ウイルス
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54 巻, 2 号
December
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総説
  • 植松 智, 審良 静男
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 145-151
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    細菌やウイルス, 寄生虫などの異物が体内に侵入した際にそれを排除しようとするシステムとして免疫系が存在する. この免疫系は自然免疫と獲得免疫からなる. T細胞やB細胞などによる獲得免疫系に比べて非特異的であると思われていた自然免疫系ついて近年TLR (Toll-like receptors) の発見を通じて大きな進展が見られた. TLRは当初細菌の菌体成分を認識すると考えられていたが, ある特定のTLRファミリーメンバーはウイルスの構成成分を認識しI型IFN を誘導してウイルスに対する免疫応答を行っていることが分かった. 自然免疫の活性化の研究により, ウイルス感染時のTLRによる感染防御機構が明らかとなってきた.
  • 荒瀬 尚, 白鳥 行大
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 153-160
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    NK細胞はウィルス感染細胞や腫瘍細胞に細胞障害性を持つ細胞として, 生体防御において重要な機能を担っていると考えられている. NK細胞の標的細胞認識機構は長年不明であったが, 最近, ようやくある種のNK細胞レセプターが特異的にウイルス産物を認識することが明らかになってきた. さらに, NK細胞レセプターは, 活性化と抑制化からなるペア型レセプターを形成するが, それらによるウィルス感染細胞の認識パターンがウィルスに対する感染抵抗性を決定していることが判明した. そこで, 本稿ではNK細胞によるウィルス感染細胞の認識機構を中心に, 最近の知見をふまえ紹介する.
特集1 ウイルスとインターフェロン
  • 米山 光俊, 藤田 尚志
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    ウイルス感染に対する生体防御において, 自然免疫は感染初期の速やかな防御機構として重要な役割を担っている. 細胞は, ウイルス感染を複数の方法で検知して自然免疫系を誘導するが, ウイルス感染細胞内においては, ウイルスの複製によって細胞質にできる二重鎖RNAがインデューサーとなり, I型インターフェロン遺伝子などの発現が誘導され, 細胞内に抗ウイルス活性がもたらされる. 最近, 著者らはこの細胞内二重鎖RNAを介したシグナルに関与する新規シグナル分子として RIG-I を同定することに成功した. 本稿では, 自然免疫におけるRIG-Iの機能を中心に解説する.
  • 藤井 暢弘, 横田 伸一, 横沢 紀子, 岡林 環樹
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 169-178
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    ウイルスに対する細胞や生体の防御機構の中で、インターフェロン (IFN) の示す抗ウイルス活性は大変重要であり、またIFNの多面的作用は獲得免疫発動にとっても欠かせないものでもある。ウイルスはIFNの情報伝達系を抑制することによってほぼ全IFNシステムを抑制する機能を獲得してきたと思われる。これまで判明しているIFN情報伝達系の抑制機構は、(1) IFN結合性蛋白の産生、(2) JAK/STAT系に関わる蛋白の分解、(3) JAK/STAT系に関わる蛋白の活性化阻止、(4) 活性化転写因子の核内移行の阻害、(5) JAK/STAT系のネガテブ制御因子の誘導、に整理される。我々の検討しているHSV1ではネガテブ制御因子であるSOCS3の誘導が、ムンプスウイルスはV蛋白によるSTAT-1, STAT-3の分解が、麻疹ウイルスではV蛋白、C蛋白がIFNレセプターと複合体を形成しJak-1のリン酸化が阻止されていることが、IFN情報伝達系抑制に関わっている。
  • 加藤 篤
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 179-188
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    センダイウイルス (SeV) の全ゲノムは1980年代に配列決定された. その際, cDNA解析によりP遺伝子からは二種類のmRNAが転写され, 一方のmRNAからはP蛋白質が, もう一方のmRNAからはV蛋白質が産生され, 更にいずれのmRNAからも読み枠を変えてC蛋白質が産生されることが示された. V, C蛋白質の機能はしばらく不明であったが, 全長cDNAからウイルスが生成できる技術が確立したことも手伝って, これらの機能が徐々に明らかになってきた. V, C蛋白質それぞれを欠いたノックアウトSeVは作成可能であり, どちらもウイルス増殖にとって必須ではない. ところが, マウスに接種すると, V欠損株は感染一日以降から, C欠損株はほとんど増えることなくマウス体内から消失する. どちらも体内で感染早期に発動する自然免疫に対抗するために必要な蛋白質であることが明らかになった.
  • 清水 一史, 黒田 和道
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 189-196
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    インフルエンザウイルス感染細胞ではIFN (interferon) -α/β, MxA, OAS (2',5'-oligoadenylate synthetase), Fasなど感染防御に働く宿主遺伝子の発現が誘導される. 一方, ウイルスタンパク質合成の立ち上がりに伴って, 宿主タンパク質合成の著しい抑制, すなわち, 宿主遺伝子発現のshut-offが起こる. 最近, 我々はインフルエンザウイルスNS1タンパク質が宿主mRNA前駆体ポリA部位切断反応の阻害活性を持つことを明らかにした. そして, Krug等のグループによりNS1と結合する宿主因子が同定され, 宿主遺伝子の発現をmRNAの転写後修飾の段階で抑制する新しい機構が明らかになった. また, NS1がdsRNAに結合して細胞内シグナル伝達レベルでIFN誘導性遺伝子の発現を抑制することが明らかになってきた. 感染細胞は遺伝子の発現をめぐるウイルスと宿主の戦場といえる. 我々は攻防の全体像を知るためインフルエンザウイルス抵抗性細胞と感受性細胞における遺伝子発現の網羅的解析を行っている. ウイルス感染誘導性遺伝子は大半がIFN誘導性遺伝子と重なり, 抵抗性細胞では抗ウイルス活性が知られている遺伝子の高発現誘導がみられた.
  • 小原 道法, 井上 和明
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 197-204
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    C型肝炎ウイルスは感染後に宿主の免疫応答により排除されず, 高率に持続感染して慢性肝炎, 肝硬変, 肝細胞癌の原因となる. これまでは持続感染が成立した後のHCVに対する獲得免疫の解析やHCV蛋白のインターフェロン (IFN) のシグナル伝達に及ぼす影響が主として解析されてきた. 一方感染直後に応答する自然免疫とHCVとの関係はほとんど解析されてこなかった. そこで, HCVが初期ウイルス応答に与える影響について検討した. HCVの全長遺伝子がコンディショナルに発現し, かつ細胞内でウイルスが複製しうる系を作成して, HCV遺伝子をスイッチング発現させることに伴って修飾阻害されるインターフェロンシグナル伝達経路を明らかにし, その機序を解析した. 特に, 複製中間体である2本鎖RNAにより活性化されるIRF-3とHCVの関係について解析した. HCVのコア蛋白質により, IRF-3の2量体形成が阻害され, IRF-3の細胞質から核内への移行が阻害された. また, IFN-βの誘導が抑制されていることが明らかとなった. IRF-3のリン酸化およびpolyICにより誘導されるIFN-βの誘導には変化は認められなかった. HCVコア蛋白質はインターフェロンシグナル伝達系のもっとも初期の反応であるIRF-3の2量体形成および核内移行による活性化を阻害しており, その結果として細胞内持続感染の成立に関与している可能性が示された.
  • 小池 智
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 205-212
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    ポリオウイルスは急性灰白髄炎の原因となるウイルスである. 世界規模のワクチンの接種によってこのウイルスの根絶宣言が出される日も遠くない. しかしながら, このウイルスが持つ神経組織に選択的に病変を生ずるという組織特異性がどのような機構によってもたらされるのかという基本的な問題は長い間謎であった. 組織特異性の決定においてウイルス複製に必要なウイルスレセプター, ウイルスのタンパク合成開始に関与する宿主因子と並んで我々はI型インターフェロン応答が重要な役割を果たすことを見い出した. I型インターフェロン応答は非標的組織でウイルスの増殖を阻害する負の制御因子として働く. 組織特異性はこれらの機構のバランスによって決定されていると考えられる. それぞれの決定機構についてこれまでの研究の概略を述べる.
特集2 日本の周辺国で問題となっているウイルス感染症
  • 源 宣之
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 213-222
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    狂犬病は, 狂犬病ウイルスの主に咬傷からの感染によって起こる人獣共通感染症で, 人では恐水症とも呼ばれている. 発病した場合, 重篤な神経症状を伴ってほぼ100%死亡する極めて悲惨かつ危険な疾病である. 本病は紀元前23世紀頃より既に人類に知られていたが, 多くの急性感染症の発病が減少した今日においても, 世界におけるその発生状況は旧西欧各国を除いてここ数十年大きな変化はない. 日本では1957年を最後に本病の根絶に成功したが, アジア各国を含めた世界の発生状況には憂慮すべきものがあり, 我が国の防疫対策はおろそかに出来ない.
  • 西條 政幸, 森川 茂, 倉根 一郎
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 223-227
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    クリミア・コンゴ出血熱 (Crimean-Congo hemorrhagic fever, CCHF) はブニヤウイルス科ナイロウイルス属に分類されるCCHFウイルス感染による出血熱である. 日本には存在しない感染症で, 日本人にはなじみの薄い感染症である. しかし, CCHFウイルスを含む出血熱ウイルスが我が国にも輸入される危険性があることから, ウイルス性出血熱の流行に対する備えは重要である. 国立感染症研究所では, CCHFウイルスを含む出血熱ウイルス (エボラウイルス, マールブルグウイルス, ラッサウイルス等) の組換え核蛋白を抗原とした抗体検出システムや抗原検出システムが開発され, 将来ウイルス性出血熱が国内で発生した場合に正確な診断が行えるように備えられている. また, これらの手法を用いて, 中国新疆ウイグル自治区のCCHFに関する臨床的・疫学的研究を行っている. ヒトでのCCHFウイルス感染症は, 人々の生活環境, 生活様式, 宗教, 職業, そして, 経済に深く係わっている. 本稿では, 国立感染症研究所で開発されたCCHFの診断症を紹介する. また, 新疆ウイグル自治区におけるCCHFに関する研究成績を紹介し, CCHFウイルス感染症の予防について考察した.
  • 池上 徹郎, 牧野 伸治
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 229-235
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    リフトバレー熱ウイルスはブニヤウイルス科, フレボウイルス属に属するネガティブ鎖RNAウイルスである. このウイルスは蚊によって媒介され, 家畜, 人に感染, 疾病を引き起こす. 本ウイルスは3つの分節ゲノム (S, M, L) からなり, S分節はNおよびNSs遺伝子がそれぞれアンチウイルスセンス鎖, ウイルスセンス鎖にコードされたアンビセンス鎖である. 感染するとウイルス蛋白の合成, ウイルス粒子放出とともに, 宿主細胞の蛋白合成が停止する. NSsが宿主RNAポリメラーゼIIの転写因子TFIIHの機能を阻害することによってmRNAの合成を抑制することが宿主蛋白合成の停止の原因であると思われる. 本ウイルスのReverse genetics systemの確立はウイルスの病原性, ウイルスの複製及びウイルスと細胞の相互作用の解析のみならず, 今後のワクチン開発にも重要であると考えられる.
  • 加来 義浩
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 237-242
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    ニパウイルス (NiV) 感染症は, 1998年~99年にかけてマレーシア, シンガポールで初めて発生し, ヒトに致命的な急性脳炎, ブタに主に呼吸器感染症の流行をもたらした新興の人獣共通感染症である. 両国合わせて265名の感染者, 105名の死亡者 (致死率40%) が報告された他, ブタの大量殺処分によりマレーシアの養豚産業は壊滅的な打撃を受けた. 本ウイルスの自然宿主はオオコウモリであり, オオコウモリからブタに感染したウイルスが, その後ヒト, イヌ, ネコなどに伝播したと考えられている. 99年5月以降, 本症の発生報告はなかったが, 2004年になりバングラデシュで二度の流行が報告され, 合計で感染者は57名, 死者は43名 (致死率75%) を数えた. バングラデシュにおける流行にブタの関与は認められておらず, ニパウイルスがオオコウモリ→ヒトあるいはヒト→ヒトに直接伝播した可能性が指摘されている. 本稿では, マレー半島, バングラデシュ両地域における本症の流行を比較し, これまで明らかになっている疫学的背景と, 現在のウイルス学的研究の進展状況を紹介する.
トピックス
  • 三代 俊治
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 243-248
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    E型肝炎は疑いもなく人畜共通感染症である. ナマかナマに近い形での肉類摂取を好む日本人の間ではzoonotic food-borne transmissionがHEVの主たる感染経路として存在して來た. のみならず, 事態は更に悪化しつつある. イノシシやシカ等の野生動物が近年日本の森林で急速に増え, HEVのreservoirとしての存在感を益々強めつつあるし, BSEへの恐怖から人々の食材がウシからブタへとシフトしたこともその一因である. 有効なワクチンの出現を最も待望しているのは日本人かもしれない.
  • 岡部 信彦
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 249-254
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    1999 (平成11) 年4月より施行された感染症法には, 附則として法律施行後5年後をめどとして検討し, 必要があると認めるときは所要の措置を講ずる, といういわゆる見直し規定というものがある. また法律の制定以来, 2001 (平成13) 年9月11日の米国同時多発テロ事件以降の炭疽, 天然痘などの生物テロ対策対応の必要性, 2003 (平成15) 年3月12日WHOよりGlobal Alertが発せられた新興感染症である重症急性呼吸器症候群 (SARS : Severe Acute Respiratory Syndrome) 発生などがあり, この規定より少し早めの2003年11月法律の一部が改正された.
    主な改正点は, 1) 緊急時における感染症対策の強化, ことに国の役割の強化, 2) 動物由来感染症に対する対策の強化と整理, 3) 感染症法対象疾患および感染症類型の見直し, である.
  • 川口 寧, 田中 道子
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2004 年 54 巻 2 号 p. 255-264
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/17
    ジャーナル フリー
    巨大なウイルスゲノムを有するヘルペスウイルスの遺伝子改変法は, 約四半世紀にも前に確立された. それにも関わらず, その過程は煩雑であり, 改変には熟練と時間を要した. 1997年, ドイツのKoszinowskiのグループは, 新しいヘルペスウイルスの改変法である‘BACシステム’を報告した. 彼らは, マウスサイトメガロウイルスのゲノムをBAC (bacterial artificial chromosome) にクローニングし, 大腸菌に保持させた. そして, 大腸菌の遺伝学を駆使してウイルスゲノムに変異を導入後, ウイルスゲノムを培養細胞に導入することによって変異ウイルスを再構築させることに成功した. この‘BACシステム’の登場により, ヘルペスウイルスの遺伝子改変は著しく簡便化され, 様々なヘルペスウイルスの増殖機構および病原性発現機構の解析が加速されている. また, ‘BACシステム’は, 遺伝子治療用のヘルペスウイルスベクターの開発をも簡便化し, ヘルペスウイルスの医学的利用の普及に貢献している. 本稿では, ヘルペスウイルス研究における‘BACシステム’について概説する.
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