日本野生動物医学会誌
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1 巻, 1 号
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表紙
特集論文
  • 大泰司 紀之
    1996 年 1 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    野生動物の獣医学は, 獣医学分野における新たな領域であるが, 自然保護学の一環である野生動物保護管理学(Wildlife Management)のひとつの分野として位置付けることができる。その場合, 野生動物(獣)医学の主たる目的は野生動物個体群の維持管理にあたり, 個体群動態, すなわち個体群の増加(繁殖)と減少(死亡)に関する研究が中心となる。そのための繁殖学的研究や死亡要因の分析およびその対策などは, これまでに蓄積されてきた獣医学的手法が最も生かされる分野でもある。人為的な影響によって個体群の絶滅や減少が進む一方で, 逆に特定の種の個体群の過増加が著しいことから, それらの個体群の増殖や再定着および個体数コントロールの必要に迫られている。それらの実現を総合的にの追求するためには, 野生動物(獣)医学をひとつの学問領域として体系化し, 個体群とその環境の保全について系統的に取り組むことが重要である。獣医学は広義の生理学と形態学によって体系づけられている分野がほとんどであるが, 野生動物(獣)医学の体系化や発展のためには, 生態学や, (系統)分類学の方面も充実させることが欠かせない。
  • 和 秀雄
    1996 年 1 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
  • 入谷 明
    1996 年 1 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
  • 増井 光子
    1996 年 1 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    最近は, 動物園でも種保存事業が重要視されるようになってきた。そのためには, 動物園動物の累代飼育繁殖に力点を置く必要がある。しかし, 累代繁殖を続けていくと, 幾つかの問題が生じてくる。その問題点の主なものは, 動物舎の汚染による感染症の発生, 個体の早熟化, 骨密度の低下, 体格の矮小化と体形の微妙な変化, 毛色の変化, 人工飼育動物でしばしば認められる, 社会性の欠如による繁殖障害, 集団の活性度の低下などである。これらのことは, 既に順化された動物の家畜化の経過の中で生じたことと同様であると思われる。動物園は野生動物が本来もっているものをできるだけ維持しようとするならば, 家畜化現象は好ましいものではない。一定面積の動物舎での適正飼育頭数を把握することは, 集団の健康管理上大切である。過密になれば新生子の死亡率は高まるし, 動物舎の汚染も進み, 感染症も発生しやすくなる。早熟化は, 多くの動物種に認められるし, 骨密度の低下は, 矮小化や体形の変化を招き易い。異種の動物に刷り込まれてしまう現象は, 人工哺育や人工育雛を行う場合, 特に注意を要する。基礎個体が少ない集団は, そのままにしておくとたとえ一時期繁殖成績が上がっても, 次第に衰退していく。活性化をはかるためには新規個体の導入が必要である。
  • 馬場 国敏
    1996 年 1 巻 1 号 p. 24-25
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
原著論文
  • 片山 敦司, 坪田 敏男, 山田 文雄, 喜多 功, 千葉 敏郎
    1996 年 1 巻 1 号 p. 26-32
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    1991年3月から1993年8月までの間に, 岐阜県および京都府で捕殺された雌ニホンツキノワグマ(Selenarctos thibetanus japonicus)19頭の生殖器の肉眼的および組織学的観察により, 性成熟年齢, 排卵数, 着床数, 一腹産子数および繁殖歴などを推定した。卵巣の重量および大きさは加齢に伴って増加の傾向を示した。その傾向は未成熟個体で顕著であり, 性成熟個体で緩やかであった。黄体および黄体退縮物の存在を性成熟の基準とした場合, 4歳以上の全ての個体は性成熟に達していると判定された。しかし, 4歳未満でも性成熟に達する例も存在することが示唆され, 性成熟に達する年齢には個体差があることがうかがわれた。黄体, 黄体退縮物および胎盤痕の観察と連れ子の数から平均排卵数は1.89, 平均着床数は2.00, および平均連れ子頭数は, 1.86と算定された。さらに, 黄体退縮物の組織学的観察により, 捕殺時点における過去の総排卵数の推定を試みた。その結果, 黄体および黄体退縮物の数と交尾期経過回数には正の相関が認められた。しかし, 黄体およびその退縮物の数にはばらつきがあり, 交尾期経過回数との間に大きな差が認められる例もあった。
  • 村田 浩一, 浜 夏樹, 安田 伸二
    原稿種別: 本文
    1996 年 1 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    動物園で飼育する75日齢のタンチョウ(Grus japonensis)の雄1羽が突然に元気消失し, 治療翌日に死亡した。血液検査では, 貧血と白血球増加が顕著であり, 末梢の単球もしくはリンパ球と思われる白血球細胞内にバナナ状や円形の原虫寄生が多数認められた。その形態からHepatozoon sp.であると推察されたが, Eimeria sp.の寄生虫血症であった可能性もあり確定できなかった。病理解剖学的所見では, 肝・脾臓の腫大が著明であり, 病理組織学所見としては, 肝臓に高度の細胞壊死と多数の原虫を認め, 脾臓にも炎症性細胞浸潤とともに原虫を認めた。飼育下および野生におけるツル類の管理では原虫感染症に十分留意する必要がある。
  • 今田 忠男, 坪井 孝益, 高橋 伸和, 浜岡 隆文, 八橋 克智, 庄司 智太郎, 播谷 亮, 村田 英雄
    1996 年 1 巻 1 号 p. 38-41
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    ニホンジカ(2〜4歳)に対し, 市販されている牛用のウイルスワクチン(牛伝染性鼻気管炎生ウイルスワクチン, アカバネ病生ウイルスワクチンおよび牛伝染性鼻気管炎・牛ウイルス性下痢-粘膜病・牛パラインフルエンザ混合生ワクチン)をそれぞれ1用量接種し, 臨床症状を観察しながら, 経時的に採血して, 抗体価の測定を行った。その結果, いずれのワクチン接種においても, 臨床的な異常は認められなかった。また, 牛伝染性鼻気管炎ウイルス以外の抗体は1回の接種で有意に上昇し, 12週間以上持続することが確認されたが, 牛伝染性鼻気管炎ウイルスに対しては, 2回接種によって抗体の上昇と持続を認めた。
研究短報
症例報告
  • 柳井 徳磨, 富田 貴子, 酒井 洋樹, 磯和 弘一, 竹田 洋, 山本 裕彦, 堀 浩, 柵木 利昭
    1996 年 1 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    12歳以上のウンピョウ雄の左肺前葉に認められた希な肺癌の1例を報告する。肉眼的には, 左肺前葉に85×55×60mm大の腫瘤が認められ, さらに左肺には数個の小結節状転移巣がみられた。左胸腔には播種性転移巣が, 気管気管支リンパ節および脾臓には明らかな結節状転移巣が認められた。組織学的には, 肺の腫瘤では肺癌の浸潤性増殖がみられた。腫瘍細胞は円形から立方状で高い細胞異形を示し, 不規則な腺管様構造を示した。細胞分裂像は豊富であった。腫瘍細胞はケラチンとサイトケラチンAE1に陽性を示した。癌の転移は壁側胸膜, 気管気管支リンパ節, 脾臓および副腎にみられた。本腫瘍は細気管支肺胞上皮型腺癌, 未分化型と診断された。
  • 浜 夏樹, 村田 浩一, 安田 伸二, 島田 章則, 酒井 洋樹, 柳井 徳磨
    1996 年 1 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 1996年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    動物園で飼育していた雄のアジアゾウ(推定47歳)が突然死した。ゾウは死亡の前日まで異常な症状は示さず, 血液学的にも異常は認められなかった。剖検では, 胆?における胆石, 脾臓の萎縮, 副腎皮質における出血, 心臓における微小出血斑が認められた。組織学的には, 脾臓リンパ組織の萎縮, 副腎皮質束状帯における肥厚と出血, 心臓における出血および血栓形成, 脳血管におけるアミロイドβ蛋白の沈着などが認められた。本例ではいわゆるゾウの"Sudden death"syndromeが疑われた。
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