交感神経ニューロン内のカテコールアミンの動きが FALCK-HILLARP の螢光法を用いて, イヌの下腸間膜神経節から結腸壁にいたる結腸神経の全経過と, 坐骨神経を材料として, 正常時および種々の切断, 結紮, レセルピン投与さらにこれらの組み合わせ実験を行なって調べられた. また結腸神経の正常および近位切断端が電子顕微鏡で観察され, 螢光所見と比較された.
1. 正常の下腸間膜神経節では大多数の神経節細胞にカテコールアミン螢光を認め, これらの細胞の周囲には螢光性線維が走っており, ときに これらの細胞に終末しているものもあった. 結腸神経はどの部分でも弱い螢光をもっていた. 結腸壁では螢光性線維は粘膜下叢に達していた.
2. レセルピンを投与すると, 6時間後には下腸間膜神経節から結腸壁内の終末に至る全経過に螢光が消失したが, 24時間後には神経節の神経細胞に弱い螢光が再び現われ, 48時間後には幾分強くなり, 96時間で正常に回復し, 結腸壁の終末にもやっと弱い螢光が現われた.
3. 結腸神経を結腸壁に近い分岐部で切断し, 同時に下腸間膜神経節に起始する結腸神経以外の全神経を根部で切断すると, 時間の経過とともに, 下腸間膜神経節の螢光性細胞は数を減じ, それと逆に結腸神経の近位切断端には螢光物質が集積し, 7日後に極大に達し, その後 減少しはじめる. 切断遠位端および結腸壁の終末では4日後には螢光物質は消失する.
4. 結腸神経の走行途中で2か所結紮を行なうと, 結紮間の部位では結紮後1ないし2日で螢光物質は両結紮端に認められるが, とくに遠位部に多く集積する.
5. 神経切断後レセルピンを投与すると, 24時間でほぼ完全に螢光は消失するが, レセルピン投与後切断を行なうと, 5日後になって切断近位端の螢光が消失する.
6. 坐骨神経に含まれる螢光性線維は, 腰部交感神経幹切除後1週間で完全に消失した.
7. 結腸神経の切断近位端には, 電顕的に直径1,100-1,500Åのいわゆる大含粒小胞が数多く認められたが, 小含粒小胞はKMnO
4固定によっても見いだせなかった. 大含粒小胞は正常の結腸神経の軸索内にも散在している.
以上の結果から, 交感神経ニューロンに含まれる螢光物質は, 神経細胞体内でつくられ, 軸索形質流にのって末梢へ向かい, 終末まで送られると結論した. この螢光物質はすべてではないにしても, 大含粒小胞に含まれて末梢へ流れていくものと考えられるが, 終末にしばしば見られる小含粒小胞との関係を明らかにすることはできなかった.
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