近年,多くの人がオンデマンド型の動画共有サービスを利用している.一般的に動画共有サービスのサイト内の検索機能は,動画の作成者が付けたタイトル,タグ,説明などが検索クエリに一致するかを調べ,関連性を評価し,検索結果を出力する.したがって,動画の内容に一致しないタイトルなどが付けられていると,関連性の低い動画がヒットする可能性がある.そこで,我々は画像認識を用いて,動物動画の内容に関連した検索を行う新システムを構築した.ユーザが持つ曖昧な情報でも直観的に検索できるようにするために,動物の科と種の概念間の関係を記述し,科名からの検索を可能にした.さらに,効率的に検索するために,検索結果をダイジェスト映像としてまとめ,ダイジェスト映像から元の動画の対応するシーンへ移動するアプリケーションを作成し,評価した.ユーザの知識に着目した評価実験では,ユーザが動物の科名を知っているが種名を知らない場合のタスク達成率が0.95となり,ユーザの情報が曖昧な場合でも本システムを用いてシーンを検索できることが示唆された.
既存の内視鏡画像を用いた内痔診断支援システムの前処理にあたる,内視鏡画像内に存在する内視鏡のチューブ領域を自動除去する手法を提案する.チューブ領域は被写体の状態やライトの反射によって映り方が異なり,既存システムでは,診断に至る処理過程で内視鏡画像のチューブ領域を手動で除去する必要があった.提案手法では,画像内のチューブ領域の位置や画素値の特徴に着目し,画像を分割統合して複数の候補領域を作り各々の領域に対しチューブ領域の一部かどうかを判別する.統合処理では,チューブ候補領域とその周辺領域を統合するか別領域とするかを判別する条件をごく少数の標準的なサンプル画像を用いて決定する.精度評価実験では,健常と内痔の内視鏡画像それぞれ96枚からなる192枚に対して本手法を適用し目視でチューブ除去の精度を評価した.また,本手法でチューブ領域除去を行なった画像集合を用いて,既存システムの特徴量を変数として種々の判別器それぞれで健常・異常判別実験を行った.実験の結果,172枚が正しく除去され,判別実験では各判別器での平均F値は79.1%となり,約80%の精度で正しく診断できることを確認した.
本研究では視覚障がい者の歩行支援を目的として,歩道や通路などに設置された点字ブロックのうち警告の意味を持つ点状ブロックを画像から認識する手法を提案する.点状ブロック上には円形の突起(ドット)が周期的に配列されているが,ブロック自体やドット部分の材質や色,サイズ,立体形状,汚れや褪色などの状態には多様性があり,その見え方も多様であるため,個々のドットを画像から精度良く検出することは難しい.これに対し本研究では,自己相関画像において現れるドットパターンの周期性を捉えることで点状ブロックを認識する方法を提案する.点状ブロックに対する自己相関画像はその周期性を把握する際に有効な様々な特性を持っている.本研究では,その特性を利用しながら,自己相関画像上でドットを検出し,それらが格子状に配置されていることを評価することで点状ブロックであるか否かを判定する.実画像を用いた実験の結果,提案手法が多様な点状ブロックの認識に有効であることを確認した.
本稿では,著者らが開発している波長依存PSFメタレンズを用いた圧縮スペクトルイメージングについて,その概要を紹介する.本研究では,従来のスペクトルイメージング技術が抱える装置の複雑さや撮像時間の課題に対して,光メタサーフェス技術と深層展開による画像再構成技術を基盤とした解決策を提案している.特に,光メタサーフェスで構築したメタレンズに波長依存PSF特性を持たせることで,シンプルな装置構成でフルHD以上の解像度および動画フレームレート(30fps)を実現する圧縮スペクトルイメージング技術を開発した.この技術により,従来のハイパースペクトルカメラに必要であった大型装置が不要となり,可視光から近赤外光に至る45バンドのハイパースペクトル動画を撮影することが可能である.なお,本技術は2023年度画像電子技術賞を受賞した.
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