日本野生動物医学会誌
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5 巻, 1 号
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特集
  • 田辺 信介
    2000 年 5 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    『Our Stolen Future』の著者Colbornは, 海棲哺乳動物の異常(個体数の減少, 内分泌系の疾病, 免疫機能の失調, 腫瘍など)を総説としてまとめ, 1968年以降5例にのぼる報告があり, その原因として生物蓄積性の内分泌攪乱物質すなわち有機塩素化合物が関与していることを指摘している。イルカや鯨の仲間は, 有機塩素化合物を驚くほど高濃縮している。たとえば, 西部北大平洋のスジイルカは, 海水中の1千万倍もの高濃度で有機塩素化合物を蓄積している。不思議な現象はこれだけではない。一般に化学物質の濃度は, 陸上の汚染源から遠ざかるにつれて低減するのが普通であるが, 清浄なはずの外洋に棲息しているイルカや鯨は, 陸上の哺乳動物よりはるかに高い蓄積濃度を示す。一方で, 感染症やストランディング(座礁)による海棲哺乳動物の大量変死事件は物質文明の急進した20世紀後半に集中しており, このことは化学汚染の影響を匂わせている。何故, イルカや鯨の仲間が有害物質を高濃縮し異常なほど体内にためるのか, 小論ではこの原因について解説した。
  • 山田 格
    2000 年 5 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    日本をとりまく海には約40種の海棲哺乳類が棲息している。彼らをよりよく理解するためにはあらゆる機会を活かし十分な調査を行わなければならない。日本の海岸には年間100件をこす海棲哺乳類のストランディングが報告され, かれらに触れる機会となっている。生死を問わずストランディング個体は限りない情報を我々に提供してくれようとしているのであって, 我々はこれを活用すべく体制をととのえておく必要がある。生存個体の介護, 死亡個体の病理検索など獣医師に期待される部分はきわめて大きい。
  • 石川 創, 西脇 茂利
    2000 年 5 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    世界の海産哺乳類は鯨類が79種, 鰭脚類が34種, 海牛類が4種の他, ラッコ, ホッキョクグマなどの食肉類が3種知られている。このうち日本の近海には, 鯨類としてヒゲクジラ8種ハクジラ28種の計36種, 鰭脚類7種の他, ラッコ, ジュゴンが生息する。これら海の哺乳類, 特に鯨類と人間の関わり合いとしては, 見方によっても変わるが, 1.自然現象としてのストランディング, 2.捕鯨, 混獲など漁業活動での捕獲, 3.水族館での飼育展示, 4.ホエール・ウォッチング, 5.野外での調査研究, などが挙げられる。これらのうち野生動物医学という観点からは, 傷病野生個体の保護治療(1, 3), 野生個体群の管理(2, 5), 野生動物生態の研究(3, 4, 5)等が取り組むべき課題として挙げられる。
  • 倉持 利明
    2000 年 5 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    海棲哺乳類研究における寄生虫学の意義について, 寄生虫相研究, 生物指標としての寄生虫研究, 病原生物としての寄生虫という3つの柱に基づきこれまでの研究を概説した。寄生虫相研究は海棲哺乳類の寄生虫研究における基盤であり, 寄生虫を生物指標として利用する上でも重要である。世界各地から膨大な研究が蓄積されているが, 特に日本近海に生息する海棲哺乳類の寄生虫相研究は未だ不十分で, 今後ストランディング調査等を通して解明して行かなくてはならない。寄生虫を生物指標として用いることが, 水棲動物の系群構造解析などに有効なことがあり, 海棲哺乳類においても系群識別や群の棲み分けなどいくつかの研究例がある。寄生虫の生活史は宿主動物により制限されており, そのため宿主動物の生物学的特徴が寄生虫により表現されることがあるからである。しかし一方, 海洋性寄生虫においてはその生活史研究がおおいに遅れているのが現状である。海棲哺乳類のストランディングや自然死亡と寄生虫症との関係は重要である。ハクジラ類の頭蓋道に寄生する二生類などをはじめとした, いくつかの寄生虫の関与が指摘されている。
  • 島田 章則
    2000 年 5 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    日本沿岸に漂着した鯨類の病理学的検索結果に関する報告はほとんど無い。漂着個体の病理学的検索に必要な新鮮材料を採集するための方法やネットワークが日本においては確立されていないことがその原因の一要因である。一方, 海外では野生鯨類の疾病や死因に関する多数の報告がある。偶発的に魚網に絡まっての溺死(混獲)を除くと寄生虫性あるいは細菌性肺炎が野生個体の最も一般的な死因である。しかし, 陸生動物でも一般的に見られるこれらの疾患の背景にある病理発生は不明である。大気中の浮遊粒子状物質によって汚染された肺や肺門リンパ節を特徴とする炭粉沈着症が日本沿岸に漂着したいつくかの鯨類個体に最近認められた。海の哺乳類は陸と陸との間の広い海洋に生息し, 地球規模での物質の循環系の影響を受けている。化学的分析結果に加え, 病理学的検索の結果得られたこれらの動物に関する獣医学的情報は地球環境の実態を理解する上での重要な手がかりとなると思われる。
原著
  • 小森 学, タデイ V.A., 本道 栄一, 北村 延夫, パイ V.D., ホリーク C.N., 山田 純三
    2000 年 5 巻 1 号 p. 45-54
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    翼手目は単一の目でありながらその食性は多岐に渡り, 肉食, 昆虫食, 果実食, 花蜜食, 魚食, 吸血食と様々である。本研究では食性と消化管内分泌細胞との関係を明らかにする目的で, 魚食コウモリ(Noctilio leporius)の消化管内分泌細胞の分布と相対的出現頻度を免疫組織化学的方法により検索した。セロトニン細胞は胃腸管の全部位において他の各種陽性細胞より高頻度で認められ, 特に幽門腺部で多数認められた。ソマトスタチン細胞は噴門腺部を除き全部位で認められ, 幽門腺部で高頻度だった。ガストリン細胞は噴門腺部と胃底腺部を除き全部位で認められ, 幽門腺部では非常に多数認められた。モチリン, セクレチン, 胃分泌抑制ポリペプチド細胞は腸管の前部で, ニューロテンシンと腸グルカゴン細胞は腸管の後部に主に分布していた。腸グルカゴン細胞は, 少数であったが胃底腺部にも認められた。また, ソマトスタチンおよびガストリン細胞のみがブルンナー腺でまれに認められた。牛膵ポリペプチド, 鳥膵ポリペプチド, ポリペプチドチロシンチロシン, コレシストキニン細胞は胃腸管の全部位で認められなかった。既に明らかにされている吸血食, 昆虫食, 蜜食, 果実・蜜食のコウモリにおける結果の比較からいくつかの相違点を認めることができた。しかし, それらが消化管内分泌細胞と食性との関係にどのように関わっているのかを指摘するのには, さらに詳細な検索が必要である。
  • ガルシア G.W., バプチステ Q.S., アドグワ A.O., 加国 雅和, 有嶋 和義, 牧田 登之
    2000 年 5 巻 1 号 p. 55-66
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    ヨーロッパ人が入る前には南米, 中米およびカリブ海諸国の一部ではアグーチが重要な蛋白資源であった。最近トリニダード・トバゴではアグーチを飼育繁殖して食肉その他として利用するようになっている。飼育に重要な餌付けのために, 消化器官の解剖学的知見が必要であるが, これまでの文献は, 数少なくまた, 胃, 腸など個々の部分について述べているので, 本報では全体を概観して口腔, 食道, 胃, 小腸, 大腸, 各部分の構造と長さおよび相対的重量を記載した。材料はトリニダード島南部のハンターから入手した10頭のアグーチを用いた。現場で採材後凍結し, 解剖はそれを解凍して行った。歯式は1013/(1013)=20で, 犬歯と前臼歯の間隙が広い。食道は長さ15.4cm, 直径0.5cm位で, 胃の長さは平均13.8cmであった。小腸の長さは全体で700±124cmであった。十二指腸と空腸の直径は1.4cmで回腸の直径は0.4cmであった。大腸のなかで特徴的なのは盲腸でその頭部の直径は4.2±0.8cm, 尾部の直径は2.4±0.4cmと太く, 胃よりやや小さい程度で, 盲腸の長さは平均22.5cmであった。結腸の直径は近位部は2.4±0.9cmとやや太いが遠位部は1.3±0.4cmと細くなっており, これは直腸とほぼ同じ太さである。結腸と直腸の長さは117±2.5cm。肛門腺が一対みられ, 長さ1.8〜3.0cm, 幅1.3〜1.8cm, 重さ1.3〜3.5gであった。左側の腺の方が右側よりも重い。アグーチは小腸が長いのが特徴で, 絨毛の密度の比較解剖学の材料に好適である。今後の盲腸, 肛門腺の比較解剖学的研究にも役立つであろう。
  • 遠藤 秀紀, 林 良博, 山際 大志郎, 鯉江 洋, 山谷 吉樹, 木村 順平
    2000 年 5 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    太平洋戦争中の東京都によるいわゆる猛獣処分によって, 3頭のアジアゾウが殺処分となったことは, よく知られている。これら3頭のゾウに関しては, 東京大学や国立科学博物館などに遺体の一部が残されている可能性が示唆されていた。本研究では, 3頭のアジアゾウの遺体に関し, 文献と聞き取り調査を行うとともに, 関連が疑われる東京大学農学部収蔵の下顎骨に関しては, X線撮影による年齢査定を進めて処分個体との異同を検討した。その結果, 東京大学農学部に残された下顎骨は他個体のものである可能性が強く, 戦後発掘され国立科学博物館に移送された部分骨は標本化されなかったことが明らかになった。したがって, 東京都恩賜上野動物園に残る雄の切歯を除き, 該当する3頭の遺体は後世に残されることがなかったと判断された。また遺体から残された形態学的研究成果は, 剖検現場の懸命の努力を物語っていたが, 研究水準はけっして高いとはいえず, 十分な歴史的評価を与えることはできなかった。
  • 小倉 剛, 川島 由次, 仲本 政貴, 織田 銑一
    2000 年 5 巻 1 号 p. 77-85
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    飼育下で生まれた雌雄各1頭のジャワマングースの新生子について, 人工飼育を行い, 生後28週齢までの外部形態の変化を観察した。出産直後のマングースは全身が肉紅色で, 腹部には長さ約10mmの臍帯が付着していた。腹側には3対の乳頭が観察され, 生殖器の形態から雌雄判別が可能であった。全身には灰白色の被毛を有し, 頭部から臀部背側には黒色の被毛を有していたが, 8週齢には成獣と同様の被毛に変化した。乳歯が生え揃ったのは4週齢で, 永久歯は18週齢に萌出が完了した。開眼は雄が19日齢, 雌が20日齢であった。2日齢の体重は雄が24g, 雌は27gで, 28週齢にはそれぞれ958g, 520gに達した。1日増体量は15日齢まで連続して正の値を示したが, 離乳を行った16日齢に初めて減少した。その後, 1日増体量は増減を繰り返し, 体重増加に周期性があった。2日齢の頭胴長は雄が83mm, 雌が84mmで, 28週齢にはそれぞれ350mm, 300mmになった。頭胴長の増加は1週齢から4週齢の間が最も多かった。体長と体重の比は成長に伴って緩やかに増加し, 体型は成長に伴って丸みを帯びた。雌雄の体型の相違は野生のマングースが離乳する7週齢頃より明らかになった。爪の形態が成獣と同じ状態になる時期も, 6〜8週齢であった。本種にとってこの時期は形態的かつ機能的に, 幼獣から成獣へと変換をとげる重要な時期であると考えられた。
  • 吉岡 一機, 植木 秀彰, 王 水琴, 李 養賢, 夏 志平, 吉川 博康, 小山田 敏文, 吉川 堯
    2000 年 5 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    セレニュウム欠乏性心筋症に罹患した1〜2週齢の梅花鹿(Cervus nippon Temminck)3例および馬鹿(Cervus elaphus)1例, 計4例の肺真菌症について病理形態学的に検討した。菌糸の形態からAspergillus症(3例), Mucor症(1例)と診断され, 前者は肉芽腫性病巣, 後者は血栓を伴う脈管炎が特徴的であった。真菌感染の成立に対し, 検索例で共通的に認められたリンパ系器官の萎縮, 特にTリンパ球の減少およびセレニュウム欠乏と免疫機序との関連が示唆された。
  • 範 光麗, 周 宏超, 席 咏梅, 曹 永漢, 傳 文凱, 路 宝忠, 中谷 裕美子, 藤原 昇
    2000 年 5 巻 1 号 p. 93-97
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    突然死した飼育環境下若齢トキの解剖所見を報告した。特徴的な病理所見は肝臓と肺臓に観察され, とくに肺結核様症状が顕著であった。また, 同時に肝臓細胞の変性, 肺臓充血, 気血胸, 細管上皮細胞変性, 腸管小出血, 腎臓出血および腸出血などもわずかに観察された。これらのことから, トキを捕獲飼育する場合には, 特別の注意を払って管理することが必要であろうと推察された。
  • 大原 佳世子, 川西 秀則, 伊藤 大, 正岡 亮太, 藤井 光子, 福本 幸夫
    2000 年 5 巻 1 号 p. 99-104
    発行日: 2000年
    公開日: 2018/11/03
    ジャーナル フリー
    広島県(農林水産部)が1994年から実施したツキノワグマ保護管理計画に基づいて捕獲された野生ニホンツキノワグマの, 薬物による不動化を実施した。不動化の方法は, 箱罠またはくくり罠で捕獲された個体に対して, 20%塩酸ケタミンと2%あるいは5%塩酸キシラジンの混合液を, 吹き矢, 麻酔銃または注射器によって筋肉内注射した。実施した26例のうち, オス12例, 雌3例の合計15例で, 初回の注射で不動化することができた。基準投与量は体重1kg当たりケタミン10mg, キシラジン1mgとし, 推定体重に基づいて投与量を計算し, 不動化後に実測した体重から体重1kg当たりの投与量を逆算した。実際の投与量は体重1kg当たり, 最低ケタミン6.25mg+キシラジン0.625mgから, 最高ケタミン20.00mg+キシラジン2.00mgで, 注射後3〜11分で不動化した。また, この不動化に要した注射液の注入量は, 最少が体重26kgの個体に対する1.75ml(20%ケタミン液+5%キシラジン注射液使用), 最多が体重75kgの個体に対する15ml(20%ケタミン液+2%キシラジン注射液使用)であった。不動化薬投与による副作用と思われる症状は, 1頭において軽度の全身性痙攣と唾液分泌昂進を認めたが, 無処置で覚醒した。
研究短報
資料
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