飼育類人猿3種の糞便から鞭虫類Trichuris sp.,蟯虫類Enterobius sp.および糞線虫類Strongyloides sp.の虫卵,Eimeria属と属不明のオーシストが検出された。シロテテナガザルにおいて,Eimeria属オーシストが検出されたのは初記録となった。鞭虫類保有が確認されたボルネオオランウータン2個体および未確認の1個体,計3個体で保有と非保有,保有個体では駆虫前後で糞中コルチゾル値を比較検討したが,有意差は認められなかった。
ニホンザル(Macaca fuscata)4頭が呼吸器症状を呈して死亡した。肉眼的に,重度のび漫性肺炎がみられた。組織学的に,4頭に共通してグラム陰性短桿菌を伴う線維素性化膿性気管支肺炎が確認された。免疫組織化学的に,4頭中3頭の肺病変に一致して,抗Bordetella bronchiseptica(Bb)兎血清に対して陽性反応を示す短桿菌が多数認められた。1頭の肺からBbが純培養的に分離された。本事例はBbによる致死性肺炎と診断された。
イトラコナゾール経口及びアムホテリシンB吸入による投薬治療で救命できなかったクイーンズランドコアラ(Phascolarctos cinereus adustus)のCryptococcus gattii(以下C. gattii)感染例を報告する。C. gattiiによる感染は, 鼻外側部腫脹, 鼻孔丘疹が認められた上顎部に限局的であったが,肝臓,肺,尿生殖洞,腰部脊柱管,腸腰筋にPseudomonas aeruginosa及びKlebsiella pneumoniaによる感染が認められ, 本症例が保有していたコアラレトロウイルスに基づく免疫抑制がC. gattii及び上記細菌の複合感染に関与していることが示唆された。
水族館飼育下のカマイルカの体表にクジラ型パラコクシジオイデス症を疑う多発性の肉芽腫性結節患部を観察した。生検を実施して各種検査を行ったところ,渡銀染色下にて多極性出芽を示した球形の酵母様細胞を認めた以外は何らかの感染症を示唆する所見は得られなかったが,抗真菌剤を用いた治療により患部が緩解しているため,本症例の病態に何らかの真菌が関与している可能性が考えられた。