ウイルス
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61 巻, 1 号
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総説
  • 伊藤 公人
    2011 年 61 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     毎年世界中で季節性インフルエンザが流行し,高熱,急性肺炎等の重篤な疾病を引き起こしている.インフルエンザの予防にはワクチン接種が有効であるが,人の免疫圧による選択淘汰を受け,ウイルスの抗原性が変化し続けるため,流行しているウイルスの抗原性に合わせてワクチン株を更新しなければならない.本総説では,最新の知見を含め,バイオインフォマティクスをワクチン株選定や抗原変異予測に活用する研究事例を概説する.
  • 杉山 真也, 溝上 雅史
    2011 年 61 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     ヒトゲノムの解読が進められたことで,感染症領域でもホスト因子の大規模な解析が可能となった.その中で,C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療の効果を規定する因子の探索が行われ,IL-28B遺伝子周囲のSNPsが同定された.この結果は,人種を超えてその関連が認められ,治療感受性の遺伝子型であった場合,最大でオッズ比が約12倍を示し,ウイルス排除へと至ることが示された.さらに,このSNPsはHCVの自然治癒にも関連を示し,HCV感染とIL-28B遺伝子の間に相互作用が存在していることを示唆するものであった.また,この治療の副作用の一つである貧血の発症に関連するSNPsがITPA遺伝子周囲に同定された.貧血に対して抵抗性を示す遺伝子型を保有した場合,ヘモグロビンの減少が抑制された.ITPA周囲のSNPsでは,人種により強い関連を示すSNPsに違いが認められ,人種ごとに検討することの重要性が示された.これらのSNPsを診断に利用することで治療効果を予測することができ,効果的な薬剤選択が可能になると考えられる.
  • 金井 昭夫
    2011 年 61 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     真核生物のマイクロRNA (miRNA)にはウイルスゲノムを標的にするものがあり,ウイルスゲノムの中にもmiRNAがコードされるような例が蓄積して来た.これら低分子のRNAはウイルスの感染や増殖に重要な役割を担っている.また,生殖細胞ではpiRNAとよばれる低分子RNAが内在的なトランスポゾンの発現を抑制している.さらに,古細菌や真性細菌ではCRISPR RNAとよばれる低分子RNAがウイルスやファージのゲノムを標的にしていることが明らかになって来た.すなわち,低分子RNAには宿主の生体防御機構と大きく関わっているものがある.低分子RNAを使って,ウイルスやファージばかりでなく,病原性細菌などの増殖をコントロール出来る可能性についても考察する.
  • 大出 裕高
    2011 年 61 巻 1 号 p. 35-48
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     今日,HIV-1感染症の治療には20を超える薬物が使用可能となり,これらを組み合わせた多剤併用療法は,AIDSの発症率やAIDSによる死亡率を劇的に低下させた.しかし,感染ウイルスの増殖抑制に不十分な薬物量で治療が行われると,HIV-1の易変異性ゆえに感染ウイルスゲノム中に変異が蓄積し,薬剤耐性ウイルスが出現してしまう.結果,病態の悪化をもたらしたり,治療薬の変更も余儀なくさせてしまう.そこで,より適切な治療薬選択をめざし,バイオインフォマティクス技術を利用してウイルス配列情報から抗HIV-1薬の感受性を予測する方法がこれまでに開発されてきた.また,新型シークエンサーによるultra deep sequencingやin silico構造解析により,薬剤耐性の分子機序を理解する試みも行われてきた.これらバイオインフォマティクス技術は,近年のコンピュータの性能の向上もあいまって著しい発展を遂げている.本稿では,これらバイオインフォマティクス技術に基づくHIV-1の薬剤耐性研究について概説する..
  • 横山 勝
    2011 年 61 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     HIV-1 gp120のV3は,感染受容体との相互作用に中心的役割を担う.そのため本来は,機能的制約が強く作用し,アミノ酸変異は抑制されるはずである.ところがV3は高変異領域として知られる.これは,V3は免疫原性が高く,持続感染には抗原変異を必要とするため,とされる.これまで,我々はV3電荷量が中和感受性に影響することを示してきた.gp120が中和を逃避するメカニズムとして,抗原変異,立体配置による遮蔽,糖鎖による遮蔽,立体構造変化による遮蔽などが提案されている.中和を逃避する分子メカニズムが理解できれば,中和能を制御できる可能性がある.本総説では,計算科学によるHIVの中和抗体逃避機構の研究を紹介する.計算科学は,ゲノム情報に基づく多様性解析や実験科学の手法等と組み合わせることで,より有益な情報を得ることができる.
特集 HIV研究の新しい展開~第58回日本ウイルス学会シンポジウムから~
  • 川村 龍吉
    2011 年 61 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の約8割は性的接触によるものである.性行為HIV感染初期において,ウイルスは性器粘膜に曝露された後,感染局所から所属リンパ節に運ばれて宿主での永久的な感染を成立させる.近年この分野の研究が飛躍的に進み,粘膜表皮内樹状細胞であるランゲルハンス細胞が感染局所における最初のターゲット細胞であることや,CD4およびCCR5を介してHIVに感染したランゲルハンス細胞がウイルスの生体内播種にも深く関与していることがわかり,HIVの生体内侵入メカニズムが徐々に明らかとなりつつある.
  • 岩谷 靖雅
    2011 年 61 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     宿主防御因子APOBEC3 ファミリーは,細胞内に発現するシチジンデアミナーゼである.ヒトでは,7種(A,B,C,DE,F,G,H)コードされ,血球系を中心とした細胞で恒常的に発現されている.APOBEC3 は各々異なった抗ウイルス作用スペクトルを呈するが,レトロトランスポゾンやレトロウイルスなどのレトロエレメントだけでなく B型肝炎ウイルスやパルボウイルスなどの複製を阻害することが知られている.A3Gの場合には,Vifを欠損したHIV (vif (-) HIV)の複製を強力に阻害する.vif (-) HIVは,ウイルス産生細胞内で発現するA3Gを粒子内に取込む.そのため,新たな細胞に感染する時に,逆転写の過程がA3Gによって強く阻害される.一方,野生型のHIV(WT HIV)は,ウイルス産生細胞内でVifを発現し,ユビキチン・プロテアソーム系を介して選択的にA3Gを破壊し枯渇させてしまう.このため,WT HIVはA3Gをウイルス粒子に取込まず,A3Gの防御システムから逃れることができる.タンパクとしての生化学的特性を基に,A3Gの分子メカニズムを中心に,抗レトロウイルス作用機序を考察する.
  • 増田 貴夫
    2011 年 61 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     逆転写反応はウイルスが標的細胞に吸着/侵入後,一本鎖RNAゲノムを鋳型にして二本鎖DNAを合成する過程であり,レトロウイルス複製を特徴づける反応過程である.我々は,この逆転写過程で主役を演じる逆転写酵素に加えて,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)インテグラーゼが,宿主因子と協調して逆転写酵素活性を増強することを無細胞逆転写アッセイ系による解析から明らかにした.さらに,インテグラーゼの多量体形成の維持が逆転写過程での機能に重要であることを示唆する結果を得た.本稿では,逆転写酵素に加えて,インテグラーゼおよび宿主因子によるHIV-1逆転写過程の新規制御機構について概説する.
  • 岡本 尚
    2011 年 61 巻 1 号 p. 81-90
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     エイズウイルスを始めとするレトロウイルスは,宿主細胞への感染後ウイルス粒子内のRNAゲノムが細胞質でプロウイルスDNAに変換され,プロウイルスが細胞のゲノムDNAと一体化して細胞遺伝子同様にふるまう.このウイルス遺伝子の複製過程を遺伝情報の増幅過程として考えると,RNA→DNAの過程ではこの反応を担う逆転写酵素の持つRNaseHによって2本鎖目のDNAの合成される前にRNAゲノムが分解されるため,ウイルス遺伝情報量の増大はない.他方,プロウイルスDNAからの「転写」過程では宿主遺伝子と同様にmRNAの複製が同じ鋳型DNAから繰り返し起こる.しかも,エイズウイルスでは特有の転写活性化因子Tatによってこの段階が特に転写伸長過程も含めて著しく亢進している.すなわち,エイズウイルスの持つ強い感染性と個体内での激しい病原性の根底には著しく効率の高まった転写特性が存在する.
     また,エイズウイルスに感染した個体内ではウイルスが10?20年もの間潜伏感染を持続させている.この潜伏感染の維持に多数の宿主細胞由来の転写抑制因子(AP-4, YY-1など)が関わっている.他方,潜伏感染している細胞に外部から多くの要因が作用すると,宿主由来の複数の転写活性化因子(NF-?B, NFAT-1, Sp-1など)が仲介してまず転写レベルでウイルスの複製が開始される.さらに,細胞内でプロウイルスDNAを取り巻くクロマチン構造が転写活性に決定的な作用を及ぼすことが明らかになった.例えば,ある種の嫌気性菌は嫌気性解糖の最終産物として多量の酪酸を産生するが,酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を持ち,転写抑制的なクロマチン構造を構成する脱アセチル化ヒストンに作用してそのアセチル化を促す結果,潜伏感染ウイルスの転写を誘導する.
     本シンポジウムでは,演者らがこれまで報告して来た正負の作用を持つ種々の転写因子,NF-?B, Tat, AP-4およびSp1の作用に加え,クロマチン構造に関わる種々のヒストン修飾因子によるエイズプロウイルスの転写活性調節機構について総括的に報告し,これらの結果をもとに今後の新しいエイズ治療法について提案したい.
  • 櫻木 淳一
    2011 年 61 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     一般的にレトロウイルス粒子は,宿主細胞から出芽直後に粒子内ウイルスプロテアーゼが活性化し,構造蛋白Gagを切断することで初めて感染性を持った粒子となることが知られている.プロテアーゼ変異体ウイルスは粒子産生能力は正常に保持しているもののドーナツ様粒子と呼ばれる未熟な粒子を形成し,内包するゲノムRNA二量体も非常に脆弱な結合に留まっている.このように正常な粒子成熟はウイルスが感染能を獲得するために必須の過程であると考えられるが,そのメカニズムについては未だ不明な点が多く残されている.今回我々はHIV-1粒子成熟過程とウイルスゲノム成熟の関係について解析を試みた.粒子形成したGag前駆体Pr55の切断によって起こるHIV-1の成熟過程は斉一なものではなく,いくつかの段階が存在している可能性が示唆されている.我々はその情報を元に粒子成熟過程が中途段階で停止状態になる一連の変異体を作成し,粒子成熟過程におけるゲノム二量体化および粒子形態の変化についての観察を行った.その結果これらの多段階のステップは同期しつつ進行するものの,各々の転換点は完全には一致していないという興味深い知見が得られた.
平成22年杉浦賞論文
  • 谷 英樹
    2011 年 61 巻 1 号 p. 99-108
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     ウイルスは特定の生物の細胞内でのみ増殖可能な偏性細胞内寄生性微生物の一つとして定義付けられている.この性質を巧みに利用し開発されたウイルスベクターは,医学生物学の基礎研究から遺伝子治療への応用まで広範な分野で利用されている.私たちの研究グループではこれまでに,バキュロウイルスと水疱性口内炎ウイルス(VSV)の特徴を生かしたベクターの開発に取り組んできた.バキュロウイルスを用いた哺乳動物細胞用ベクターの開発により,従来のバキュロウイルスベクターより効率良く細胞や個体へ遺伝子導入することが可能となった.また,VSVを用いて,C型肝炎ウイルス,日本脳炎ウイルス,バキュロウイルス等のエンベロープ蛋白質を搭載したシュードタイプウイルスおよびこれらの遺伝子をVSVのゲノムに組み込んだ組換えVSVを作製し,エンベロープ蛋白質の性状および細胞内への侵入機構を解析した.
  • 松山 州徳
    2011 年 61 巻 1 号 p. 109-116
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2012/03/20
    ジャーナル フリー
     重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)のエンベロープ糖蛋白(S蛋白)は,宿主プロテアーゼ(トリプシン,エラスターゼ,カテプシン,TMPRSS2)に切られて活性化される.インフルエンザウイルス等多くのエンベロープウイルスもプロテアーゼを利用するが,プロテアーゼの作用する様式がSARS-CoVとは異なる.インフルエンザウイルスの場合は細胞でウイルスが作られるときエンベロープ糖蛋白(HA)がプロテアーゼに切られ「膜融合誘導可能な形」になるが,SARS-CoVの場合は「細胞侵入の瞬間」にS蛋白が切られて膜融合開始の引き金が引かれる.我々はSARS-CoVによく似たS蛋白を持つマウス肝炎ウイルス(MHV-2)を用いて,S蛋白は二段階の構造変化をすることを検出した.まずS蛋白はレセプターに結合すると安定した三量体を形成し,Fusion Peptideを露出させ,細胞膜に突き刺さる.続いてプロテアーゼにより開裂を受け,内部のヘリックス構造を引きつけることによりウイルスと細胞の膜を引き寄せ,融合させると考えられる.このメカニズムはウイルスにとって標的細胞で確実に膜融合を誘導できる効率の良い仕組みである.
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