幼若な天竺鼠の腱組織を電子鏡検して, 球形に見える分子が径5-6mμとなれば数珠のやうに1列に竝び始め, 径7-8mμとなれば立派な単一分子鎖なる素原線維を作るのが見られた. 他方カルミン粒子を電場で分極して双極子とすれば, これは電力線の方向に竝んで多くのカルミン列を作るが, この列は電力線に横の方向にも相寄ることを実験した. 膠原の素原線維の分子は永久双極子であるから, それが結局は主原子価結合をしたとしても, 初めは方向効果によつてこのやうに竝んだであらう. また一の素原線維の分子の極がみな夫々他の一の素原線維の反対帯電の極と相対すれば, この2単一分子鎖は相寄る筈で, かくして単一分子鎖の集束なる微原線維 (太さ0.2mμまでで, 光学顕微鏡によつては暗野でなくては正しく認められない) ができたものと思はれる. 但し2単一分子鎖の分子の長さが違つたり, 分子間の距離が違つたりして, 一の鎖の極が他の鎖の反対帯電の極とうまく相対しないと相寄らない筈で, 即ち異種の素原線維は集束しないのである.
素原線維が集束して作る微原線維の一所に多分分子からのエネルギー放出があつて電気能率が増せば, ここに双極分子が方向効果によつて密集するが, それに隣る部分の分子は新電場の勾配に従つて他方に移り, これが機会となつてそこの分子群が多分エネルギーを放出して又密集し, かくして線維の密化が縱に波動的に進行することが考へられる. だから微原線維に現れる構造周期はそれを作る分子の極性が強いほど大であらう.
周期構成線維が一定の距離をおいて附近の分子に方向效果と感応效果を加へ, これを線維に垂直に向はしめれば, そこでこの方向に新しく線維ができ始める筈である.
膠原の微原線維が新生し, 太くなれば, 微原線維間の隙は随つて広くなり, そこでその線維は粗分散の染料にてもよく染るやうになる.
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