が発見される. 又内臓胸膜内にも著明な非分岐性終末が所々に発見された. 之は人内臓胸膜の中にも知覚終末の存在するであろう事を示唆量するものである.
蝠蝙肺の神経分布を犬の夫に比較すると植物神経特に神経細胞の発達は犬に於けるよりも劣勢であるが, 知覚線維及び其終末の発達は犬の場合よりも遙かに強力であり, 甚だ興味深いものがある.
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