日本野生動物医学会誌
Online ISSN : 2185-744X
Print ISSN : 1342-6133
ISSN-L : 1342-6133
26 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著論文
  • 鐘ケ江 光, Igor Massahiro de Souza SUGUIURA, 皆川 智子, Ono Mario AUGUSUTO, Ei ...
    原稿種別: 原著論文
    2021 年26 巻4 号 p. 103-111
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    クジラ型パラコクシジオイデス症 (paracoccidoioidmycosis ceti:PCM-C) は,イルカを宿主とし,難治性慢性肉芽腫性ケロイド状皮膚炎を特徴とする人獣共通真菌症である。原因菌は非培養性の Paracoccidioides brasiliensis var. ceti で,中南米を流行地とする高度病原性真菌症のパラコクシジオイデス症(PCM) の原因菌 P. brasiliensisと遺伝子型は同一である。確定診断は臨床症状と病理像での酵母細胞の証明であるが,遺伝子情報による診断も重要である。今回,遺伝子情報を欠くものの,PCM-Cが疑われていたイルカ皮膚病変生検組織よりnested-PCRで原因菌の特異的糖タンパク抗原遺伝子であるgp43が検出され,配列は既報のPCM-C国内第3症例目と98.9%相同であった。そこでPCMの診断用に設計されたLAMP法を応用したところ,PCRとLAMP法の組み合わせによりgp43の増幅に成功したことから,この手法は迅速診断法としての有用性が期待できる。

  • 松本 令以, 堀江 真優, 大迫 義人
    原稿種別: 原著論文
    2021 年26 巻4 号 p. 113-126
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    コウノトリ国内再導入個体群におけるとらばさみにより負傷したコウノトリ(Ciconia boyciana)の治療記録,最も多くコウノトリの繁殖ペアが生息する兵庫県北部地域におけるとらばさみの販売状況,および国内における2007年4月以降のとらばさみによる動物の負傷・死亡事例の発生状況について調査した。再導入が始まった2005年から2020年12月までに,とらばさみによるコウノトリの負傷事例が2例確認された。兵庫県北部地域では7店舗でとらばさみが販売されており,法律に基づいた使用に関する商品掲示の内容には誤りもみられた。コウノトリの負傷事例の再発防止のため,商品掲示や販売方法の変更について,7店舗のうち豊岡市内の全4店舗から協力を得た。本報告のコウノトリの2例に加え,新聞記事データベースによる調査によって,猟具としての使用が法律で禁止された2007年4月以降にとらばさみによって負傷または死亡した動物が,合計35個体(うち10個体がレッドリスト掲載種)確認された。国内におけるとらばさみの使用実態についてさらに調査を進めるとともに,国外の先行研究を踏まえて適切な使用方法に関する研究を国内でも積み重ねることが必要である。それらの研究に基づき,とらばさみによる違法捕獲を根絶するためのより効果的な施策およびより適切な法規制が検討される必要がある。

  • 日方 希保, 諸橋 菜々穂, 樽 舞帆, 鈴木 雄祐, 中村 智昭, 竹田 正裕, 桑山 岳人, 白砂 孔明
    原稿種別: 原著論文
    2021 年26 巻4 号 p. 127-134
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    ミナミコアリクイ(Tamandua tetradactyla)は異節上目有毛目アリクイ科コアリクイ属に分類される哺乳類の一種である。コアリクイの計画的繁殖には,基礎的な情報の蓄積による繁殖生理の解明が必要である。これまでミナミコアリクイの妊娠期間中の血中ホルモン変動に関しては,1個体で1回分の妊娠期間についての報告がされているが,同一個体で複数回の妊娠期間中のホルモン変動に関する報告は存在しない。本研究では,同一雌個体のミナミコアリクイに対して長期間における経時的な採血(約1回/週)を実施し,同一雌雄ペアで合計6回の妊娠期間における血漿中プロジェステロン(P4)またはエストラジオール-17β(E2)濃度の測定を実施した。全6回の妊娠期間中のP4濃度測定の結果から,妊娠期間は156.8±1.7日(152~164日)と推定された。各時期のP4濃度は,妊娠前では0.6±0.1 ng/ml,妊娠初期(妊娠開始~出産100日以上前)では13.2±1.8 ng/ml,妊娠中期(出産50~100日前)では28.1±4.3 ng/ml,妊娠後期(出産日~出産50日前)では48.2±11.8 ng/mlであった。出産後のP4濃度は0.4±0.1 ng/mlと出産前から急激に低下した。血漿中E2濃度は妊娠初期から出産日に向けて徐々に増加した。また,妊娠期間前後で6回の発情周期様の変動がみられ,P4濃度動態から発情周期は45.5±2.4日(37~52日)と推定された。以上から,ミナミコアリクイの同一ペアによる複数回の妊娠中における血漿中性ステロイドホルモン動態を明らかにした。また,妊娠初期でP4濃度上昇が継続的なE2濃度上昇よりも先行して観察されたことから,P4濃度の連続的な上昇を検出することによって早期の妊娠判定が可能であることが示唆された。

研究短報
  • 巖城 隆, 勝俣 悦子, 依田 貴之, 武津 かほり, 森嶋 康之, 杉山 広
    原稿種別: 研究短報
    2021 年26 巻4 号 p. 135-141
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    鴨川シーワールドで長期飼育されていたシロイルカDelphinapterus leucasが腎機能障害により死亡した。腎臓には多数の結節が認められ,結節内部に石灰化した線虫虫体が集簇していた。右腎尿管には大型の線虫の寄生が認められ,形態観察および分子生物学的解析によりCrassicauda giliakianaと同定された。シロイルカの導入時に既に線虫が寄生しており,長期飼育中に腎臓内で死滅した成虫に対する反応として結節が形成され,腎機能障害が発生した可能性が考えられた。

  • 高橋 力也, 小林 希実, 比嘉 克, 酒井 麻衣
    原稿種別: 研究短報
    2021 年26 巻4 号 p. 143-146
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,ミナミハンドウイルカ(Tursiops aduncus) における生理学的知見の蓄積を目的として,餌の消化管通過速度を測定する実験を行った。実験は飼育下のミナミハンドウイルカのオス1頭を対象とし,3日間1日1回行われた。赤色色素を粉のままゼラチン製の薬用カプセルに梱包し,餌のカラフトシシャモの体内に挿入し給餌した。着色餌の給餌後,水中観察窓から連続観察を行った。着色餌の給餌から,初めて糞に赤色が確認されるまでの期間をIPT (Initial Passage Time) と定義した。着色糞は3日間全ての実験で確認された。着色糞が最初に観察されるまでの経過時間(IPT) は平均254 ± 20.4 分(n=3)であった。先行研究における同属のハンドウイルカの平均IPTと比べ近い値となった。本研究により,ミナミハンドウイルカは摂餌から最短で4時間から6時間程度で排泄し,加えて餌が消化管内に20時間以上留まる可能性があることが通常色の糞の観察から示唆された。

症例報告
feedback
Top