日本野生動物医学会誌
Online ISSN : 2185-744X
Print ISSN : 1342-6133
ISSN-L : 1342-6133
7 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 横畑 泰志
    2002 年 7 巻 2 号 p. 91-102
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    日本国内に移入された24種2亜種(国内移入を含む)の外来野生哺乳類について寄生蠕虫類に関する文献情報を収集し,宿主8種から吸虫10種,条虫2種,鉤頭虫1種,線虫15種,計28種の報告を得た。そのうち条虫1種,線虫2種は飼育個体からのものであった。また,ごく最近2種の宿主から各1種の線虫の報告が得られた。それらのうち少なくとも条虫2種,線虫5種が外来のものであった。これらの宿主のうち,報告例が最も多かったのはタイリクイタチで,吸虫4種,線虫4種を含んでいたが,この種はニホンイタチと明確に区別されずに報告されていた場合が多かった。報告された寄生蠕虫の種数はアライグマが最も多く,吸虫5種,線虫6種(線虫1種は飼育下からのもの)に及んでいた。あわせて海外のものを含め,多くの外来および飼育個体からの寄生蠕虫類の報告事例を紹介した。これまでの大半の調査は,医学や公衆衛生学上の関心から行われていた。しかし,今後は土着の寄生蠕虫相の保全という観点からの調査や対策が必要になってくると考えられる。本稿では,地理的要因や人間活動の影響で小規模化していることの多い日本の野生哺乳類個体群において,局所的な寄生蠕虫の絶滅が起き,外来蠕虫類の侵入を受け入れやすくなっている可能性について考察し,その場合は寄生蠕虫群集自体が撹乱を受けやすくなっていることが個別の問題を離れて重要であることについても言及した。
原著
  • 山本 かおり, 河村 篤紀, 坪田 敏男, 釣賀 一二三, 小松 武志, 村瀬 哲磨, 喜多 功, 工藤 忠明
    2002 年 7 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,飼育条件下のニホンツキノワグマにおいてDNAフィンガープリント法による父子判定の有用性を検討した。制限酵素Hinf Iおよび(GATA)4プローブを用いたDNAフィンガープリントはニホンツキノワグマの個体識別および父子判定に有用であることが示された。1995年から1997年の間に11頭の母グマから生まれた13頭の子グマと22頭の父親候補の雄グマについて父子判定を行った結果,7頭の雄グマが父親と判定された。特に2頭の雄グマが8頭の子グマの父親と判定された。本研究では,飼育条件下において雌グマが多くの雄グマとの交尾の機会をもっても,ある特定の雄の繁殖成功が高くなることが示された。
  • 楠田 哲士, 森角 興起, 小泉 純一, 内田 多衣子, 園田 豊, 甲斐 藏, 村田 浩一
    2002 年 7 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    飼育下ブラジルバク(Tapirus terrestris)雌2頭から週1回の採血を行い,エンザイムイムノアッセイ(EIA)法により血漿中プロジェステロン(P4)濃度を測定した。P4濃度の周期性から発情周期は約4週間であることが推察された。また,国内の動物園におけるこれまでのブラジルバク出産例を調査した結果,出産は年間を通して見られたが,3月から6月にかけてピークが存在した。P4動態からは明確な繁殖季節は存在せず,周年繁殖が可能であると考えられたが,年間の出産数に偏りが見られることを考え合わせると,気候的要因によって繁殖が影響を受けていることが示唆された。
  • 小山田 敏文, 河野 愛利子, 工藤 上, 吉川 博康, 吉川 堯
    2002 年 7 巻 2 号 p. 117-126
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    青森県内で2000年4〜6月に自然死したニホンカモシカ5例の肺虫症を病理学的ならびに寄生虫学的に検討した。肺組織片から分離した寄生虫体は,宿主がニホンカモシカ,寄生部位が肺胞・細気管支であること,そして雄交接嚢(肋,交接刺,副交接刺)および一期幼虫の尾部の形態から,Protostrongylus shiozawaiと同定された。P.shiozawai寄生による肺の病変は後葉に好発し,肺胞管や細気管支周囲平滑筋の著しい肥大増生と気管支周囲リンパ装置の過形成が特徴的であった。これらの変化は,すでに報告されているP.shiozawai感染症の肺病変とおおむね一致していた。加えて,肺には肺水腫や肺胞壁の菲薄化・断裂を伴う空虚な肺胞(aqueous emphysema)が共通的に存在しており,死因として溺死が示唆された。
  • 佐伯 真魚, 森角 興起, 金子 知美, 増田 哲也, 松本 力, 楠田 哲士, 本江 一郎, 村田 浩一, 小牧 弘
    2002 年 7 巻 2 号 p. 127-136
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    マレーバク(Tapirus indicus)の栄養管理に関する基礎的データを得るために,日本国内の動物園における4歳齢以上のマレーバク23頭の飼養状況を調査した。そのうち4頭を供試して消化試験を行い,成長ならびに体重の維持に要する可消化有機物摂取量(DOMI)を測定した。国内10ヶ所のマレーバク飼育施設における飼料給与量は,乾物量として2,302〜9,026g/日,粗蛋白質量は201〜1,433g/日の範囲であり,施設間で大きく異なっていた。また,飼料設計について炭水化物の給与形態は,カンショ主体のデンプン多給型からイネ科乾草主体の繊維多給型まで5種類に類型化できた。各栄養素の消化性について粗脂肪と総繊維(NDF)の消化率は低く(それぞれ25.7%および27.9%),個体間変動が非常に大きかった。反対に,糖・デンプン類(NFC)の消化率は85.5%と高く,個体間変動は小さかった。バクの体重変動を消化試験の結果と併せると,マレーバク成体の体重維持もしくは微増体となるDOMIは2,590〜3,208g/日であると結論した。
研究短報
症例報告
feedback
Top