カピバラ(Hydrochoerus hydrochaeris)は南米に生息する最大の齧歯類である。カピバラの胎盤構造はヒトと類似しているという報告があり,実験動物への応用も期待できる。カピバラの計画的繁殖には繁殖生理の理解が重要だが,その情報は限られる。近年飼育現場等では,ハズバンダリートレーニング(HT)による低ストレスの採血や非侵襲的に採取可能な糞を用いた内分泌モニタリング方法の開発が進められている。本研究では,カピバラの血液および糞を用いた発情周期の特定や妊娠判定法について検討した。非妊娠個体でのHTによる採血とスメア採取を確立し,糞および血中性ステロイドホルモン濃度測定とスメア検査を行った。また,妊娠個体における糞中性ステロイドホルモン濃度測定を行った。非妊娠個体において血中プロジェステロン(P4)とエストロン3硫酸(E1S)濃度変動から明確な発情周期様の変動が3周期(平均11.7±0.9日)確認でき,血中E1S濃度変動は糞中エストラジオール(E2)濃度変動やスメアでの無核角化上皮細胞の出現と一致した。糞中E2濃度変動からも明確な周期的変動が15周期(平均8.5±0.3日)確認されたが,糞中P4濃度変動からは明確な周期性は確認できなかった。妊娠個体では,妊娠中期から出産直前における糞中P4およびE2濃度上昇が確認された。 以上から,血中P4やE1Sおよび糞中E2濃度測定とスメア検査からカピバラの発情周期が特定でき,糞中P4とE2濃度測定から妊娠判定実施の可能性が示唆された。
2011年から2019年に西日本各地で捕獲された4種のヘビ類(シマヘビ,アオダイショウ,ヤマカガシ,ニホンマムシ)の口腔から吸虫を採取した。これらは形態観察と分子遺伝子解析によりOchetosoma kansenseと同定した。この種は北アメリカのヘビ類への寄生が以前から知られているが,日本に生息するヘビ類での確認は初であり,今回の結果は新宿主・新分布報告となる。
山梨県内において,観光事業として実施している鵜飼いに供用しているウミウ(Phalacrocorax capillatus)に2017年7月,鳥ポックスウイルス感染症の発生が確認された。また2019年7月にはこれとは別群のウミウに再び本症の発生が確認された。両症例とも,肉眼的に嘴・眼瞼周囲の発痘が確認された。ウイルス学的検査の結果,両症例の検体から鳥ポックスウイルスが分離された。
野生ニホンジカ(Cervus nippon)の胎内から奇形胎仔を発見した。コンピュータ断層撮影・解剖・病理検査を行った結果、重度のジャックナイフ様脊柱後弯等の骨格異常、白線の離開と腹部臓器の腹壁外への脱出、口蓋裂、鼻裂、右前肢指骨の過剰背屈、第3および側脳室の拡大、肺の分葉異常、鎖肛がみられた。反芻動物で胎仔奇形を引き起こす病原体は検出されなかった。本研究は野生ニホンジカで重度の奇形胎仔を記録した初めての例である。