日本国内に移入された24種2亜種(国内移入を含む)の外来野生哺乳類について寄生蠕虫類に関する文献情報を収集し,宿主8種から吸虫10種,条虫2種,鉤頭虫1種,線虫15種,計28種の報告を得た。そのうち条虫1種,線虫2種は飼育個体からのものであった。また,ごく最近2種の宿主から各1種の線虫の報告が得られた。それらのうち少なくとも条虫2種,線虫5種が外来のものであった。これらの宿主のうち,報告例が最も多かったのはタイリクイタチで,吸虫4種,線虫4種を含んでいたが,この種はニホンイタチと明確に区別されずに報告されていた場合が多かった。報告された寄生蠕虫の種数はアライグマが最も多く,吸虫5種,線虫6種(線虫1種は飼育下からのもの)に及んでいた。あわせて海外のものを含め,多くの外来および飼育個体からの寄生蠕虫類の報告事例を紹介した。これまでの大半の調査は,医学や公衆衛生学上の関心から行われていた。しかし,今後は土着の寄生蠕虫相の保全という観点からの調査や対策が必要になってくると考えられる。本稿では,地理的要因や人間活動の影響で小規模化していることの多い日本の野生哺乳類個体群において,局所的な寄生蠕虫の絶滅が起き,外来蠕虫類の侵入を受け入れやすくなっている可能性について考察し,その場合は寄生蠕虫群集自体が撹乱を受けやすくなっていることが個別の問題を離れて重要であることについても言及した。
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