エゾシカ(Cervus nippon yesoensis)の生体捕獲調査は, 1981年から本格的に開始され, 現在も北海道の各地で実施されている。この総説では, エゾシカの生体捕獲調査を実施する場合に必要な手法について, 特に化学的不動化法を中心に解説した。生体捕獲方法として, 現在用いられているのは囲いワナ, アルパインキャプチャーシステム, 箱ワナ, 吹き矢および麻酔銃である。また, 不動化薬として使用されているのは塩酸キシラジンー塩酸ケタミン混合液および塩酸メデトミジンー塩酸ケタミン混合液である。前者の混合液を使用する場合, 導入に必要な投与量は, 塩酸キシラジン : 1.2∿2.0mg/kg, 塩酸ケタミン : 1.2∿6.0mg/kgであり, 後者を使用する場合の導入に必要な投与量は, 塩酸メデトミジン : 35.7∿98.4μg/kg, 塩酸ケタミン : 1.6∿7.7mg/kgである。不動化中は, 呼吸数, 心拍数, 体温および粘膜の状態をモニタリングする。前述した混合液を使用した場合は, 体温が38.0∿39.5℃, 心拍数が50∿70回/分, 呼吸数は30∿40回/分の範囲にある。調査終了後, エゾシカを放獣する前に抗生物質と拮抗薬を投与する。拮抗薬である塩酸アチパメゾールは, 塩酸キシラジンを使用した場合にはその投与量の1/10量を, 塩酸メデトミジンを使用した場合にはその投与量の5倍量を筋肉内または静脈内に投与する。
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