Fig. 1は国内における交通事故の発生状況を示している.近年,交通事故による死者数は減少傾向にあったが,2015年は2014年に比べ,4人多く,4,117人となり,交通事故死者数の下げ止まり傾向にあると懸念されている.自動車の安全対策では,事故を発生させない予防安全,衝突後に被害を軽減させる衝突安全の両面から研究,開発がおこなわれ,安全性の高い市販車が市場に投入されている.しかしながら,依然と交通事故の被害に多くの方々が遭っている.昨年度は死者数が増加してしまい,さらなる安全対策の必要性が求められている.予防安全と衝突安全によって救えなかった場合に,最後の砦として緊急通報システムが注目されている.第10次交通安全基本計画にある”救助・救急活動の充実”の欄にも”緊急通報システム・事故自動通報システムの整備”が盛り込まれ,世界一安全な交通社会を実現するために,国として掲げている目標にもなっている.
緊急通報システムとは,緊急性を要する交通事故が発生した場合にGNSS(全地球測位システム)や携帯電話などの通信システムを活用し,消防や警察へ迅速な連絡をおこなうシステムであり,いわゆる,事故自動通報システムである.
事故自動通報システムは国内では一部の車両に搭載され,(株)日本緊急通報サービス(HELPNET)によって運用されているが,実際の救命効果については,未知数な部分があった.そこで,著者らはこれまでに事故自動通報システムにおける死者数削減効果(救命者数)と想定される短縮時間(事故発生から医師接触までの時間)の相関関係について検討をおこなってきた3)が,実際に何分短縮できるのかを予測するところまでには至っていない.そこで,本報告では,緊急性の高い負傷者が発生した場合に事故自動通報システムによって医師の治療が開始されるまでの時間を見積り,事故自動通報システムによる時間短縮効果について検討をおこなった.なお,事故自動通報システムには事故の発生場所を伝達するACN(Automatic Collision Notification)と,衝突時の車両情報(ΔVなど)も送信し,重症度判定をおこない,消防のみならず,病院にも情報を伝達するAACN(Advanced Automatic Collision Notification)があり,ここではAACNによる時間短縮効果の検討をおこなった.
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