私は獣医師として複数の施設診療を行い,その中で多くの方の協力を得て「研究」も行っている。飼育現場では「知らないことを知る」ということが日常的に繰り返されており,こういうことが「研究の種」になっていたのだと今は感じている。私にとっての「研究」とは, 身近なものごとを「共有できる情報」としてかたちにすることである。「共有できる情報」にすることで,様々な場面で活かされると考えている。この現場に多数転がっている「研究の種」を一人で育むことは難しかったが,職場の仲間や大学の方など様々な方の協力を得て育むことができた。そのような過程を経て進めている研究や取り組みとして,ペンギンにおけるアスペルギルス症の早期発見・早期治療法の研究,クマ科動物の無保定採血の取り組み, ヒグマの皮膚腺の研究,ヒグマの精液採取の研究などがある。これらは,動物の治療のために必要な段階であったり,飼育管理上の問題を解決する手段であったり,野生動物との軋轢を減らせると感じたものであったり,きっかけは様々だが,すべて日常の中から生まれたものである。そして,多くの方の協力を得て,様々な立場の意見や考えが混じり合う研究はとてもコミュニケーションが重要であり,ここを意識することでとても飛躍的に進んでいくと感じている。今後もコミュニケーションを大事にして,人のために,動物のために自分ができること考え,取り組んでいきたい。
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