杏林医学会雑誌
Online ISSN : 1349-886X
Print ISSN : 0368-5829
ISSN-L : 0368-5829
51 巻, 3 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
症例報告
  • 森久保 美保, 福原 大介, 楊 國昌
    2020 年 51 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    化膿性脊椎炎は,小児では稀な疾患だが,その臨床症状は非特異的であることから,診断は困難である。症例は9歳女児で,発熱・腰背部痛を主訴に入院した。血液検査では,WBC 8600/µl,CRP 4.6 mg/dlと炎症反応の上昇は軽度であった。画像検査については,造影CTでL4椎体に溶骨性変化が観察された。さらに,MRIにより,T1強調像でL3とL4椎体およびL3/L4椎間板に低信号域を認め,脂肪抑制併用T2強調像ではL4椎体上縁に高信号域を認めたことから,腰椎化膿性脊椎炎と診断した。血液培養からMSSAが検出されたため,計6週間のセフェム系抗菌薬の静注で加療を行った。発熱と腰痛は速やかに消失し,症状の再燃はなく,後遺症も認めていない。化膿性脊椎炎は重症化すると椎体変形など不可逆性の後遺症を残すこともあり,早期診断・治療が必要である。

  • 濵野 祥子, 那須 ゆかり, 細井 健一郎, 小倉 航, 牧野 博, 大西 宏明, 楊 國昌
    2020 年 51 巻 3 号 p. 163-168
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    胎児水腫の原因として母児間血液型不適合妊娠による胎児貧血が知られている。胎児貧血の重症化リスクが高い血液型不適合妊娠では,慎重な周産期管理が必要とされる。今回,重症化リスクが低いとされる抗Jra抗体陽性の血液型不適合妊娠により胎児水腫を呈した一例を経験した。母体は34歳,3妊2産,O型Rh(+)であり,妊娠28週の健診で胎児水腫を指摘された。妊娠29週に当院へ搬送され,重症胎児貧血の診断で緊急帝王切開術を施行された。児はO型Rh(+)であり,出生後の血液検査でHb 4.4 g/dlであった。母児の輸血関連検査,遺伝子検査の結果より,抗Jra抗体による胎児水腫,胎児貧血と診断した。一部の抗Jra抗体陽性の血液型不適合妊娠では造血抑制作用により,重症胎児貧血,胎児水腫を呈することがあるとされる。今後,抗Jra抗体陽性の血液型不適合妊娠症例を集積し,周産期管理方針の検討を行う必要がある。

総説
  • 島田 厚良
    2020 年 51 巻 3 号 p. 169-177
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    脳は生理条件下において免疫系との相互作用により機能調節を行う。しかしながら,脳細胞と免疫細胞が細胞間相互作用を行う頭蓋内の部位についての研究が進んだのは最近のことである。我々は髄膜,脈絡叢間質および上皮,脈絡叢付着部,アストロサイト終足,脳血管周囲腔および血管内皮から構成される一連の組織学的構築が,炎症の無い条件下で脳と免疫系の細胞間相互作用を可能にするインターフェイスであることを,骨髄キメラマウスを用いて明らかにした。次いで,このインターフェイスに存在する脳実質外の細胞群は全身性炎症の際にはいち早く急性応答してサイトカインを産生すること,その応答が脳実質のアストロサイトにサイトカイン産生を誘導して脳組織微小環境を変化させることを突き止めた。この総説では,脳免疫連関に機能的に関与する頭蓋内組織の構築原理について,自らの研究成果をもとに論述する。

  • 上田 真樹子, 相磯 聡子
    2020 年 51 巻 3 号 p. 179-186
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    microRNA(miRNA)は22塩基程度の調節性non-coding RNAであり,ヒトでは約2600種類が同定されている。近年,多くのmiRNA deep sequencing解析が行われ,多様なisoform(isomiR)の存在が明らかになった。このうち本稿では,2つのRNAプロセシング酵素DroshaとDicerによる切断部位の揺らぎによって生じるisomiRに着目する。いくつかの疾患において,特定のisomiRの発現が著しく変化するとの報告もあり,新たなバイオマーカーとして期待される。また,miRNAの末端の長さの違いは標的mRNAの認識にも影響を及ぼすことから,調節性RNAとしての新たな機能も暗示される。本稿ではisomiRの最近の知見を述べるとともに,isomiR定量における課題についてもふれる。

特集「ここまできたがん免疫療法」
  • 長島 文夫
    2020 年 51 巻 3 号 p. 187
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー
  • 緒方 貴次, 坂東 英明
    2020 年 51 巻 3 号 p. 189-194
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    近年がん免疫療法が脚光を浴び,免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が進んでいる。2020年6月時点で使用可能な免疫チェックポイント阻害薬は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体が6種類となっており,がん種によっては他剤との併用についても承認されている。しかし,免疫チェックポイント阻害薬は効果のある症例が限定的であり,致死的な有害事象が出現する可能性もあることから,効果の期待できる症例を選択することが課題となっている。高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)やtumor mutational burden高値,PD-L1の高発現などが有効なバイオマーカーとして報告され,臨床試験ではtumor-infiltrating lymphocytes,腸内細菌叢やヒト白血球型抗原タイプなどがバイオマーカーの候補として研究されている。特にMSI-Hを有する全固形癌にペムブロリズマブが薬事承認されており,国内初の臓器横断的な承認であり,今後の薬剤開発にも重要であった。また,免疫チェックポイント阻害薬を投与することで急速に腫瘍が増大することがあり,そのような症例は非常に予後不良であることから急速増大を予測するバイオマーカーも検討されている。

  • 東 剛司
    2020 年 51 巻 3 号 p. 195-200
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    癌に対する免疫療法が注目を浴びている。しかし,今まではあまり関心をもたれていなかった。従って,医師の中でもよく知られていない部分も多い。そこで,基本的な事項を押さえ,かつ今後の開発の方向も含めた解説をしたい。
    人の免疫機構は,自然免疫と獲得免疫に分類される。獲得免疫は,さらに液性免疫と細胞性免疫に分類される。液性免疫は,Bリンパ球により産生される抗体を介した反応である。一方,細胞性免疫はTリンパ球,特にCD8陽性Tリンパ球による殺細胞効果を主に意味している。Immune checkpoint 阻害薬を理解するに際し,CD8陽性Tリンパ球を理解することが重要になる。
    イムノチェックポイント阻害薬の奏効率は高々2-3割である。そのため,奏効率の改善のために既存の免疫療法と現在開発中の新たなImmune checkpoint 阻害薬を併用が模索されている。これらの有用な治療法の開発には,Immune checkpoint 阻害薬の作用機序を十分理解することが必要である。例えば,腫瘍内にリンパ球浸潤を認めれば,Effector phaseを標的とした治療薬を投与すべきである。逆に腫瘍内へのリンパ球浸潤を認めなければ,Priming phaseあるいは,遊走を標的とする免疫療法を含めた治療法を組み合わせるべきであると考えられる。近い将来,このような考察により最も適した免疫療法あるは併用療法の選択が可能になり,個別化免疫療法が行われる日が来ると考えられている。

  • 水谷 友紀
    2020 年 51 巻 3 号 p. 201-205
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    2000年頃までは,進行期の非小細胞肺癌(Non-small-cell lung cancer : NSCLC)および小細胞肺癌(Small cell lung cancer)の治療薬は細胞障害性抗がん薬が中心であったが,生存期間中央値は1年にも満たず,また重篤な有害事象が出現することが多かった。しかし,2002年に上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬が登場してからNSCLCの予後は飛躍的に延び,細胞障害性抗がん薬と比較して重篤な有害事象も少なくなった。2010年代中盤に入り,抗Programmed cell death 1(PD-1)/抗(PD-1 ligand 1)PD-L1抗体,抗cytotoxic T-lymphocyte associated protein-4(CTLA-4)抗体といった免疫チェックポイントを標的とした抗体療法が登場し,これまでの標準治療が塗り替えられつつある。以前は,進行期NSCLCで5年間生存している患者はほとんど存在していなかったが,PD-1/PD-L1阻害薬単独または他剤との併用にて,長期生存する患者も一定数存在するようになっており,またED-SCLCにおいては,約20年ぶりに新規レジメンが登場している。しかし,どのような集団にPD-1/PD-L1阻害薬を投与すべきかが確立されていないため,今後は対象をより適切に選択する指標を作成することが重要である。

  • 岡本 渉
    2020 年 51 巻 3 号 p. 207-213
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    免疫チェックポイント阻害剤とくに抗PD-1/PD-L1抗体は,幅広い癌種において有効性が確認され,適応癌種が拡大している。消化器癌に対して,本邦では化学療法既治療の食道癌,胃癌,大腸癌の一部に抗PD-1抗体単剤療法が使用可能である(2020年8月現在)。また,肝細胞癌,胃癌,食道癌,大腸癌の一部においては,初回治療における免疫チェックポイント阻害剤単剤または併用療法の有効性が示されており,本邦でも近く使用可能となることが見込まれる。免疫チェックポイント阻害剤は,有効な症例には長期の効果が得られるものの,有効な患者は限定的であることから,免疫チェックポイント阻害剤の治療選択に有益なバイオマーカーの同定が望まれる。

  • 佐藤 大, 齋藤 康一郎
    2020 年 51 巻 3 号 p. 215-219
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    頭頸部癌においては,根治治療の根幹は現在においても手術療法と放射線療法であるが,局所進行癌に対する機能温存や再発予防をめざし薬物療法を使用する事も多い。また局所治療の適応がない再発症例や遠隔転移症例に関しては薬物療法が主体となる。近年の薬物療法の進歩は目覚ましく,シスプラチンに代表されるプラチナ製剤を中心とした抗癌剤治療が中心となっていた頭頸部癌薬物治療は大きく変化してきている。2008年に報告されたEXTREME試験によって,5-FU+プラチナ製剤にセツキシマブを加えた併用療法が再発・転移頭頸部癌における一次治療の標準治療となったが,免疫チェックポイント阻害剤の登場により,極めて予後不良とされていたプラチナ抵抗性の頭頸部癌に対する治療の選択肢が増え,従来の治療では得られなかった長期にわたる病勢抑制や長期生存も可能になってきた。現在まで,適応が承認されている免疫チェックポイント阻害薬はニボルマブとペンブロリズマブの2剤であるが,その他の免疫チェックポイント阻害薬の併用治療や放射線治療との併用治療の臨床試験も既に実施中,あるいは予定されており,当領域の治療体系もさらに変化していくと考えられる。

  • 臼井 浩明
    2020 年 51 巻 3 号 p. 221-227
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    免疫チェックポイント阻害薬(以下,ICI)による有害事象は免疫関連有害事象(以下,irAE)と言われ,自己免疫疾患(以下,AID)に類似した炎症性の病態を示し,あらゆる臓器・器官で発生する可能性がある。代表的なirAEに腸炎,肝障害,内分泌障害,皮膚障害がある。抗CTLA-4治療では大腸炎や下垂体炎の頻度が高く,抗PD-1治療では多彩だが間質性肺炎や甲状腺炎の頻度が高く,ICI併用療法ではより頻度が高い。irAEの発症時期は投与開始数か月以内が多いが,投与終了後に発症することもある。irAEのリスク因子は特定されておらず,AID併存患者で頻度が高くなる報告があるがデータが不足している。irAEのマネジメントには詳細な問診と病歴聴取,身体所見,検査所見からirAEを除外診断し,ASCO等のガイドラインから重症度評価し,各Gradeに沿った対応が推奨される。irAEの重症度がGrade2以上で副腎皮質ホルモンの開始を考慮し,副腎皮質ホルモン抵抗性の場合は免疫抑制薬の使用を考慮する。当院の取り組みとして多職種合同勉強会を開催し,各診療科との連携体制を整え,ICI重篤有害事象対策項目,irAE問診票を作成した。薬剤師の役割としては医師・看護師と協力し,安全な診療体制確保のためにマニュアル整備,医療者への情報提供,患者・家族へのirAEの指導と有害事象評価,ICI投与可否や併診の提案といった診療支援が重要である。

  • 田中 利明
    2020 年 51 巻 3 号 p. 229-238
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAE)の中で内分泌障害の頻度は比較的高く,内分泌臓器に対する自己免疫の活性化により下垂体機能低下症,甲状腺機能障害,副腎皮質機能不全,1型糖尿病などを発症すると考えられている。また,免疫チェックポイント阻害薬の適応は様々な悪性腫瘍に拡大しており,多くの専門領域の医師がその副作用に直面する可能性がある。内分泌irAEの症状は多彩であり,その症状から原因内分泌臓器を特定する事は容易ではない。特に,全身倦怠感や食欲低下などは治療中の担がん患者でしばしば見られる症状であり,内分泌障害による症状とは気付かれにくい。また,その対処にはホルモン補充療法に関する知識と経験が必要である。これまで報告されている内分泌irAEは下垂体,甲状腺,膵,副腎,副甲状腺と多数の内分泌臓器で認められるが,なかでも頻度が高いのが抗CTLA-4抗体による下垂体機能低下症と抗PD-1抗体による甲状腺機能障害である。しかしこれらの報告のほとんどは治験データに基づくものであり,それぞれの内分泌障害の診断基準も定まってないため,正確な頻度や発症時期などの臨床的特徴については施設間でのばらつきが大きく不明な点も多い。今回,内分泌irAEを各主要内分泌臓器に分けて解説する。

  • 市川 弥生子
    2020 年 51 巻 3 号 p. 239-245
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2020/10/05
    ジャーナル フリー

    免疫チェックポイント阻害薬の神経領域における副作用は,頻度は低いが,病変が中枢神経から末梢神経,神経筋接合部,骨格筋にまでおよび,多彩であることが特徴である。がんの直接浸潤や傍腫瘍性神経症候群,過去のがん治療における副作用の影響も考慮しなければならず,免疫チェックポイント阻害薬を起因とする有害事象の診断は容易ではない。
    免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象には,自己免疫性脳炎,重症筋無力症,筋炎,Guillain-Barré症候群のような重症化しやすい疾患が含まれる。これらの疾患が,通常の神経内科臨床とは異なる病像をとりうること,急速に進行し,重篤な経過をとることに注意が必要である。神経系の免疫関連有害事象に,ステロイドを主体とした免疫抑制治療は有効であり,迅速な診断と,適切な治療が求められる。がん専門医と脳神経内科医とで診療にあたる必要がある。

特集「公認心理師」Part 2
特集「放射線治療の進歩 〜日常臨床から重粒子線治療,免疫療法まで」Part 2
feedback
Top