参議院選挙を2日後に控えた2022年7月8日、奈良市の駅前で街頭演説をしていた安倍元総理大臣が銃撃され死亡した。総理大臣の在任期間が歴代最長の8年8か月におよび、退任後も大きな発言力・影響力を持っていた安倍氏の突然の死。日本のみならず世界にも大きな衝撃を与えた。事件が選挙期間中に起きたことから当初は政治的テロではないかとの見方も出た。しかし、逮捕された容疑者の供述から注目されるようになったのは、「世界平和統一家庭連合」、旧統一教会と政治家との関係である。一方、政府は安倍氏の国葬を決めたが、その賛否を巡り世論を二分する状況が生まれた。本稿は事件が発生した7月8日のテレビ報道に焦点を絞り、その報道内容を調査・分析するものである。NHKと民放キー局の合計60時間におよぶ放送を視聴したうえで、事件の一報が入ったあとの初動の対応について、アナウンサーのインタビューを交えて掘り下げた。また、事件はなぜ防げなかったのかという観点で各局が進めた「警備態勢の検証」など、当日の報道内容についても分析を進めた。さらに安倍氏の死亡が伝えられたあと「政治家安倍晋三」について各局がどのように表象したかについても分析した。そこからは安倍氏の「存在感」や「功罪半ば」といったキーワードが浮かび上がった。本稿脱稿時点は安倍氏の国葬が行われる前で、旧統一教会と政治家をめぐる問題についても事態は進行中である。この2点は、今回の事件がもたらした日本社会の一断面を考察するうえで重要なテーマであり今後の継続課題と位置付ける。
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