2019年6月、オーストラリアの公共放送ABC(Australian Broadcasting Corporation,オーストラリア放送協会)に対し、連邦警察が家宅捜索をおこなった。発端は「オーストラリア軍によるアフガニスタン市民殺害」報道。連邦警察は、ABCが軍の機密文書を入手・公表したことを問題視した。この捜索に対し、メディア各社は、国民の"知る権利"を脅かす行為として強く反発した。
これを受け、連邦議会は"知る権利"と"国家安全保障"のバランスが適正に保たれているかを調査する委員会を設け、メディアや政府機関に対し、見解を求めた。
本稿では、調査委員会に提出された文書などから、機密保護関連法を巡る過去の経緯を整理、主要な論点を抽出した。その結果、同国の機密保護関連法は近年、追加・修正が繰り返され、報道に対する厳しさが増してきたこと、そのことを法律の専門家が問題視し、是正を勧告していたことが示された。
一方、政府は、同盟国からの信頼を得るため等の理由から、機密保護は厳密に行われるべきであり、法の厳格化は当然と考えていることがわかった。
また、こうした機密保護関連法の厳格化は世界的な広がりを見せているという専門家もいる。その専門家からは、民主主義諸国においても"知る権利"が将来、より抑制される可能性があることが示唆された。
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